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第四章・リック視点
69話「誘拐犯の正体」
しおりを挟む「えっ……とぉ……これは?」
馬車が止まり、僕は馬車から降ろされ、頭に被せられていた麻袋を取られた。
目を開けると、そこは粗末な家の中で粗末な服を着た人たちが何人かいた。
「ゼーゲン村のリック様とお見受けします!
どうか我らにお力をお貸しください!」
代表者らしき中年の男が床に膝をついて頭を下げると、彼の後ろにいた連中も同じように床に膝を付き頭を下げた。
「…………縄を解いてもらえますか?
話はそれからと言うことで」
僕は後ろ手に縛られたままだった。
「これは気づきませんでした」
代表者らしき男が合図すると、若い男が僕の縄を解いてくれた。
取り敢えず、僕の命をどうこうしようと言うわけではないらしい。
「わしはハイル村の村長をしておりますヴァッサーと申します。
リック様に折り入って頼みがあります」
「なんですか?」
ゼーゲン村の村長さんが、他の村とは良好な関係を保っておきたいと言っていたから、取り敢えず低姿勢で対応しておこう。
「わしらにも文字を教えてほしいのです!」
「はっ?」
「ゼーゲン村の村長が年老いて目を悪くし、文字が読めなくなったことは存じております」
僕がグランツさんに保護された日、グランツさんはハイル村の村長さんに手紙を読んで貰いに行っていた。
ハイル村の人たちが、ゼーゲン村の村長さんが目が見えなくなったことを知っていても不思議ではない。
「しかしゼーゲン村の者はこの三か月、一度もわしのところに書状を読んでくれと頼みに来なかった。
それどころか、わしが教えた書状の内容が間違っていると指摘までしてきた。
他の村の者に書状を読んで貰っている様子もない。
それで若い者に調べさせたのです、ゼーゲン村で何が起きているのかを。
そしてゼーゲン村に三か月前から若い男が住み着いたことを知ったのです」
「それで僕を攫ったのですか?」
「お願いします!
リック様、どうかこの村に住み我々に文字を教えてください!」
「「「お願いします! リック様!」」」
その場にいた人たちが全員その場に膝を付き、僕に向かって頭を下げた。
「皆さん頭を上げてください」
「では、リック様! 我々に文字を教えてくださるのですか?」
「こんなやり方をしなくても元々ゼーゲン村の村長さんは、近隣の村の人をゼーゲン村に集め、文字や薬草学を教えるつもりでした」
「えっ?」
「ヴァッサーさん。
村の人を思う気持ちはわかります。
でもこんなやり方は間違っています。
こんなやり方ではゼーゲン村とハイル村の間に溝を作るだけです。
相手の気持ちを尊重しなくては、まとまる話もまとまりません。
僕も少し不愉快です」
進級パーティーでやらかして、無実の婚約者を断罪し、その後も酷い態度を取った僕に、「相手の気持ちを尊重しろ」なんて説教をたれる資格はない。
どの口が言ってるんだ……と自分で自分を罵りたくなった。
「ゼーゲン村の村長がそのような寛大なお心をお持ちとは知りませんでした。
ゼーゲン村の者はリック様を独り占めし、知識で我々にマウントを取ってこようとしていると思っていました。
我々は浅はかでした。
申し訳ありません!」
「「「申し訳ありませんでした! リック様」」」
村長さんとその他の村の人たちが、再び僕に向かって頭を下げた。
「あの、もういいですから。
それよりもゼーゲン村に帰していただけませんか?
同居人が心配していると思うので」
僕は泣いて家を飛び出したあと彼らに拉致されてこの村に連れて来られた。
急にいなくなった僕をグランツさんたちが探しているかもしれない。
心優しい彼等にこれ以上心配をかけたくない。
「それはもう今すぐにでも、ゼーゲン村までお送りします」
ハイル村の村長さんが僕の申し出を了承してくれた。
その時……。
「リックーーーーー!!!!!」
と誰かが外で僕を呼んでる声が聞こえた。
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