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第三章
二十六話
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ヒエウの街から南の方へと下ると、かなり広範囲に広がる熱帯雨林がある。
その一部にアルラウネがよく集まる区域があるらしいのだが、移動に道を使う商人や旅人の足を引っ掛けたり、荷物を横取りしたりと困った悪さするので、数を減らしてほしいという内容の依頼だった。
今回は討伐対象がいる森の入り口まで、借馬をして行くのだという。
レイは乗馬経験があったので特に問題もなく……そして私の方は、前世では全くの未経験ではあったが、一回で普通に乗れたのでそのまま一人で騎乗することになった。
レイは「せっかくだからアレクさんの後ろに乗りなよ~」とか「逆にフォルが前の方が絵になるかしら」なんて、よく分からないことを口走っていたが、馬には自分で乗りたかったからレイの申し出は全てスルー。
借馬代を節約したいんだったら、レイがアレクの後ろか前に乗れば良いじゃないか。
と、いうようなことを彼女に伝えたら、
「それだと意味ないんじゃあ!」
と謎に憤っていた。
そこでなぜ怒る?
絵になるからという理由なら、レイとアレクの方がずっと映えそうなのにな。
私のこの格好だと、少し見る目を変えたらまるで男同士がくっついてるみたいだと錯覚を起こすだろうに……ん?
男同士?
……あ、そうか!
もしかして……この世界にもあるのか?
あの腐のつく不思議な文化が!
それでレイは……。
なるほどなぁ……あの独特な世界観は私も別に嫌いじゃあないぜ?
でも私はこれでも歴とした女だから、残念ながらレイの希望通りには行かないんだぞ。
馬でしばらく走ると、目的のジャングルまで着くことができた。
たまに襲ってくる昆虫のモンスターを適当に蹴散らしながら、今度は徒歩で森の中へと進む。
一時間ほど歩いて、アルラウネが大量に生息する区域へと入った。
するとまるで待ち構えていたかのように、大きな花のモンスターがこちらへと大群で向かってくる。
さっそく戦闘開始となった。
私は威圧魔法を展開させて、できる限りの足止めを図る。
そして、まだ動いているアルラウネを優先的に倒していった。
レイとこの花のモンスターとのレベル差は15だが、レイの火魔法はアルラウネの弱点属性になっているから、ほぼ倍くらいの威力があるのだ。
レイのレベルアップのための相手としては、中々手頃なとこだろう。
(経験値はうまいし、敵はこちらより不利な状況という素晴らしさよ)
そんなことを考えていると、後ろの方で鋭い何かが植物を斬ったような音がした。
青いマントがひらりと翻る姿を目だけで追う。
「フォル、後ろから1匹迫ってたぞ。あまり威圧魔法に頼りすぎるな」
目の前の敵に集中し過ぎていたためか、うっかりアレクの補助を受けてしまう。
そして私の後頭部に、彼の背中がトンと当たる感覚がした。
「急所は花弁の裏から伸びている茎と下にある根だ。そこを中心的に狙え。アルラウネは鈍足だが、厄介なのは体の自由を奪ってくるツルだ。絡まれる前には切れよ? 花の顔に近づき過ぎると鋭い歯で噛まれるから、なるべく後ろから回り込め」
「了解」
私は耳元で聞こえるアレクの助言を、すぐに頭の中へと叩き込む。
遠距離から威圧、そしてなるべく背後を取れるように動き回ろう。
「それとあいつたまに毒液吐くからさ、気をつけな。かかると皮膚が気触れるし、しばらく臭せえぞ?」
「うげ……了解」
というかそれ、もっと早く言って。
肌が気触れるのも臭いのもさすがにちょっとごめんだ。
アレクはそれだけ言うと、再びレイの元へと戻っていった。
「レイさん、あんたはフォルを援護しながら、外側から火魔法を放って。範囲魔法は森を焼く可能性があるから、今回はなるべく単体攻撃でいく。ピンポイントで連射してくれ。俺は少し離れた後方にいるから、危なかったらフォローに入る」
「了解です」
