幼なじみの彼女に裏切られ、親友と付き合っていたことを知ってしまったので、親友の婚約者であり幼なじみの天敵の悪役令嬢と組みたいと思います

竜頭蛇

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極道に誘拐される元婚約者

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「なんでだ! なんで爆発しない!」

 頂点に達しても爆発しないジェットコースターを見て、律は何度も起爆スイッチを押しながら焦りを募らせる。
 彼の中で教義によってもたらされた全能感に翳りがさし始めていた。

「まさか解除したっていうのか? 秋也、奴は不信心な一般人だというのにか! ふざけるな、俺の神の御手に手を伸ばす行為をお前のような祝福を受けていないものが妨げていいはずがない」

 ジェットコースターから爆弾を投げ捨てる秋也の姿を確認すると、律は込み上げてくる不安を反発心に変え、激憤する。
 教義によって自分の行動は成功しなくてはならないという自分勝手な妄想に囚われた彼は頭を掻きむしりながら、自分の目的を達するために近くにいる現場のリーダーである小川小鞠に爆弾の催促に向かう。
 当初の目的である麻黒陽菜の殺害し、神に報いるという事柄は、自らの安寧を得るためにすっかり忘れ去られていた。
 ここにきて律は自分さえ正しければそれでいいという本質が滲み出し始めていた。

「どうして、あの忌まわしい日と同じことが起きている。全てだし抜かれて、あっという間に行動不能に! あいつがいる! あいつが!」

 いつも物静かな小川は激情を隠さずに、金切り声を上げていた。
 彼女の中では10年前に陽菜を殺すために夏祭りを訪れたにもかかわらず、幼い少年に良いように弄ばれた記憶が意図せず再生されていた。

「小川さん、爆弾をください、今すぐに!」

 自分のことで手一杯の律はそんな小川の様子にも気づくことなく、無遠慮に催促の声を掛ける。

「お前は馬鹿なのか! 警察が出張っていて警戒が高まっている状態で事を起こせるわけがないだろうが!」

 何も把握できていない律に対し、感情の制御を完全に失い、小川は怒号を飛ばす。
 律はギルドに貢献することでまるで叱責されるとは想像しておらず、一瞬何を言われているか、わからず惚けた顔をすると、顔を真っ赤にした。

「ば、馬鹿だと! 信仰の歴が多少長いからと言って図に乗るなよ、貧乏人が!」

「無能が! 黙って利用されていろ! 囀るな!」

 二人とも周囲に止めるものがもう存在せず、窮地に陥っていることも知らずに、怒号の応酬を繰り返す。
 その様子をギルドの構成員を鎮圧した花園組の人間たちが、冷ややかな様子で見ていた。
 怒号の応酬が終わると、二人は足腰が立たなくなるまで暴力を受け、花園組に連れ去られた。

 ーーー

「綺羅ちゃん、今回はどうしたのかしら?」

 ギルドの人間たちが抑えられた同時刻、天弦学院理事長である天弦綺羅は冷や汗を流していた。
 花園組の当主である花園珠子が激昂していたからだ。
 その直接の原因となった二人の壮年の男は、すでに頭に風穴を開けて、物言わぬ死体となっており、間接的な原因となっている綺羅自身も返答次第で後を追う可能性が高いことは想像に難くなかった。
 
 たかだか審査を行う社長たちに冬夜たちを勝たせるように審査に手心を加える代償に、社長たちが経営に関わっている離れ小島に生徒たちを呼ぶようにしてくれという交渉に応じただけで、なんでこんなことに。
 実家の権力のおかげで追い詰められた経験がなかった綺羅の中ではことここに至ってもはやそんな嘆きしか頭に浮かばなかった。

「私は悪くなくて。ただこの人たちの交渉に応じただけです」

「そんなの知らないわよ。私を出し抜いて、クソどもと結託していたのがここにある真実じゃない」

 常の彼女ならば言い訳をする綺羅に寄り添ったはずだが、ギルドの関わる事柄に対して修羅同然となる珠子は綺羅に非があると正面から弾劾した。
 綺羅の青ざめた顔を見ると、珠子は辟易した顔をして机を指で叩き始める。

「それで綺羅ちゃんはどう落とし前をつけるの? 私が何を望んでいるか、言葉に出してちょうだい」

 恐怖から頭の中が冷えていくような感触を味わっているのに、焦りでダラダラと止めどなく汗が流れていくことに気持ち悪さを感じながら綺羅は、真意を見極めるために珠子を見るが、その瞳には憎悪と怒りしか感じられず、生唾を飲む。

「カルトギルドの一派を殲滅すれば良いというのですか」

「ハズレ。カルトたちはもうあらかた教組以外は殲滅できているから今更、無能な綺羅ちゃんのいらないの」

「じゃあどうすれば良いんですか!」

 完全に珠子に恐怖を覚え、飲まれた綺羅は助けを求めるように震え声で泣き言を言う。
 もはや一欠片も綺羅に対する良心を持っていない珠子は助けを求める彼女の手をはたき落とす。

「私の言うことを唯々諾々と聞く人形になりなさい。使えるうちはしばらくはそのままにしてあげるわ。自由はないけどね」

 綺羅にはもはやまともな判断力など残っておらず、その言葉を聞いた時、ひとまずは殺されることはなく、許されたと思った。

「……はい」

 綺羅は後に自分を失うことになることにも気付かずに、その言葉に応えた。


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