オタクおばさん転生する

ゆるりこ

文字の大きさ
81 / 91

81 王都を脱出

しおりを挟む

かなり間が空いてしまい申し訳ございません。
もうしばらくの間、オバさんにお付き合いいたたげますと幸いです。よろしくお願い致します。


===============================




「それで、この方たちは村原さんを護ろうと……?」

「だと思います。広間で朝ご飯を食べ終わった頃、いきなり王様やお姫様達が倒れて、その、みんな倒れて大騒ぎになって……そしたらトリアさん…その騎士さんが私を抱えてこの部屋まで走って──メローさんとフィーリスさんも来てくれて……」

(それであそこに籠城していたのか……)

 長い睫毛をバサバサと音が出そうな勢いで瞬きしながらたどたどしく説明してくる村原由芽(さっき改めて自己紹介してもらった)にミユキは遠い目をして頷いた。
 制服に着替えた由芽は、これまたどこのモデルさん?というくらいの美しい女子高生だったが、どこか挙動不審である。

「じゃ、行きますか」
「あっ、ちょっと待ってください、すみません」

 ぼーっと突っ立っている男子高校生達に声をかけると、由芽が慌ててベッドのほうに走って行った。

「すみません、眼鏡とスマホを……ああ、マスクが……」

 ぺこぺこしながら枕あたりのカバーを少しはがしてその下から眼鏡とスマホを取り出した由芽は、よかったとため息をついた。

「マスク?」
「あの、私、花粉症で、一年中マスクしてて、目も悪くて、これがないと歩けないくらいで、こっちにきてからは何だかよくは見えるんですが、戻ってまた見えなくなったら困るから……でもマスクは捨てられちゃったみたいです」

「あぁ!」

 いきなり声を上げた秋月を見ると、うんうんと頷いている。

「思い出した。同じクラスだよね?」

 そう言われた由芽の顔色は目に見えて青くなった。

「………っ、すみません……そ、そうなんですね? 私、その、まだ女の子の名前と顔しか覚えてなくて、すみません」

「「………」」

「大丈夫ですよ、村原さん。同じクラスに話したことがない、知らない人がいても、普通だと思いますよ。そんなひとは他にもいます」

 うんうんと頷きながら言うミユキを白い目で見る塩谷である。

「………秋月です。よろしく」
「村原です……よろしくお願いします」
「あ、俺は塩谷です。前回喚ばれました。学校は違います」
「はぁ……」

「そんじゃ移動しますか。皆さん、この辺を掴んでください」

 ビミョーな空気の中での淡々とした自己紹介がおわり、ミユキが腕を出した。そこに塩谷が手を乗せ、秋月も習う。由芽もそっと手を乗せた。それから眠る三人をみて頭を小さく下げる。お礼なのだろう。


「では、さん、はい!」


 残るは、静寂である。






「あ、やっと戻ってきた! ミユキさん、その子で全員集合ですよ。それからキャサリンさん達は……」

 四人で元の部屋に戻ると、怜美が駆け寄ってきたが、由芽を見て一瞬動きが止まる。由芽はぺこりと頭を下げてぎこちなく微笑んだ。

「村原です。よろしくお願いします」
「あ、瀧本です」
「小山内です」

「怜美ちゃん、ゴメンね、キャサリンさんがどうかしましたか?」

 ほのぼのと自己紹介が始まっていたのにと、申し訳なさそうな顔のミユキの質問に怜美は笑みを浮かべて答えた。

「ドラゴンさん達と一緒に先に行くって言って飛んでっちゃいましたよ」

 壊れた窓を指差して笑う怜美にミユキもははっと笑った。

「では私たちも行きますか」

 頷く怜美達に、ミユキは日本人の人数を確認してから大きく息を吸った。

「皆さん、すみませんが、これから世界樹の元に移動したいと思います。大変申し訳ありませんが、詳しいことはそちらで説明させていただきます」

 一瞬の沈黙があったが、すぐにざわつき出す。ざわついているのは主に新・勇者達だ。元祖勇者達はただ黙していた。少々眉間に皺を寄せていたが。

「こちらにはまた必ず戻ってきます。運命の人に出会ったとか、世界を救えと教示があったとかはあちらでじっくりお話を伺います。とにかく一旦ここから離れますので、すみませんがお近くの方と手を繋いでください」

