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第2編 消えた人々の行方
帰宅
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「ただいま戻りました。ウォルターさま、お父さま」
ジャンティーが部屋に戻ると、ちょうど夕食前だった。
「おかえり、ジャンティー」
シャルルがジャンティーに微笑みかける。
「久しぶりの街はどうだったかな?」
ウォルターが好奇心のこもった声色で聞いてきた。
いくらよそ者を好まない気質の彼でも、街の様子だとか、行ったことのない場所の話は気になるようだった。
「何ひとつ変わっていませんでした。それと、以前お世話になった親方と仕事仲間に会いました」
ジャンティーは重たいロングコートを脱ぐと、椅子の背もたれにかけた。
ここでウォルターは、あることに気がついた。
「おや、ジャンティー。腕輪はどうしたんだい?」
ウォルターに言われて、ジャンティーが自分の腕を確認する。
言われた通り、確かにそこについていた腕輪がなくなっている。
「あれ…申し訳ございません、ウォルター様。街に行ったときに落としてしまったのかも。取りに戻りますから、2人とも先にお食事召し上がってくださいませ」
「それは明日でもいいだろう。今日はもう遅い」
もう一度街に向かおうとしたジャンティーを、ウォルターが呼び止める。
「ウォルター殿の言う通りだよ。道も暗くなっているだろうし、あんなに小さいものはそう簡単には見つからないだろうから、明るくなってから探した方が得策ではないかい?」
シャルルもウォルターに同調して、待ったをかける。
「でも、もしも見つからなかったら……」
「あんなもの、ひとつ無くなったくらいでお前が気を揉むことことは無い。欲しくなったら、また新しいのをくれてやる」
不安そうな顔をするジャンティーに、ウォルターが微笑みかける、
「ウォルター様がそうおっしゃるなら、今日はやめておきます。でも、ウォルターからいただいたものをなくしたままにするのは気が済みません。だから、明日をになるのを待ちますね」
「そうかい。では明日は私も同行しようかな?」
「うーん…」
ウォルターの提案に、ジャンティーは言葉を濁した。
「嫌なのかい?」
「想像したら、なんだか恥ずかしいです」
ジャンティーの頬がほんのりピンクに染まる。
あの街を人目があるところでウォルターと歩くなんて、考えられない。
誰より格段に美しいウォルターだから、街中ではかなり目立つだろう。
「構わないじゃないか、ジャンティー。たまには2人きりでどこか出かけておいで」
「ええ、いつか行きましょう」
「いつかっていつだい?」
「いつでもいいでしょう?」
特に意味を成さない応酬が、しばらく続いた。
──────────────────────
3人が食事を楽しんでいる頃、モールは東の街にある質屋にいた。
「オヤジ、これいくらだ?」
「なかなか高価で貴重な代物だよ。そら、代金だ」
質屋の主人は、受け取った質入れ品と引き換えに金貨を渡した。
「こんなに……ありがとよ、ダンナ!」
その金額の大きさに驚きつつ、モールは金貨を受け取ると、急ぎ足で質屋を出ていった。
質屋の主人の手には、金の装飾で囲まれたカイヤナイトのブレスレットが握られていた。
ジャンティーが部屋に戻ると、ちょうど夕食前だった。
「おかえり、ジャンティー」
シャルルがジャンティーに微笑みかける。
「久しぶりの街はどうだったかな?」
ウォルターが好奇心のこもった声色で聞いてきた。
いくらよそ者を好まない気質の彼でも、街の様子だとか、行ったことのない場所の話は気になるようだった。
「何ひとつ変わっていませんでした。それと、以前お世話になった親方と仕事仲間に会いました」
ジャンティーは重たいロングコートを脱ぐと、椅子の背もたれにかけた。
ここでウォルターは、あることに気がついた。
「おや、ジャンティー。腕輪はどうしたんだい?」
ウォルターに言われて、ジャンティーが自分の腕を確認する。
言われた通り、確かにそこについていた腕輪がなくなっている。
「あれ…申し訳ございません、ウォルター様。街に行ったときに落としてしまったのかも。取りに戻りますから、2人とも先にお食事召し上がってくださいませ」
「それは明日でもいいだろう。今日はもう遅い」
もう一度街に向かおうとしたジャンティーを、ウォルターが呼び止める。
「ウォルター殿の言う通りだよ。道も暗くなっているだろうし、あんなに小さいものはそう簡単には見つからないだろうから、明るくなってから探した方が得策ではないかい?」
シャルルもウォルターに同調して、待ったをかける。
「でも、もしも見つからなかったら……」
「あんなもの、ひとつ無くなったくらいでお前が気を揉むことことは無い。欲しくなったら、また新しいのをくれてやる」
不安そうな顔をするジャンティーに、ウォルターが微笑みかける、
「ウォルター様がそうおっしゃるなら、今日はやめておきます。でも、ウォルターからいただいたものをなくしたままにするのは気が済みません。だから、明日をになるのを待ちますね」
「そうかい。では明日は私も同行しようかな?」
「うーん…」
ウォルターの提案に、ジャンティーは言葉を濁した。
「嫌なのかい?」
「想像したら、なんだか恥ずかしいです」
ジャンティーの頬がほんのりピンクに染まる。
あの街を人目があるところでウォルターと歩くなんて、考えられない。
誰より格段に美しいウォルターだから、街中ではかなり目立つだろう。
「構わないじゃないか、ジャンティー。たまには2人きりでどこか出かけておいで」
「ええ、いつか行きましょう」
「いつかっていつだい?」
「いつでもいいでしょう?」
特に意味を成さない応酬が、しばらく続いた。
──────────────────────
3人が食事を楽しんでいる頃、モールは東の街にある質屋にいた。
「オヤジ、これいくらだ?」
「なかなか高価で貴重な代物だよ。そら、代金だ」
質屋の主人は、受け取った質入れ品と引き換えに金貨を渡した。
「こんなに……ありがとよ、ダンナ!」
その金額の大きさに驚きつつ、モールは金貨を受け取ると、急ぎ足で質屋を出ていった。
質屋の主人の手には、金の装飾で囲まれたカイヤナイトのブレスレットが握られていた。
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