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後日談・七「結婚式」*
しおりを挟む「新郎ヴォルフリック・エーデルシュタイン、あなたはここにいる新婦エアネスト・エーデルシュタインを、健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しいときも、妻として愛し、敬い、いつくしむことを誓いますか?」
「ああ、誓う」
「新婦エアネスト・エーデルシュタイン、あなたはここにいる新郎ヴォルフリック・エーデルシュタインを、健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しいときも、妻として愛し、敬い、いつくしむことを誓いますか?」
「誓います」
「指輪の交換を」
神父の言葉にリングベアラー役の男の子が指輪を乗せた箱を持ってくる。
ボクはリングベアラーにブーケを預ける。
ヴォルフリック兄上がボクの手袋を外し、左手の薬指に指輪をはめる。
ボクもヴォルフリック兄上の左手の薬指に指輪をはめた。
「では誓いの口づけを」
ヴォルフリック兄上がボクのヴェールを外し、唇にキスをした。
五月の中旬、空が高く澄みわたる。
教会の鐘が鳴り響き、花吹雪が舞う。
結婚式にはシュタイン領の民だけでなく、王国中からたくさんの人が来てくれた。
シュタイン領の宿屋や料理屋は大忙し。
実は王都で結婚式を挙げなかったのは、シュタイン領に観光客を呼ぶ狙いもある。
今日は五月にしては少しだけ暑い。冬の間に白樺の森の泉にはった氷を切り出し、氷室で保存していた。その氷を削り、白樺の森で取れたベリーを砂糖で煮詰めよく冷やしたものをかけ、かき氷にしたものを観光客に提供した。飛ぶように売れている。
他にも白樺の森で取れたベリーで作ったジュースや、ベリーを乗せたお菓子やケーキを提供している。そちらもよく売れている。
これを機会にシュタイン領に観光客が増えてくれたら嬉しい。
もう少しIの魔法が上達したら、氷を長期保存できる。
来年にはシュタイン領産のかき氷を、王都で販売できる、楽しみだな。
「エアネスト、いま何を考えていた?」
ボクたちは教会からシュタイン邸までの道を、屋根のない馬車に乗りパレードしている。
沿道にいる人たちに、笑顔で手を振る。
「かき氷が売れて、シュタイン領に観光客が増えたらいいなと」
「そうか」
ヴォルフリック兄上が、不意打ちにキスをした。
沿道に集まった民衆からわっと声が上がる。
「あっ、兄上……!」
こんな大勢の見ている前でキスするなんて……!
「私の隣にいるのに、私以外のことを考えていた罰だ」
ヴォルフリック兄上が、クールに言い放つ。
「も~、子供みたいなヤキモチはやめてください」
「私はいつでも、エアネストの一番でありたい」
この調子では、ボクに子供が生まれたら大変なことになりそうだ。
◇◇◇◇◇
結婚式には、リヒター国に嫁いだソフィアと、コーエン王子様も来てくれた。
ソフィアは子供を生んだばかりなのに、海の向こうのリヒター国からどうやって来たんだろう?
ソフィアに聞いたら、白馬と黒馬が迎えに来てくれて、霧の道を通って来たらしい。
それってどう考えてもシュトラール様に授かった馬だよね、シュトラール様がソフィアを連れてきてくれたのかな?
国王である父上もお仕事が忙しいのにいらしてくれた。ティオ兄上の話では、父上はシュタイン領を恐れていたはずだけど、それでもいらしてくれて嬉しかった。
母上と母上の親戚の人たちと、ヴォルフリック兄上の母方の親族の方たちもいらしてくれて、とてもにぎやかな式になった。
男のボクがウェディングドレスを着たことに、誰も何も言わなかった。
それどころかボクは本当は女で、我が子に王位を継承させたい母上と母方の親族が、ボクを男と偽り届けを出し、王子として育てたという噂が流れた。
みんなその噂を信じたらしく、ボクがいくら訂正しても聞く耳を持ってくれない。
町の人たちいわく「あんなにウェディングドレスが似合う美少女が、男のはずがない!!」だそうだ。
たくさんの人に祝福され、ボクとヴォルフリック兄上は今日、晴れて夫婦になった。
末永くヴォルフリック兄上と暮らせますように。
◇◇◇◇◇
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