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はじまり
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思い返してみると、私の人生良いことなんて一つも無かった。
不幸な星の下に生まれた人間に幸せは訪れないということなのだろうか。
失う物も無い、悲しむ人も居ない私の最期もまた、これが一番正しい選択なのかもしれない。
「……生まれ変わったら……幸せになれるのかな?」
深夜、繁華街から少し外れた裏通りにある廃ビルの屋上へ上がって来た私は、壊れたフェンスを越えて建物の縁に立つ。
段差があって、そこを登れば最後。
それより先に足場は無い。
ここへ来るまでは月や星が夜空を照らしていたのだけど、今はちょうど雲で隠れて見えなくなっていて、まるで私の心みたいに真っ暗闇。
ひとまず段差に登らず恐る恐る下に視線を向けると、この下はビルとビルの間の細い通路なので人も通ることが無いゴミ溜めのような場所ということもあって、地面すら見えない混沌とした暗闇が広がっていた。
だけど、地面が見えるより、きっと見えない方がいい。
その方が飛び降りる勇気も出るだろうから。
一度そこから離れ、持っていたハンドバッグと履いていた靴を揃えて置いた私は、震える身体でもう一度縁へと立とうとしたそんな時、少し離れた場所からゴホゴホと咳き込む声が聞こえてきた事で私は動きを止めた。
「……誰か、居るの?」
辺りも暗闇に包まれているので何も見えず、不安に駆られた私は弱々しい声で問い掛けた。
すると、
「――止めとけよ、飛び降りなんて」
そんな声と共に暗闇から一人の男の人が姿を現した。
ちょうど翳っていた月が顔を見せ、その明かりがまるでスポットライトのように彼を照らす。
背が高く、スタイルもいい彼は一瞬芸能人かと見間違うくらいに惹き付けられる。
前下がりの刈り上げマッシュに少しパーマがかった黒髪、左の耳に一つ、シンプルなピアスが付いていて、中でも切れ長の瞳がとても印象的だった。
そんな彼をよく見てみると、顔にはいくつもの傷があり、頬も少し腫れているだけではなく、右の唇の端は切れていて血が滲んでいる。
そして、こちらへ近付いて来る途中、お腹を抑えながら顔を歪ませてその場に崩れ落ちていく傷だらけの彼を放っておけなかった私は急いで駆け寄った。
「大丈夫ですか!?」
「……っ、ああ、平気だ……」
「平気って……血が!」
抑えていたお腹の方に視線を移すと、スーツのボタンが外れて下に着ているYシャツが赤く染まっていることに気付いて思わず声を上げた。
「古傷が少し開いただけだ……問題ねぇよ」
そう言いながらもやはり傷が痛むらしく、額には汗が浮かび、それがポタポタと垂れていく。
私は手を伸ばして置いてあったハンドバッグを取ると、そこからハンカチを取り出して彼の額の汗を拭った。
「……悪ぃな……」
「いえ……その、早く病院に行った方がいいと思います……救急車、呼びましょうか?」
「いらねぇよ。少し休めば良くなる」
「いや、無理ですよね? 血が出てるし、早く手当てをしないと……」
「血はとっくに止まってるから問題ねぇよ。んな事より、お前こそ考え直せよ。死んだら悲しむ奴だっているだろ?」
「…………そんな人、いません。私が死んでも、悲しむ人なんていないんです。だから、いいんです」
「いや、よくねぇだろ。つーか一旦落ち着けよ。な? お前……家族は?」
「いません」
「家は?」
「引き払いました」
「仕事は?」
「辞めました」
「……名前は? 歳はいくつだ?」
「……雛瀬 心、二十歳です」
「……訳ありなのは分かった。けどな、だからって何も死ぬことはねぇだろ?」
「居場所が無いのに、生きている意味もありません」
「居場所がねぇなら、探せばいい」
「……無理ですよ、そんなの」
