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第三章・デルミーラ視点
35話「一等客室のチケット」
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服屋で財布をすられ宿代のなくなったわたくしは、船に乗り一度国に帰ることにした。
乗船券だけは下着の中に隠しておいたので無事だった。
早く船に乗りたいわ!
一等客室のチケットだから、シャワーも使えるし、バスローブもある、食事もついてくる。
まずはシャワーを浴びて、体についた泥を落とさないとね。
船着き場に着くと、前から歩いて来た男がわたくしにぶつかってきた。
「気をつけろ!」
男はわざとぶつかってきたくせに、悪態をついて去っていった。
公爵夫人にふさわしい格好をしていたら、あんな男など護衛に捕らえさせて、騎士団に引き渡し牢獄に放り込んでいるところですわ。
しかし今のわたくしにはお付きの者はいない。お金もない。
野蛮な男と喧嘩しても負けるのが目に見えている。
悔しいが、今は我慢するしかない。
「今日は機嫌がいいから見逃して差し上げるわ!
先程の男は命拾いしましたわね!」
今のわたくしには男の去った方角を見ながら、負け惜しみを言うぐらいしかできない。
それよりもお腹が空きましたわ。
早く船に乗ってルームサービスを頼まなくては!
キャビアにフォアグラ、牛ヒレ肉のステーキに、真鯛のムニエルにカルパッチョに、ムール貝の白ワイン蒸しに……デザートは桃のタルトが食べたいわ!
「三等客室は下だ、さっさと行きな」
自国行きの船を見つけ、船員にチケットを見せるとそう言われた。
「はぁ?
どうしてわたくしが三等客室にいかなければならないの?
よく見なさい!
一等客室の間違いでしょ?
さっさとわたくしを一等客室に案内しなさい!」
「あんたこそ字が読めないのかい?
チケットに三等客室って大きく書いてあるだろう!」
「嘘っ……! そんなはずは……!」
船員に見せられたチケットには、はっきりと三等客室と書いてあった。
なぜ? 買ったときは確かに一等客室のチケットだったのに……!
もしかして先程ぶつかったとき、男にチケットをすり替えられた!
「字が読めるんならわかっただろ?
お前の持っているのは三等客室のチケットだ」
「これは先ほど船着き場でぶつかってきた男に、すり替えられたのです!
わたくしが買ったのは一等客室のチケットです!」
船員に事情を説明すれば、わたくしを一等客室に案内してくれるはずですわ。
「そういう嘘をついて一等客室に乗りたがる客は山ほどいるんだよ。
いいからさっさと三等客室に行きなさい!
俺が手荒な真似をする前にな!」
船員が鋭い目つきで睨みつけてくる。
仕方ありません、ここは奥の手ですわ!
「お忍びの旅だったので正体は明かしたくありませんでしたが、わたくしはシーラッハ公爵夫人です!
公爵夫人である私を三等客室に乗せる気ですか?
さっさと一等客室に案内しなさい。
わたくしを一等客室に案内してくだされば、あなたの無礼な態度は不問に付してあげますわ。
船賃は後からシーラッハ公爵家に請求なさい」
これで一等客室に案内してもらえますわね。
だが船員はため息をつき、
「おい新入り、この頭のおかしい客を三等客室に放り込め」と吐き捨てるように言った。
「ちょっと!
公爵夫人のわたくしに向かって『頭がおかしい』と言うなんて、無礼ですよ!
身の程をわきまえなさい!
あなた、牢屋に入りたいの!」
「そんな安っぽいワンピースを着て、泥だらけの格好をした女が公爵夫人なわけがあるか。
そんな与太話を信じる奴がいたら、よっぽどの間抜けか、お人好しだね。
おいおばさん、こっちだって客だと思うから下手に出てるんだ!
海に放り投げられたくなかったら、大人しく三等客室に行きな!」
船員が袖口をたくし上げ、たくましい上腕二頭筋を見せつけ、凄んでくる。
「ひぃぃぃぃ!」
わたくしは船員に言われるままに、三等客室に向かうしかなかった。
三等客室は大部屋で、シャワーもなければ、食事も出ない。
ベッドはギシギシと音がするし、それにノミがいるのかとてもかゆい。
こんな粗末な客室で船が港に着くまで丸一日過ごさなくてはいけないなんて……地獄ですわ。
しかし……本当の地獄はまだ始まってすらいなかったのだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
2022/12/02(金)、夕方より下記のショートショートを投稿してます。
「私は善意に殺された」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/749914798/571697969
異世界恋愛、前半シリアス、後半ギャグ。
さくさく読めます!
よろしくお願いします!
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
2022/12/03(土)、早朝より下記の短編を投稿してます。こちらもよろしくお願いします!
「勇者のうんこは万能です!~探す、拾う、集める、狩る、世界樹の肥料係のダンジョン探索記~」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/749914798/579697973
異世界ファンタジー、お仕事ものです。
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「気をつけろ!」
男はわざとぶつかってきたくせに、悪態をついて去っていった。
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しかし今のわたくしにはお付きの者はいない。お金もない。
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悔しいが、今は我慢するしかない。
「今日は機嫌がいいから見逃して差し上げるわ!
先程の男は命拾いしましたわね!」
今のわたくしには男の去った方角を見ながら、負け惜しみを言うぐらいしかできない。
それよりもお腹が空きましたわ。
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自国行きの船を見つけ、船員にチケットを見せるとそう言われた。
「はぁ?
どうしてわたくしが三等客室にいかなければならないの?
よく見なさい!
一等客室の間違いでしょ?
さっさとわたくしを一等客室に案内しなさい!」
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船員に事情を説明すれば、わたくしを一等客室に案内してくれるはずですわ。
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俺が手荒な真似をする前にな!」
船員が鋭い目つきで睨みつけてくる。
仕方ありません、ここは奥の手ですわ!
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公爵夫人である私を三等客室に乗せる気ですか?
さっさと一等客室に案内しなさい。
わたくしを一等客室に案内してくだされば、あなたの無礼な態度は不問に付してあげますわ。
船賃は後からシーラッハ公爵家に請求なさい」
これで一等客室に案内してもらえますわね。
だが船員はため息をつき、
「おい新入り、この頭のおかしい客を三等客室に放り込め」と吐き捨てるように言った。
「ちょっと!
公爵夫人のわたくしに向かって『頭がおかしい』と言うなんて、無礼ですよ!
身の程をわきまえなさい!
あなた、牢屋に入りたいの!」
「そんな安っぽいワンピースを着て、泥だらけの格好をした女が公爵夫人なわけがあるか。
そんな与太話を信じる奴がいたら、よっぽどの間抜けか、お人好しだね。
おいおばさん、こっちだって客だと思うから下手に出てるんだ!
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船員が袖口をたくし上げ、たくましい上腕二頭筋を見せつけ、凄んでくる。
「ひぃぃぃぃ!」
わたくしは船員に言われるままに、三等客室に向かうしかなかった。
三等客室は大部屋で、シャワーもなければ、食事も出ない。
ベッドはギシギシと音がするし、それにノミがいるのかとてもかゆい。
こんな粗末な客室で船が港に着くまで丸一日過ごさなくてはいけないなんて……地獄ですわ。
しかし……本当の地獄はまだ始まってすらいなかったのだ。
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異世界ファンタジー、お仕事ものです。
応援ありがとうございます!
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