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81 王都を脱出
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もうしばらくの間、オバさんにお付き合いいたたげますと幸いです。よろしくお願い致します。
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「それで、この方たちは村原さんを護ろうと……?」
「だと思います。広間で朝ご飯を食べ終わった頃、いきなり王様やお姫様達が倒れて、その、みんな倒れて大騒ぎになって……そしたらトリアさん…その騎士さんが私を抱えてこの部屋まで走って──メローさんとフィーリスさんも来てくれて……」
(それであそこに籠城していたのか……)
長い睫毛をバサバサと音が出そうな勢いで瞬きしながらたどたどしく説明してくる村原由芽(さっき改めて自己紹介してもらった)にミユキは遠い目をして頷いた。
制服に着替えた由芽は、これまたどこのモデルさん?というくらいの美しい女子高生だったが、どこか挙動不審である。
「じゃ、行きますか」
「あっ、ちょっと待ってください、すみません」
ぼーっと突っ立っている男子高校生達に声をかけると、由芽が慌ててベッドのほうに走って行った。
「すみません、眼鏡とスマホを……ああ、マスクが……」
ぺこぺこしながら枕あたりのカバーを少しはがしてその下から眼鏡とスマホを取り出した由芽は、よかったとため息をついた。
「マスク?」
「あの、私、花粉症で、一年中マスクしてて、目も悪くて、これがないと歩けないくらいで、こっちにきてからは何だかよくは見えるんですが、戻ってまた見えなくなったら困るから……でもマスクは捨てられちゃったみたいです」
「あぁ!」
いきなり声を上げた秋月を見ると、うんうんと頷いている。
「思い出した。同じクラスだよね?」
そう言われた由芽の顔色は目に見えて青くなった。
「………っ、すみません……そ、そうなんですね? 私、その、まだ女の子の名前と顔しか覚えてなくて、すみません」
「「………」」
「大丈夫ですよ、村原さん。同じクラスに話したことがない、知らない人がいても、普通だと思いますよ。そんなひとは他にもいます」
うんうんと頷きながら言うミユキを白い目で見る塩谷である。
「………秋月です。よろしく」
「村原です……よろしくお願いします」
「あ、俺は塩谷です。前回喚ばれました。学校は違います」
「はぁ……」
「そんじゃ移動しますか。皆さん、この辺を掴んでください」
ビミョーな空気の中での淡々とした自己紹介がおわり、ミユキが腕を出した。そこに塩谷が手を乗せ、秋月も習う。由芽もそっと手を乗せた。それから眠る三人をみて頭を小さく下げる。お礼なのだろう。
「では、さん、はい!」
残るは、静寂である。
「あ、やっと戻ってきた! ミユキさん、その子で全員集合ですよ。それからキャサリンさん達は……」
四人で元の部屋に戻ると、怜美が駆け寄ってきたが、由芽を見て一瞬動きが止まる。由芽はぺこりと頭を下げてぎこちなく微笑んだ。
「村原です。よろしくお願いします」
「あ、瀧本です」
「小山内です」
「怜美ちゃん、ゴメンね、キャサリンさんがどうかしましたか?」
ほのぼのと自己紹介が始まっていたのにと、申し訳なさそうな顔のミユキの質問に怜美は笑みを浮かべて答えた。
「ドラゴンさん達と一緒に先に行くって言って飛んでっちゃいましたよ」
壊れた窓を指差して笑う怜美にミユキもははっと笑った。
「では私たちも行きますか」
頷く怜美達に、ミユキは日本人の人数を確認してから大きく息を吸った。
「皆さん、すみませんが、これから世界樹の元に移動したいと思います。大変申し訳ありませんが、詳しいことはそちらで説明させていただきます」
一瞬の沈黙があったが、すぐにざわつき出す。ざわついているのは主に新・勇者達だ。元祖勇者達はただ黙していた。少々眉間に皺を寄せていたが。
「こちらにはまた必ず戻ってきます。運命の人に出会ったとか、世界を救えと教示があったとかはあちらでじっくりお話を伺います。とにかく一旦ここから離れますので、すみませんがお近くの方と手を繋いでください」
誰だよあれ、とか何だよせっかく、とかブツブツ言う者たちを秋月や柿崎が窘めたりすかしたりしている間に、ミユキはサルモー達の近くに行った。
「みんな、大丈夫ですか?」
「うん! ミユキさん、ありがとうございました。それで……世界樹ってホントにあるの?」
「あぁ、うん。何かすごい大きな木があって、その近くにエルフの国があるらしくてね。そこにちょっと用事があるので行ってくるよ。その前に皆さんには借りたものを返すので、倒れた人達もたぶんみんな目を覚ますかな?」
横で話を聞いているロンブスが拳を握りしめてふるふると震えているが、ミユキは気づかないふりをした。やぶ蛇はゴメンである。
「とりあえず、何か聞かれたら私は大丈夫だから変に嘘はつかずに、見たまんま答えてね」
行き先については人間はほぼ行けないらしいし、明日にはこちらに戻ってくる予定だからバレても問題ないだろう。
(しかしこれでオーク大虐殺に魔導師大量昏倒事件に続き、勇者様大誘拐犯の罪が追加か……)
アンニュイな気分になってきたミユキの肩にコウスケが手を乗せた。
「ミユキ殿」
コウスケの腕の中にはふたばがいる。
「おぉ、ふたば、いい子にしてた?」
耳の付け根を指で掻きながら尋ねると、ふたばは目を細めて尻尾を振った。当たり前だとのことらしい。顔を寄せるとぺろりとサービスしてくれた。コウスケが射るような視線を投げてくるが、こちらも気づかないふりをする。
ふたばをこちらにおいていくのは正直嫌だが、ああまで言われるということは何かあるのだろう。申し訳ないがコウスケにお願いするしかないようだ。本当に連れて行きたいけども。
無数の視線を感じ、顔を上げると手を繋いだ高校生達が無言で見てたのでへらりと笑ってごまかしたミユキである。
(さて、これでうまくいきますように。借りたものは返します~、皆様ありがとうございました~。ルルラララ~ついでに起きてねルルラララ~)
心に念じ、拝むように手を合わせた後パンと鳴らす。
不思議そうに顔を見る怜美と、反対側に立つ由芽に笑んで二人の手を握った。コウスケはふたばを抱いているのでミユキの後ろから肩に手を乗せている。
「では皆様、繋いだ手をしっかり握ってください。よろしいですか? あ、そうだ。世界樹さん、どうか弾かないでくださいね~。では行きますよ~ さん、はい!」
え、と数人が顔をミユキに向けたときには、黒髪の勇者御一行の姿は消えていた。
(……サンハイって、なに?)
扉の向こうがざわめきだした。ロンブスは頭を軽く振って後輩達に声をかける。
「それじゃあみんな、帰ろうか?」
主役はいないし、更に騒ぎは大きくなるだろう。
どさくさに紛れていなくなったところで、誰も気にしないに違いない。
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