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3章 恋の証明
19 父への電話
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それから数日間は母がそわそわして落ち着かなかった。
私が父に連絡をとるのを今か今かと待っているのだろうけど。
だからと言って、母のいる所で父に電話をするなんてとてもできなかったから電話をする時は家を出た。
土曜日の午前中、散歩がてらにかけた電話は繋がらなかった。
正直、母からもらった番号が本当に存在するのか疑っていたから、かかっただけ良かった。
また明日も電話しなきゃ。
父に会うことを躊躇っていた気持ちはもう無い。
母から「父親に会いに行きなさい」なんて言われることは、この先あるかわからない。
母公認で父に会える機会があるなら逃してはいけない気がしていた。
日中は働いていることを考慮して週末を選んだけど、土日に電話が繋がらなければ平日の夜にかけるか、母から父の住所を聞く必要もあるかもしれない。
このままずっと電話が繋がらなかった場合の心配もしていたけれど、それは杞憂に終わった。
意気込む私の思いに応えるように、その日の夜には父から折り返しの電話がかかってきた。
母がお風呂に入っていることを確認してから、慌てて自分の部屋で電話に出る。
「もしもし……」
『田崎です。本日は電話に出られず申し訳ございませんでした。何のご用でしたか』
電話の主は父の苗字を名乗った。
本人に間違いなかった。
事務的な口調、父は仕事関係の着信があったと思っているようだ。
耳をすませば、微かだけど遠くでテレビの音と女性の笑い声が聞こえる気がする。
あぁ……やっぱり、家族がいるんだ……。
指先から体が冷たくなっていくような感覚が広がる。
電話をかけているのが母ではなくて自分で良かった……。
「あの……私……」
『……もしかして有美ちゃん?』
私の声を聞くや否や、父は小声を焦るように上ずらせた。
私と母を勘違いしたのか、父が場所を変えている気配がする。
「違う。私です、美亜です」
『美亜?』
私が電話をかけてきたのが意外だったのか、驚きを孕んだ声が電話口から響く。
『……久しぶり……というのも変な感じだね。元気にしている? ……どうしたの? 番号はお母さんから聞いたのかな?』
父は戸惑いつつも相手が私だとわかって、少し落ち着きを取り戻したような気がした。
きっと未だに母と話すことは苦手なんだ。
「会って話がしたいと思って……」
端的にそれだけ伝える。
父も温度の無い私の声から心境を察したのか、当たり障りの無い受け答えをするのはやめた。
その後は淡々と会う日時だけを取り付けて電話を切った。
通話を終えるとドッと体の力が抜けて、自分が思っていたよりもずっと緊張していたことを知る。
ベッドの上にスマホと体を投げ出して、枕に顔を埋めた。
会いたいと言っても拒否されなかったし、快く会ってもらえることになったんだから良かった……。
気を使って私に話す父の声を思い出して、私ももっと愛想よく話すべきだったのかな……とほろ苦い気持ちになる。
それでも、言いようのない父への嫌悪感が押さえ切れなくて、苦しかった。
私が父に連絡をとるのを今か今かと待っているのだろうけど。
だからと言って、母のいる所で父に電話をするなんてとてもできなかったから電話をする時は家を出た。
土曜日の午前中、散歩がてらにかけた電話は繋がらなかった。
正直、母からもらった番号が本当に存在するのか疑っていたから、かかっただけ良かった。
また明日も電話しなきゃ。
父に会うことを躊躇っていた気持ちはもう無い。
母から「父親に会いに行きなさい」なんて言われることは、この先あるかわからない。
母公認で父に会える機会があるなら逃してはいけない気がしていた。
日中は働いていることを考慮して週末を選んだけど、土日に電話が繋がらなければ平日の夜にかけるか、母から父の住所を聞く必要もあるかもしれない。
このままずっと電話が繋がらなかった場合の心配もしていたけれど、それは杞憂に終わった。
意気込む私の思いに応えるように、その日の夜には父から折り返しの電話がかかってきた。
母がお風呂に入っていることを確認してから、慌てて自分の部屋で電話に出る。
「もしもし……」
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本人に間違いなかった。
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耳をすませば、微かだけど遠くでテレビの音と女性の笑い声が聞こえる気がする。
あぁ……やっぱり、家族がいるんだ……。
指先から体が冷たくなっていくような感覚が広がる。
電話をかけているのが母ではなくて自分で良かった……。
「あの……私……」
『……もしかして有美ちゃん?』
私の声を聞くや否や、父は小声を焦るように上ずらせた。
私と母を勘違いしたのか、父が場所を変えている気配がする。
「違う。私です、美亜です」
『美亜?』
私が電話をかけてきたのが意外だったのか、驚きを孕んだ声が電話口から響く。
『……久しぶり……というのも変な感じだね。元気にしている? ……どうしたの? 番号はお母さんから聞いたのかな?』
父は戸惑いつつも相手が私だとわかって、少し落ち着きを取り戻したような気がした。
きっと未だに母と話すことは苦手なんだ。
「会って話がしたいと思って……」
端的にそれだけ伝える。
父も温度の無い私の声から心境を察したのか、当たり障りの無い受け答えをするのはやめた。
その後は淡々と会う日時だけを取り付けて電話を切った。
通話を終えるとドッと体の力が抜けて、自分が思っていたよりもずっと緊張していたことを知る。
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会いたいと言っても拒否されなかったし、快く会ってもらえることになったんだから良かった……。
気を使って私に話す父の声を思い出して、私ももっと愛想よく話すべきだったのかな……とほろ苦い気持ちになる。
それでも、言いようのない父への嫌悪感が押さえ切れなくて、苦しかった。
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