そんな会話が後ろの方で聞こえた直後、レイの手の中から火のショットが飛び出して、連続でアルラウネの体へと降りかかる。
モンスターとはいえやはり植物……対象はレイの魔法で呆気なく一瞬で燃え尽きた。
この場での攻撃のメインはやはりレイだな。
「フォル、短剣が使えてないぞ!」
「おっと」
利き手じゃない方の扱いはなかなか難しいんだ。
まぁ、これも鍛錬あるのみ。
「フォル! レイさんの周りにモンスターを近づけさせるな! 前衛は後衛パーティを絶対に守り抜け!」
「やば! レイ、ごめんな!」
私はレイに寄って行ったアルラウネの元へと全力で走る。
そしてモンスターの後ろから、すかさず斬りつけた。
「ひえ……アレクさん、フォルに厳しい……」
「……それだけ期待してるんだ」
アレクはレイにしか聞こえないくらいの声でそう呟く。
そうして50体ほど倒せたあたりで、レイのマジックポイントが尽きた。
アレクの合図で、私たちはアルラウネが追ってこない別の場所へと一旦引く。
一先ずはポーションを片手に休憩だ。
「フォルの持ち味は身軽さからくるスピードだから、力で押せねーなら戦い方を工夫するしかない。相手の弱点を掴んでうまく立ち回れば、格上にもかなりの打撃を与えられるはずだ」
「なるほど……敵の下調べがやはり肝なんだな」
アレクは頷いた。
「だが、それだけじゃねえぞ? 外の世界を生きていれば、突然現れた敵の弱点をとっさに判断しなきゃならねー時も当然やってくる。短い時間で相手の弱点を探る癖をつけな」
「了解」
それが一番難しそうだが、そこはもうアレクの言うように癖になるまで何度も練習し続けるしかないだろう。
「レイさんは上級魔法が使えるが、レベルが低い分メンタル切れが起きやすい。レベルがある程度上がるまではマジックポーションを切らさないように多めに用意することを勧めるよ」
「は、はい。メンタル切れ、ポーション切れに注意します」
レイはそう言って、買ったばかりの鞄の中身をチェックした。
彼女の魔法はかなりの火力になる。
こちらがアルラウネをいくら叩いても倒すのにはある程度の時間がかかるが、レイの場合は属性が合えば下手すると一瞬だ。
ポーションが切れないように、レイが持ち切れない分は私も用意してた方が良さそうだな。
「……レイ、新しい杖の調子はどう?」
「中々良いわよ」
彼女が手にしているのは前と違って安物じゃない、レイの属性魔法に適した杖。
今は火魔法の威力を30パーセント上げるものを使っているが、水魔法の威力を増す武器も一緒に買ってある。
もちろん選んでくれたのはアレクだが、お陰様でアルラウネとレイとのレベル差があんなに有っても、火力アップさせた彼女の魔法によって一瞬で倒せていた。
つまり戦略勝ちだ。
その一部にアルラウネがよく集まる区域があるらしいのだが、移動に道を使う商人や旅人の足を引っ掛けたり、荷物を横取りしたりと困った悪さするので、数を減らしてほしいという内容の依頼だった。
今回は討伐対象がいる森の入り口まで、借馬をして行くのだという。
レイは乗馬経験があったので特に問題もなく……そして私の方は、前世では全くの未経験ではあったが、一回で普通に乗れたのでそのまま一人で騎乗することになった。
レイは「せっかくだからアレクさんの後ろに乗りなよ~」とか「逆にフォルが前の方が絵になるかしら」なんて、よく分からないことを口走っていたが、馬には自分で乗りたかったからレイの申し出は全てスルー。
借馬代を節約したいんだったら、レイがアレクの後ろか前に乗れば良いじゃないか。
と、いうようなことを彼女に伝えたら、
「それだと意味ないんじゃあ!」
と謎に憤っていた。
そこでなぜ怒る?
絵になるからという理由なら、レイとアレクの方がずっと映えそうなのにな。
私のこの格好だと、少し見る目を変えたらまるで男同士がくっついてるみたいだと錯覚を起こすだろうに……ん?
男同士?
……あ、そうか!
もしかして……この世界にもあるのか?
あの腐のつく不思議な文化が!
それでレイは……。
なるほどなぁ……あの独特な世界観は私も別に嫌いじゃあないぜ?
