第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ化企画進行中「妹に全てを奪われた元最高聖女は隣国の皇太子に溺愛される」完結

まほりろ

文字の大きさ
16 / 55
改稿前

15話「皇太子アルドリック・ルーデンドルフ」

しおりを挟む


門番さんが門を通してくださり、宮殿まで案内してくださいました。

もう一人いらした門番さんが、私が来たことをお城に知らせに走りました。

今の私はニクラス公爵家の令嬢ではなく平民。アルドリック様からのお手紙を持っていたとはいえ、私などを簡単に通して良かったのでしょうか? 門番さんが後でお叱りを受けたりしないといいのですが。

手入れの行き届いた広い庭園をしばらく歩くと、宮殿に着きました。

青い屋根に白い壁の壮麗なお城。

建物の入口に年配の執事さんが立っておりました。その方は執事長さんで、執事長さんがアルドリック様のお部屋まで案内してくださるそうです。

門番さんにお礼を言って別れ、執事長さんの後について歩きます。

豪華なシャンデリアが飾られた玄関ホールを抜け、階段を登り、きらびやかな絵画が飾られま廊下を歩いた先に、その部屋はありました。

美々しい彫刻が施された木の扉を執事長さんがノックをし用向きを伝えると、「入れ」と涼やかな声が聞こえました。

今のがアルドリック様のお声でしょうか? 以前アルドリック様とお会いしたとき、アルドリック様は八歳でした。私は声変わり前のアルドリック様のお声しか知らないのです。

それはアルドリック様も同じこと。成長した私を見てアルドリック様はどう思うかしら?

扉の向こうにアルドリック様がいると思うと、胸がドキドキしてきました。

執事さんがドアを開けると、懐かしい顔が目に入りました。

髪は烏の濡れ羽色の髪、黒真珠の瞳、陶磁器のように白く美しい肌。

思い出の中の少年より身長がかなり伸び、顔つきが大人びて、纏う雰囲気が凛々しくおなりですが、見間違えるはずがありません。

「アルドリック……様!」

「リーゼロッテ! リーゼロッテなんだね!」

アルドリック様が大股で近寄ってきて、私を抱き上げ、その場でくるくると回り始めました。

「月のように煌めく銀色の髪、紫水晶のように輝く瞳、雪のように白くきめ細やかな肌! 懐かしい! 全然変わってないねリーゼロッテ!」

「アルドリック様もお変わりなく……!」

アルドリック様はあの頃より精悍な顔つきになられ、勇壮で男らしく、皇族としての気品をまとい神々しくなられました。でも本人を目の前にするとなかなか言えません。

「リーゼロッテはその……綺麗になった」

アルドリック様の端正なお顔が朱色に染まる。

「……えっ?」

えーと今の【綺麗】は何に対しての感想なのでしょうか?

アルドリック様は幼い頃私の描いた絵を【美しい】【可愛い】と褒めてくださいました。

今は絵を持っていないですし……私が身に着けているもので褒められるものは……? 服しかありませんね。 アルドリック様はロイヤルブルーのドレスを綺麗だと褒めてくださったのですね。

ドレスを貸して下さったゲレさんにお礼を言わなくては。

「よろしいですかアルドリック様、廊下でリーゼロッテ様のお連れの方が固まっていらっしゃるのですが」

部屋の隅にいた軍服を身に纏った青い髪の青年がゴホンと咳払いし、廊下をちらりと見ました。

「そうだったのか、すまないリーゼロッテ。君と再会出来たのが嬉しくて舞い上がってしまった」

アルドリック様が床に下ろしてくださったので、アルドリック様から距離を取る。

「いえ、こちらこそ失礼いたしました」

もう幼い頃とは違うのですから、むやみに体に触れてはいけませんよね。幼なじみとはいえこちらは平民、相手は皇子様なのですから。

「再会したところからやり直そう、よく来てくれたリーゼロッテ歓迎するよ!」

「お久しぶりですアルドリック様、先触れもなく尋ねたのにも関わらず、面会して下さりありがとうございます」

私は淑女の礼に乗っ取りカーテシーをする。

「して、そちらの方々は」

「紹介します、王族の専属の鍛冶師のデリーさんと、王族専属のお針子のゲレさんです。お二人とはハルシュタイン王国の港で知り合ったのですが、道中大変助けていただきました。私がブルーメ大陸に来れたのはお二人のおかげです」

無一文の私を船に乗せて下さり、ご飯を食べさせて下さり、お風呂に入れて着替えの服を貸して下さった。ブルーメ大陸に着いてからは帝都まで同行してくださった、優しくて親切なご夫妻。お二人には足を向けて寝られません。

廊下にいるデリーさんとゲレさんを見ると、口を大きく開けたまま固まっていました。何か衝撃的なことでもあったのでしょうか?

