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“俺を頼ってよ。必ず助けになるから”

 なんて言って電話番号を教えてくれた鮫島さん。

 有難い申し出ではあったけれど、そう簡単には頼れない。

 幸いあの日以降正人は姿を見せなくなっていて、彼に助けて貰わなくても日常生活に支障は無い――そう思っていたのだけど……


「ママ、むしとりしたい!」
「え?  む、虫取り?」
「うん!  ケンタくんがね、パパとむしとりしたっていってた!  ぼくもやりたい!」
「虫取りか……うーん……」


 ここ最近、困った事に周りの友達の影響を受けた凜が色々な事に興味を持ち始めていて、私には出来ない要望もチラホラ出て来るようになっていた。

「ごめんね、ママ、虫あまり得意じゃないから……ちょっと無理かも」
「え―!?  やだぁ、むしとりしたい……」
「他の事じゃ駄目かな?  ほら、凜この前メダルゲームやりたいって言ってたよね?  今度のお休みの日にやりに行かない?  ね?」

 なるべくなら凜の希望を叶えてあげたいと思うものの当然私にも苦手な事や物がある訳で、過度な力仕事を要する事とか、虫とか、ホラーものなんかは特にNGだったりする。

 何とか虫取りから他に興味を移したい私は必死に凜がやりたいと言っていた事を挙げてはみたものの、

「やだぁ、むしとりたい!  いまはむしとりがいーの!」

 一歩も引かない凜は虫取り以外に興味を示さず、私が虫取りをすると言うまで待っているのか、アパートの階段下で動かなくなってしまう。

「凜、とりあえずお家に入ろ?」
「やだ」
「凜の好きなハンバーグ作ってあげるから。ね?」
「やーだ!  むしとりするっていうまでここにいる!」

 最早私が折れるしか無い状況に追い込まれていると、

「虫取り、俺が一緒に行ってやろうか?」

 丁度帰宅して来た鮫島さんがそう声を掛けてきてくれた。

「鮫島さん……そんなのいいです、申し訳ないですから……」

 有難いけど、流石に頼める訳も無くて断ろうとしているところに、

「おにーちゃん、むしとりしてくれるの?」
「ああ、いいぜ」
「ほんと!?  わーい!!」

 人見知りで普段は自分から大人に話し掛ける事なんてしない凜が、自ら話し掛けていて思わず驚いてしまう。

「す、すみません!  あの、大丈夫ですから気にしないでください!」

 凜には悪いけど、やっぱりこんな事をお願いするのは忍びない私は無かった事にしようとするも、

「遠慮しなくていいよ。虫、苦手なんでしょ?  こういうのは男に任せとけばいいんだよ。凜だってせっかくその気になってんだし、遠慮するなよ」

 鮫島さんの言う通り、すっかりその気になっている凜を前にすると、とてもじゃないけど諦めさせるなんて無理で……

「……すみません、それじゃあお言葉に甘えて、よろしくお願いします」

 今回は凜の為だと割り切った私は、鮫島さんに頼る事を決めた。
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