でも私はこれでも歴とした女だから、残念ながらレイの希望通りには行かないんだぞ。
馬でしばらく走ると、目的のジャングルまで着くことができた。
たまに襲ってくる昆虫のモンスターを適当に蹴散らしながら、今度は徒歩で森の中へと進む。
一時間ほど歩いて、アルラウネが大量に生息する区域へと入った。
するとまるで待ち構えていたかのように、大きな花のモンスターがこちらへと大群で向かってくる。
さっそく戦闘開始となった。
私は威圧魔法を展開させて、できる限りの足止めを図る。
そして、まだ動いているアルラウネを優先的に倒していった。
レイとこの花のモンスターとのレベル差は15だが、レイの火魔法はアルラウネの弱点属性になっているから、ほぼ倍くらいの威力があるのだ。
レイのレベルアップのための相手としては、中々手頃なとこだろう。
(経験値はうまいし、敵はこちらより不利な状況という素晴らしさよ)
そんなことを考えていると、後ろの方で鋭い何かが植物を斬ったような音がした。
青いマントがひらりと翻る姿を目だけで追う。
「フォル、後ろから1匹迫ってたぞ。あまり威圧魔法に頼りすぎるな」
目の前の敵に集中し過ぎていたためか、うっかりアレクの補助を受けてしまう。
そして私の後頭部に、彼の背中がトンと当たる感覚がした。
「急所は花弁の裏から伸びている茎と下にある根だ。そこを中心的に狙え。アルラウネは鈍足だが、厄介なのは体の自由を奪ってくるツルだ。絡まれる前には切れよ? 花の顔に近づき過ぎると鋭い歯で噛まれるから、なるべく後ろから回り込め」
「了解」
私は耳元で聞こえるアレクの助言を、すぐに頭の中へと叩き込む。
遠距離から威圧、そしてなるべく背後を取れるように動き回ろう。
「それとあいつたまに毒液吐くからさ、気をつけな。かかると皮膚が気触れるし、しばらく臭せえぞ?」
「うげ……了解」
というかそれ、もっと早く言って。
肌が気触れるのも臭いのもさすがにちょっとごめんだ。
アレクはそれだけ言うと、再びレイの元へと戻っていった。
「レイさん、あんたはフォルを援護しながら、外側から火魔法を放って。範囲魔法は森を焼く可能性があるから、今回はなるべく単体攻撃でいく。ピンポイントで連射してくれ。俺は少し離れた後方にいるから、危なかったらフォローに入る」
「了解です」
そんな会話が後ろの方で聞こえた直後、レイの手の中から火のショットが飛び出して、連続でアルラウネの体へと降りかかる。
モンスターとはいえやはり植物……対象はレイの魔法で呆気なく一瞬で燃え尽きた。
この場での攻撃のメインはやはりレイだな。
「フォル、短剣が使えてないぞ!」
「おっと」
利き手じゃない方の扱いはなかなか難しいんだ。
まぁ、これも鍛錬あるのみ。
「フォル! レイさんの周りにモンスターを近づけさせるな! 前衛は後衛パーティを絶対に守り抜け!」
「やば! レイ、ごめんな!」
私はレイに寄って行ったアルラウネの元へと全力で走る。
そしてモンスターの後ろから、すかさず斬りつけた。
「ひえ……アレクさん、フォルに厳しい……」
「……それだけ期待してるんだ」
アレクはレイにしか聞こえないくらいの声でそう呟く。
そうして50体ほど倒せたあたりで、レイのマジックポイントが尽きた。
アレクの合図で、私たちはアルラウネが追ってこない別の場所へと一旦引く。
一先ずはポーションを片手に休憩だ。
「フォルの持ち味は身軽さからくるスピードだから、力で押せねーなら戦い方を工夫するしかない。相手の弱点を掴んでうまく立ち回れば、格上にもかなりの打撃を与えられるはずだ」
「なるほど……敵の下調べがやはり肝なんだな」
アレクは頷いた。
「だが、それだけじゃねえぞ? 外の世界を生きていれば、突然現れた敵の弱点をとっさに判断しなきゃならねー時も当然やってくる。短い時間で相手の弱点を探る癖をつけな」
「了解」
それが一番難しそうだが、そこはもうアレクの言うように癖になるまで何度も練習し続けるしかないだろう。
「レイさんは上級魔法が使えるが、レベルが低い分メンタル切れが起きやすい。レベルがある程度上がるまではマジックポーションを切らさないように多めに用意することを勧めるよ」
「は、はい。メンタル切れ、ポーション切れに注意します」
レイはそう言って、買ったばかりの鞄の中身をチェックした。
彼女の魔法はかなりの火力になる。
こちらがアルラウネをいくら叩いても倒すのにはある程度の時間がかかるが、レイの場合は属性が合えば下手すると一瞬だ。
ポーションが切れないように、レイが持ち切れない分は私も用意してた方が良さそうだな。
「……レイ、新しい杖の調子はどう?」
「中々良いわよ」
彼女が手にしているのは前と違って安物じゃない、レイの属性魔法に適した杖。
今は火魔法の威力を30パーセント上げるものを使っているが、水魔法の威力を増す武器も一緒に買ってある。
もちろん選んでくれたのはアレクだが、お陰様でアルラウネとレイとのレベル差があんなに有っても、火力アップさせた彼女の魔法によって一瞬で倒せていた。
つまり戦略勝ちだ。
応援ありがとうございます!
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