「そうかリーゼロッテが世話になった、私からも礼を言おう」

デリーさんとゲレさんは周章狼狽しゅうしょうろうばいしていました。

「リリリリリ……リーゼロッテ……様? アアアア……アルドリック殿下と……お、お知り合いで……?」

ようやく動けるようになったゲレさんが、どもりながら尋ねてきます。ゲレさんの体が小刻み震えています、寒いのでしょうか?

「はいアルドリック様のお母様と、私の母がお友達だったので、アルドリック様と私は幼友達なのです」

「会うのは十年振りだね」

にこやかに話す私達を見て、デリーさんとゲレさんが倒れてしまいました。

「リ、リリリ……リーゼロッテがアルドリック殿下のお友達……! あわわわわわ……えらいことに……!」

「リーゼロッテ様の恋人への失言の数々……! オオオ……オ、オレたち無礼うちにされる……!」

急いで駆け寄ると、お二人は口から泡をふいてました。

「大変! 最大マクシムム・回復《ベッセルング》! 最大マクシムム・回復《ベッセルング》!」

すぐに回復魔法を唱えましたが、お二人は目を覚ましません。

「どうしましょう……!」

「大丈夫だ精神的なショックで気を失っただけだろう。執事長二人を医務室に運べ、リーゼロッテの恩人だ丁重にな」

「承知いたしました」

執事長さんが仲間を呼び、デリーさんとゲレさんを担架に乗せ運んでいきました。

しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

公爵夫人は愛されている事に気が付かない

山葵
恋愛
「あら?侯爵夫人ご覧になって…」 「あれはクライマス公爵…いつ見ても惚れ惚れしてしまいますわねぇ~♡」 「本当に女性が見ても羨ましいくらいの美形ですわねぇ~♡…それなのに…」 「本当にクライマス公爵が可哀想でならないわ…いくら王命だからと言ってもねぇ…」 社交パーティーに参加すれば、いつも聞こえてくる私への陰口…。 貴女達が言わなくても、私が1番、分かっている。 夫の隣に私は相応しくないのだと…。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

始まりはよくある婚約破棄のように

喜楽直人
恋愛
「ミリア・ファネス公爵令嬢! 婚約者として10年も長きに渡り傍にいたが、もう我慢ならない! 父上に何度も相談した。母上からも考え直せと言われた。しかし、僕はもう決めたんだ。ミリア、キミとの婚約は今日で終わりだ!」 学園の卒業パーティで、第二王子がその婚約者の名前を呼んで叫び、周囲は固唾を呑んでその成り行きを見守った。 ポンコツ王子から一方的な溺愛を受ける真面目令嬢が涙目になりながらも立ち向い、けれども少しずつ絆されていくお話。 第一章「婚約者編」 第二章「お見合い編(過去)」 第三章「結婚編」 第四章「出産・育児編」 第五章「ミリアの知らないオレファンの過去編」連載開始

(完結)モブ令嬢の婚約破棄

あかる
恋愛
ヒロイン様によると、私はモブらしいです。…モブって何でしょう? 攻略対象は全てヒロイン様のものらしいです?そんな酷い設定、どんなロマンス小説にもありませんわ。 お兄様のように思っていた婚約者様はもう要りません。私は別の方と幸せを掴みます! 緩い設定なので、貴族の常識とか拘らず、さらっと読んで頂きたいです。 完結してます。適当に投稿していきます。

〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?

詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
私の家は子爵家だった。 高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。 泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。 私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。 八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。 *文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*

【完結】キズモノになった私と婚約破棄ですか?別に構いませんがあなたが大丈夫ですか?

なか
恋愛
「キズモノのお前とは婚約破棄する」 顔にできた顔の傷も治らぬうちに第二王子のアルベルト様にそう宣告される 大きな傷跡は残るだろう キズモノのとなった私はもう要らないようだ そして彼が持ち出した条件は婚約破棄しても身体を寄越せと下卑た笑いで告げるのだ そんな彼を殴りつけたのはとある人物だった このキズの謎を知ったとき アルベルト王子は永遠に後悔する事となる 永遠の後悔と 永遠の愛が生まれた日の物語

処理中です...