「無理じゃねぇよ。つーか、やりもしねーで無理とか言うな」
急に説教じみたことを言い出した彼。
不幸な星の下に生まれた人間に幸せは訪れないということなのだろうか。
失う物も無い、悲しむ人も居ない私の最期もまた、これが一番正しい選択なのかもしれない。
「……生まれ変わったら……幸せになれるのかな?」
深夜、繁華街から少し外れた裏通りにある廃ビルの屋上へ上がって来た私は、壊れたフェンスを越えて建物の縁に立つ。
段差があって、そこを登れば最後。
それより先に足場は無い。
ここへ来るまでは月や星が夜空を照らしていたのだけど、今はちょうど雲で隠れて見えなくなっていて、まるで私の心みたいに真っ暗闇。
ひとまず段差に登らず恐る恐る下に視線を向けると、この下はビルとビルの間の細い通路なので人も通ることが無いゴミ溜めのような場所ということもあって、地面すら見えない混沌とした暗闇が広がっていた。
だけど、地面が見えるより、きっと見えない方がいい。
その方が飛び降りる勇気も出るだろうから。
一度そこから離れ、持っていたハンドバッグと履いていた靴を揃えて置いた私は、震える身体でもう一度縁へと立とうとしたそんな時、少し離れた場所からゴホゴホと咳き込む声が聞こえてきた事で私は動きを止めた。
「……誰か、居るの?」
辺りも暗闇に包まれているので何も見えず、不安に駆られた私は弱々しい声で問い掛けた。
すると、
「――止めとけよ、飛び降りなんて」
そんな声と共に暗闇から一人の男の人が姿を現した。
ちょうど翳っていた月が顔を見せ、その明かりがまるでスポットライトのように彼を照らす。
背が高く、スタイルもいい彼は一瞬芸能人かと見間違うくらいに惹き付けられる。
前下がりの刈り上げマッシュに少しパーマがかった黒髪、左の耳に一つ、シンプルなピアスが付いていて、中でも切れ長の瞳がとても印象的だった。
そんな彼をよく見てみると、顔にはいくつもの傷があり、頬も少し腫れているだけではなく、右の唇の端は切れていて血が滲んでいる。
そして、こちらへ近付いて来る途中、お腹を抑えながら顔を歪ませてその場に崩れ落ちていく傷だらけの彼を放っておけなかった私は急いで駆け寄った。
「大丈夫ですか!?」
「……っ、ああ、平気だ……」
「平気って……血が!」
抑えていたお腹の方に視線を移すと、スーツのボタンが外れて下に着ているYシャツが赤く染まっていることに気付いて思わず声を上げた。
「古傷が少し開いただけだ……問題ねぇよ」
そう言いながらもやはり傷が痛むらしく、額には汗が浮かび、それがポタポタと垂れていく。
私は手を伸ばして置いてあったハンドバッグを取ると、そこからハンカチを取り出して彼の額の汗を拭った。
「……悪ぃな……」
「いえ……その、早く病院に行った方がいいと思います……救急車、呼びましょうか?」
「いらねぇよ。少し休めば良くなる」
「いや、無理ですよね? 血が出てるし、早く手当てをしないと……」
「血はとっくに止まってるから問題ねぇよ。んな事より、お前こそ考え直せよ。死んだら悲しむ奴だっているだろ?」
「…………そんな人、いません。私が死んでも、悲しむ人なんていないんです。だから、いいんです」
「いや、よくねぇだろ。つーか一旦落ち着けよ。な? お前……家族は?」
「いません」
「家は?」
「引き払いました」
「仕事は?」
「辞めました」
「……名前は? 歳はいくつだ?」
「……雛瀬 心、二十歳です」
「……訳ありなのは分かった。けどな、だからって何も死ぬことはねぇだろ?」
「居場所が無いのに、生きている意味もありません」
「居場所がねぇなら、探せばいい」
「……無理ですよ、そんなの」
「無理じゃねぇよ。つーか、やりもしねーで無理とか言うな」
急に説教じみたことを言い出した彼。
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