 誰だよあれ、とか何だよせっかく、とかブツブツ言う者たちを秋月や柿崎が窘めたりすかしたりしている間に、ミユキはサルモー達の近くに行った。

「みんな、大丈夫ですか?」
「うん! ミユキさん、ありがとうございました。それで……世界樹ってホントにあるの?」
「あぁ、うん。何かすごい大きな木があって、その近くにエルフの国があるらしくてね。そこにちょっと用事があるので行ってくるよ。その前に皆さんには借りたものを返すので、倒れた人達もたぶんみんな目を覚ますかな?」

 横で話を聞いているロンブスが拳を握りしめてふるふると震えているが、ミユキは気づかないふりをした。やぶ蛇はゴメンである。

「とりあえず、何か聞かれたら私は大丈夫だから変に嘘はつかずに、見たまんま答えてね」

 行き先については人間はほぼ行けないらしいし、明日にはこちらに戻ってくる予定だからバレても問題ないだろう。

(しかしこれでオーク大虐殺に魔導師大量昏倒事件に続き、勇者様大誘拐犯の罪が追加か……)

 アンニュイな気分になってきたミユキの肩にコウスケが手を乗せた。

「ミユキ殿」

 コウスケの腕の中にはふたばがいる。

「おぉ、ふたば、いい子にしてた?」

 耳の付け根を指で掻きながら尋ねると、ふたばは目を細めて尻尾を振った。当たり前だとのことらしい。顔を寄せるとぺろりとサービスしてくれた。コウスケが射るような視線を投げてくるが、こちらも気づかないふりをする。

 ふたばをこちらにおいていくのは正直嫌だが、ああまで言われるということは何かあるのだろう。申し訳ないがコウスケにお願いするしかないようだ。本当に連れて行きたいけども。

 無数の視線を感じ、顔を上げると手を繋いだ高校生達が無言で見てたのでへらりと笑ってごまかしたミユキである。

(さて、これでうまくいきますように。借りたものは返します~、皆様ありがとうございました~。ルルラララ~ついでに起きてねルルラララ~)

 心に念じ、拝むように手を合わせた後パンと鳴らす。
 不思議そうに顔を見る怜美と、反対側に立つ由芽に笑んで二人の手を握った。コウスケはふたばを抱いているのでミユキの後ろから肩に手を乗せている。

「では皆様、繋いだ手をしっかり握ってください。よろしいですか? あ、そうだ。世界樹さん、どうか弾かないでくださいね~。では行きますよ~ さん、はい!」


 え、と数人が顔をミユキに向けたときには、黒髪の勇者御一行の姿は消えていた。




(……サンハイって、なに?)


 扉の向こうがざわめきだした。ロンブスは頭を軽く振って後輩達に声をかける。

「それじゃあみんな、帰ろうか?」

 主役はいないし、更に騒ぎは大きくなるだろう。
 どさくさに紛れていなくなったところで、誰も気にしないに違いない。



しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

魔法学校の落ちこぼれ

梨香
ファンタジー
昔、偉大な魔法使いがいた。シラス王国の危機に突然現れて、強力な魔法で国を救った。アシュレイという青年は国王の懇願で十数年を首都で過ごしたが、忽然と姿を消した。数人の弟子が、残された魔法書を基にアシュレイ魔法学校を創立した。それから300年後、貧しい農村の少年フィンは、税金が払えず家を追い出されそうになる。フィンはアシュレイ魔法学校の入学試験の巡回が来るのを知る。「魔法学校に入学できたら、家族は家を追い出されない」魔法使いの素質のある子供を発掘しようと、マキシム王は魔法学校に入学した生徒の家族には免税特権を与えていたのだ。フィンは一か八かで受験する。ギリギリの成績で合格したフィンは「落ちこぼれ」と一部の貴族から馬鹿にされる。  しかし、何人か友人もできて、頑張って魔法学校で勉強に励む。 『落ちこぼれ』と馬鹿にされていたフィンの成長物語です。  

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

処理中です...