ハートの瞳が止まらない

若目

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焦り

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真広はさらに目を凝らして、4人グループを見つめた。
あれは、肥留間と別の学部の友人たちだ。

真広は別の方向を向いて、肥留間から顔を背けた。
五井と一緒にいるところを見られたら、なんだかマズい気がする。
顔を見られないように気をつけなきゃ。
そんな気持ちが先に立ってしまって、真広はエスカレーターを降りるタイミングを誤り、危うく転びそうになった。

「おい、大丈夫か?」
よろめいた真広を見て、五井が心配そうに顔を覗きこむ。
「大丈夫です。ごめんなさい、その、ちょっと考えてごとしてて…」
「気をつけてね」
「はい…」
なんだか恥ずかしくなって、真広は小さな声で返事した。

4階のフロアに着くと、五井が電光掲示板の前まで足を進めたので、真広もついて行った。
「何か見たい作品はあるかな?」
「うーん…五井さんは?」
気になる作品はいくつかあるが、五井がどんな映画を好むのかの方が気になって、真広は思わず質問に質問で返した。
「特に無いな。キミが決めてくれ」
「えー…」
決めてくれと言われると、真広は困ってしまう。
子どもの頃からそうだ。
選択肢がいくつもあると、なかなか決められなくて、しばらく考え込んでしまう。

「……えっと、じゃあ、アレとかどうですかね?」
真広は、電光掲示板の一番上に表示されたアニメ映画のタイトルを指さした。
「そうだな、知り合いから面白かったって聞いたし、もうすぐ始まるし。ちょうどいいな、アレにしよう」
それを聞いた真広はホッとした。
大人が見ても楽しめる内容だとの評判を聞いたことがあるのでそれを選んだのだけど、もし五井に難色を示されたらどうしようと思ってもいたから、少し不安だったのだ。
こんなときにアニメ映画なんて、五井にはちょっと子どもっぽい気がする。

──ていうか、五井さんの映画の好みとか、食べ物の好みとか、家族とか、ぜんぜん知らないな…

よく考えてみると、真広はいまだに五井のことを詳しく知らない。
名前や職業だって最近知ったばかりだし、五井が自分をどう思っているのかいまだにわからない。
知ってみたい気持ちは常にあるのだけど、五井からしてみれば自分との今までのやりとりなんて、単なる暇つぶしくらいにしか思っていないのかもしれないし、アレコレ深追いして気を悪くされるのが怖くて、なかなか踏み込めない。

それこそ、五井が今日は映画に行こうと言い出した意図もわからない。
勃たないから、なんて言うなら追い返してもいいものを、わざわざ車を出して少し遠くのショッピングモールまで連れて行ってくれるあたり、悪く思われてはいないのだろう。
その点に限っては、嬉しく思う。

「ほら、これ持って」
真広の煩悶をよそに、五井は手早く2人分のチケットを購入すると、うち1枚を真広に渡した。
「えっ…あっ、ありがとうございます。あ、あの、ぼく、学生料金ですけど…」
チケットに表示された「一般」と料金を見て、真広はあわてて知らせた。
「え?ああ、そうか。そうだったな。まあいいだろう。それより、何か買おう。喉乾いてないか?汗かいてるし顔真っ赤だよ」
五井の手が、真広の頬に伸びてくる。


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