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第二章

十四話

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 私とレオナはメイド服姿のままで門番に挨拶をし、何も疑われることなくすんなりと城から出ることができた。
 いざとなったら威圧魔法の出番かと思っていたのだが、何事もなさ過ぎて逆に拍子抜けである。
 地下牢にいた看守にはレオナの魔法でじっくりと長い眠りについていただいたし、レイグラートたちはフォルティエナが城から居なくなっていることもまだ気がついていない。
 これで多少の時間猶予はできたはずだ。
(監視カメラのない世界で本当助かったよ)
「ここまで簡単に外へ行けるとは思わなかったわ。やっぱり制服の効果ってすごいのね」
「門番は城内に無数いる給仕係の顔まで、いちいち覚えていないだろうからな。被っているキャップで髪型が目立たなかったのも、印象操作としてはかなり効果が高かったのかもしれない」
「そうねぇ、それに茶色と黒色の髪なんてよくある髪色だしねぇ……」
「それは確かに」

 私とレオナは一度服屋に入り、そこで購入した服に着替えた。
 これから主に接近戦が多くなるであろう私は、外からの打撃に少し抵抗値が高い冒険者風の服を選ぶ。
 レオナの方はちょっと色気のある魔導師ぽい服だった。
 予算の都合上、あまり高価な装備は買えなかったが、クエストのクリアを重ねて資金が貯まったら、もっとちゃんとした装備を揃えようと思う。

「あ、レオナ、これから宿屋に寄っていいかな? そこに大切な荷物を置いてあるんだ」
「全然いいわよ」
 先ほど借りた宿屋の部屋まで戻ると、アレクに選んでもらった二刀の剣と、もらった長めの布がちゃんと置いてあった。
 無くなってしまっていないかがとても心配だったから、再びこうして手に出来たことにただ安堵する。
 その気持ちがアレクにもらった物だからなのか、単純に貴重な品だからなのか、今の自分には判断がつかないが、とにかく嬉しいことには変わりない。
 それに、S級冒険者の名前が入っている布を身につけることは、私の今後のやる気にも繋がってくるからな。
「フォルティエナ、さっき服屋でついでに買ったヘアセットで髪の方も変装しちゃいましょ」
 レオナはそう言って、私の髪を手際よく編み込みだした。
 そして動きやすいよう全体的に上の方でまとめてくれる。
「黒くてツヤツヤの綺麗な髪だから、縛ってしまうのはもったいない気もするけど……切るよりはずっといいわ」
「それ、クラン同盟の先輩にも言われたなぁ……」
 アレク、今頃どうしているのかな。
 相変わらず新人を捕まえては、世話を焼いてあげたりしているのだろうか。
 そんな彼の様子がいとも簡単に想像できてしまう辺りがちょっと笑える。
(国を出てしまったら、アレクには当分会えないだろうな。レオナの封印もいつになったら解けるのかなんて見当もつかないし)
 レオナは私の髪のセットを終わらせたら、今度は手際よく自分の髪もアップさせて、ピンでアレンジしながら見た目の印象を変えた。
(レオナのは、ちょっと日本のギャルっぽい髪型かも)
「どう?」
「素敵だよ。私の髪も可愛く仕上げてくれて、ありがとう。レオナはとても器用だね」
「ふふ、まぁね」
 鏡の前で嬉しそうにポーズを決める彼女だが、あまりゆっくりはしていられない。

 私たちは宿屋をチェックアウトしたら今度は武器屋まで行き、レオナの装備用に杖を買った。
「待った感じは良い具合だわ。敵が近づいてきたら、これで遠慮なく殴れそう」
「安物だけど……」
「そこは気にしない。うまいことお金が手に入ったら、また新しく買いましょ」
 レオナはそう言って、上機嫌に笑った。
「それで……今は王都の西側にいるけど、もしかして港町にでも行くの?」
 武器屋を出た私たちは、西の方に向かって少し早足で城下町を歩いている。
「うん、とりあえずこの国を出ようと思う。隣の国に行ったら、レオナもそこで冒険者登録するんだ」
 クラン同盟は全世界共通の集団。
 例え追われる身だとしても、うまいこと身元を隠せば冒険者としては充分に活動できるだろう。
「私はフォル・スノウの名前でクランに登録している。だからこれからは、私のことをフォルと呼んでくれ。それとレオナも今後は、偽名を使った方がいい」
「ふ~ん……じゃあ、私はこれからレイ・スノウと名乗るわ」
「……スノウ?」
「私たちは似てない姉妹ってことで通しましょ。もちろん私の方が年上なんだから、あなたが妹よ? フォル」
「はは、わかった」
 レオナ改めレイは、17歳なのだという。
 つまり私より二つ年上で、レイグラートよりは一つ下だ。

「レイは……レイグラート様の名前からお借りしたの」
「あぁ、レイは彼が好きなんだもんな」
「えぇ、今でもまだ好きよ……フォルの婚約者だけどね」
「私がレイを逃したことにレイグラートが気付けば、すぐにでも婚約破棄されるさ」
 シーファン家には迷惑をかけて申し訳ないが……ここまで来たら後悔しても仕方ない。
 あとは自分が決めた道を最後まで貫くまでだ。
「そうかもしれないけど……あなたは本当にそれで良いの? 辛くない?」
「別に? むしろ願ったりだな。それに遅かれ早かれ……レイが気にすることはない」
「何よそれぇ……」
 レイはわけが分からないといった顔をする。
 その辺の詳しい説明はちょっと私でも難しい。
 異世界から来たと言っても、信じてもらえるかは微妙なところ。
「自分でもまさか指名手配されるような事まで仕出かすとは、その時まで思ってもいなかったけどな……はは、私でも自分の行動力にはびっくりだ」
「もし二人で捕まったら、私がフォルティエナ嬢を力で脅して従わせたって言うから……」
「そんなの必要ないよ。それに私たちは絶対に捕まらないからな!」
「どこからそんな根拠のない自信が出てくるのよぉ……」
 根拠? 根拠はあるよ。
 まずはこの私たちのチート能力だ。
 さらにレイの封印が解けたら、もはやこのコンビに怖いものなし!

 私とレイは馬車を乗り継ぎ、王都の西側にある出口に着いたら、港町へ向かう長距離の馬車へと乗り替えた。
 王都から出て西にずっと行くと大きな港町があって、そこの船から隣の国へと入ることができる。
 その情報はクラン同盟の壁に貼ってあった、他国へ行くためのルート案内の一つに書かれていたものだ。
(いつかこの国を出るために何となく見ていた情報だったけど、今こうやって役に立ってくれている。ありがたい)
 王都から隣の国まではかなり長い道のりにはなるだろうが、手配書が回ってくる前には絶対にこの国を脱出したいところ。
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