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第四章・リック視点
56話「リックの初恋」
しおりを挟む「アルドとべナットから聞いているわ。
リックはあの二人とは幼い頃からの友達なんですってね?」
「そうだけど」
「ということは……友達の友達はお友達よね!」
そう言って、可愛い顔でほほ笑まれると何も言えなくなってしまう。
「あたしが第二王子のお友達でも、あたしのことがまだ信用できない?」
「いや、そんなことはないよ」
第二王子の名前を出されたら、信用しないわけにはいかない。
「なら今日からあたしとリックはお友達ね!」
そう言って、彼女は僕の頬に口づけを落とした。
ドクン……! と僕の心臓が音を立てる。
「な、何をするんだ!
いきなり……!」
頬にキスなんて、婚約者のエミリーにもされたことないのに……!
「お友達になった証よ。
庶民はね、お友達の頬にキスするのよ」
「そ、そうなのか?!」
「アルドとべナットは受け入れてくれたわ。『庶民の風習なら仕方ない。上に立つものは下にいるものの風習を知らなくてはならないからな』って言ってね」
「殿下が……!?」
アルド殿下が庶民の文化を受け入れたのか。
それじゃあ僕も断れないよな。
これも将来、上に立つものの務めだ。
「分かった、僕も庶民の風習を受け入れる」
「よかった」
そう言って、彼女は無邪気にはしゃぐ。
彼女は対面の席から僕の隣の席に移動してきた。
「お友達になっんだから、リックからもあたしにキスして」
「えっ? でも……」
「アルドとべナットはしてくれたよ。
それともリックにとって、あたしはまだお友達じゃないの?」
ミアは眉を下げ、泣きそうな顔をした。
「違う!
君は……ミアは僕の友達だ!」
僕はミアに悲しい顔をさせたくなかった。
「なら、キスして」
ミアが瞳を閉じる。
キスするのはほっぺなのに、どうしてもミアのみずみずしいピンク色の唇に目が言ってしまう。
思わず生唾を飲み込むと、僕の喉がゴクリと音を立てて、その音が人気のない図書室にやけに響いた。
これは浮気じゃない!
庶民の風習に合わせているだけだ!
アルド殿下もべナットしていることだ!
僕は自分にそう言い訳すると、意を決してミアの頬にキスをした。
今まで生きてきた中で、この瞬間が一番ドキドキしたと思う。
ミアに近づくと良い香りがして、ミアの頬はとても柔らかかった。
「これであたしとリックはお友達ね」
ミアの頬から唇を離すと、ミアは満面の笑みを見せた。
「もっと仲良くなったら、ここにキスしてあげるよ」
ミアの人差し指が僕の唇を撫でる。
く、唇へのキス?
友達同士で唇にキスするのも庶民の風習なのか?!
「実を言うとアルドの唇にはもうキスしたんだ。
あたしたち仲良しだから」
「えっ?」
ミアと殿下はすでに口づけを交わしていた?
驚きよりももやもやの方が強かった。
僕よりも前にアルド殿下がミアと口づけを交わしている。
殿下に負けているような気がして……嫌な気分になった。
「べナットとリック、先にあたしと仲良くなるのはどっちかしら?」
それは僕とべナット、どちらが先にミアの唇にキスできるかってこと?
「僕だよ!」
僕は婚約者がいることも、貴族社会では婚約者か配偶者としか口づけをしないことを忘れて、そう叫んでいた。
ただ脳筋のべナットには負けたくなかった。
このときの僕にはそのことしか頭になかった。
「そうだといいね!
あたしもリックともっと仲良くなりたいわ!」
「べナットよりも?」
「うん、べナットよりもリック、あなたと仲良くなりたいわ!」
そう言って無邪気に笑うミアに僕は完全に心を持っていかれていた。
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