オタクおばさん転生する

ゆるりこ

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 改めて三人で部屋の奥に進むと、ガタイがいい鎧を身につけた騎士らしき男がドアの前に眠っていた。眠る直前までこのドアの奥を護っていたようだ。きっと女の子はこの奥にいるのだろう。

「なんか、いかにも忠実な騎士って感じですね」と感慨深げな塩谷。いや、懐かしげというべきか。
「こっちの人たちって、なんか異常なくらいに黒目黒髪を信仰してませんか?」
 冷ややかな目で騎士を見下ろす秋月である。
「え、そうなの? 街中歩いたけどそんな感じじゃなかったような……。やはり、白髪も混じったオバさんだからかな……」
「いや、だからそれはミユキさんが認識阻害やってるからじゃないですか? 大体白髪とか全然ないですよね? (そもそもじろじろ見られても気付かない気がするけどね! このひとは) それにキミもそれ判っててお城から出て酒場まで来たの?」
「え、あ、そういえばそうですね。まあ、先輩方にも会えたし結果よければ全てよしと言うことで(にこり)」
「え? (転生サービスで黒くしてくれたのかな? うーん、それにその認識阻害なんだけど、まるでなんだか判らないっていうか……それさえもオートのサービスなのか)まぁいいか、よっこいしょっと失礼しますね、鎧の若者よ」

「「………(若者……?!)」」

 男子高校生ふたりを前に、ミユキは鎧を頭以外フル装備した男の脇の下に手を入れて座らせるとそのまま少し持ち上げて、ガチャガチャと音を響かせながらさっきまでいた部屋へと引きずっていき、せーいっとか言いながらベッドくらいの大きさのソファの上に載せた。まるでふとんのような扱いである。

(え? それやらせるために俺たち呼びに来たんじゃ?)

 疑問符を頭上に浮かべる塩谷に、ミユキはへらへら笑いながら言った。

「いやぁ、鎧とか着た人初めて見たし、触ったわ~。やっぱ鉄っぽいのね。ステンレスじゃないのはわかったわ。勇者の皆さんのプレート? 胸当てとか革の軽装備だもんね。やっぱ何かしらの防御の魔力とかが組み込んであるのかな。エフ○フの柔術着みたいな」

「あの……重くなかったですか? 鎧とか……」
「え? あ、まぁ何とかね、ダイジョブですよ」

 心配げな秋月に、ははっと笑ったミユキは自分が腰痛持ちだったことをふと思い出した。

(ヤバいよ、忘れてたよ。あれは忘れた頃にピキっと来るんだから。あ、でも転生したからあれもリセットされたのかな。身体も軽く感じるし、そういやそうだよ、強靭な肉体だもんね。腹筋やっても何ともなかったし! ありがとう、見習い天使さん)

 時々思い出してとりあえず感謝するミユキであった。

「そんじゃ、そのドアを開けますか。女の子だろうからとりあえず私が開けますが、知らないオバさん相手に中の子がパニックになったりしたら秋月君が宥めてあげてください。──その、お知り合いですか? だったら」
「いえ、その、同じクラスですが、話したこともないし、正直どんな子だったかまるで覚えてなくて……失礼な話なんですけど」

 申し訳なさそうに目を伏せる秋月に、ミユキはうんうんと頷いた。

「大丈夫ですよ。私は失礼だとは思いません。同じクラスに話したことがない、知らない人がいても、普通だと思います」

(え? そうなの?普通なの? 知らないってのはちょっとないんじゃ……)

 内心で突っ込む塩谷はともかく、ミユキがドアに近づき、三度ノックをしたが、中からは応えがない。

「あのう、村原さん? ご無事ですか? ……私は地球人(だった)のオバさんです。無害ですよ~」

(……もはやどこに突っ込めばいいのかわからないよ……)
(地球人? 確かにそうだけど……)

 遠い目をする塩谷と笑いを堪える秋月である。

「開けますね~~」
「た、助けてください~~~~」

 少しドアを開けると同時にか細い声が返ってきたので思い切っていっぱいに開くと、中には少女ふたりとその下敷きになっている少年……もとい、少女がいた。なんというか──某歌劇団のスターに匹敵しそうな切れ長の瞳、艶やかな唇、凛とした眉、さらりと流れる黒い髪──(何でここにオス○ル様が……?)である。

「む、村原さん?」
(いや、おい秋月なんで疑問型なの? こんなん教室にいたら嫌でも目に付くし、覚えるだろうよ!? 超有名人だろうが。学校内でも誰でも知ってるレベルだろう!?)

 思わず心の中で突っ込みまくる塩谷は置いておいて、和製オス○ル様の上に寝そべるカラフルな髪の少女をひとりずつ下ろして並べたミユキは、うるうるとした瞳を向けてくる少女に手を差し伸べた。

「大丈夫ですか?」

「うう……っふうぅ」

 ミユキの手を掴んだ瞬間、少女の涙腺は決壊したようだ。最初の泣き声こそ子供のようだったが、ビジュアルは凄まじいものがある。上気した頬に、泣き声を堪えようとして震える唇。眉間に薄く皺を寄せて切れ長の瞳からはらはらと零れ落ちる涙は映画のワンシーンのように美しい。男二人は動きを止めて少女を見つめていた。

「よしよし」

 膝をついたミユキは少女を抱きしめて頭を撫でた。ざっと見た限り怪我などはないようだ。
 初対面の人間を抱きしめるなど、今までやったことがなかったのでかなりぎこちないが、これまで不安だったのだろうと思うと気の毒で、思わず撫でてしまうのだ。サラサラだった。

「村原さん、ですか?」

 おだやかなミユキの問いに、こくりと少女が頷いた。

「制服は、この部屋にあります?」

「はい、そこのお風呂に置いてますので、すぐに着替えます」

 何かを察しているのか、少女は立ち上がった。すらりとした体型で、背が高い。間近で見ると伏せた睫毛が上下ともばっさばさである。ますますオス○ル様であった。

「そんじゃ、そこの女の子たちを外に出しますね。塩谷くんと秋月くん、すみませんが寝室を探してください。そこにこの子達を寝かせましょう」

 水色の髪の少女を横抱きしたミユキはドアの外に出るとスタスタと歩き出した。秋月は慌てて先に行き、迷わず寝室へのドアを開けた。自分の部屋と同じ間取りだったのだろう。塩谷は明るい茶色の髪の少女を抱えようとしたが、触っていいものか悩んでいるうちにミユキが戻ってきて、これまたさっさと抱えて行ってしまった。というか、普通の女性は気を失った人をあんな抱え方で運べないのでは? とやはり頭上に盛大に疑問符を浮かべながら、無人になったもはや脱衣所の広さではないような、かなり無駄な広さの部屋から出て、静かにドアを閉めた塩谷なのだった。





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