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82 ふたたびの世界樹
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(あれ? こんなとこだったっけ?)
到着後ささっと人数を確認したミユキは全員揃っており、弾かれた者はいなかったのでほっとした──いや、弾かれたのか? 勇者達を連れ戻った場所は、先ほどのところから微妙に距離があるようなので世界樹的に妥協してくれたのかもしれない。
世界樹の全貌が見えるわけではないが、木だなぁとわかるくらいの距離だ。だがそれが、この樹の大きさを実感させている。幹の太さはわかるくらいに遠いのに、頭上にはその枝葉が生い茂っているのだから。
(夏みたいな感じだなぁ)
見上げるとさっき後にしたときには緑は増え始めていて新緑のような、若葉のころ、みたいな──だったのだが、今はすごい勢いで緑が生い茂っていて、青空が見えないくらいである。そして振り返ると木漏れ日の中、草原をたくさんの色とりどりの光が蛍のように舞っていた。
「……何あれ……きれい……」
誰かがため息と共に呟いた。
「すげぇ、これが世界樹っていうの」
「でか……」
「あ、あれ……」
光の舞う中、蒼いドラゴンがゆっくりと頭を上げると翼を一度大きく羽ばたかせ、低く地を這い泳ぐように飛んできた。数人が悲鳴を上げる。しかし、ミユキの少し手前で着地したときには水色の髪の少年になっていて、満面の笑顔で駆け、ミユキに抱きついたのだった。
「ミユキさん、おかえりなさい」
かなりの勢いのよさだったが、ミユキはがっしりと受け止めた。体幹が優れているのか、揺らぐことがない。
「た、ただいま、カケルくん」(どうしたカケルくん? 距離感が……なくなってるよ!)
慌てるミユキにコウスケが静かに伝えてくる。
「ミユキ殿、ふたば殿が空腹だそうだが」
「え?」
コウスケの腕の中のふたばが、ふんすと鼻を鳴らした。このふたり?はいつの間にか意思疎通ができるようになっているらしい。やはりコウスケにお願いしなければとミユキは思った。けれど強請られるままに食べ物を与えるのは控えてもらわねばなるまい。
「あ、ごめんよ、そんな時間か」
ふたばの腹時計はあまり当てにならないが、とりあえず全員で何か食べれば話し合いも交流もうまくいきそうな気がしたミユキは辺りを見回し、声をかける。
「立花君、徳山君、お願いがあります」
呆然と世界樹を見ていたふたりは何だか嬉しそうに走り寄ってきた。
「なに?」
「何ですか?」
「みなさんにご飯の作りかたを教えていただけませんか? 材料と道具は出しますんで……あとテント設営も指導をお願いします。よし、みなさーん、お疲れのところ申し訳ありませんが、早めにご飯の準備を始めましょう~!」
「え?」
近くにいた女子生徒がミユキを見た。
(オバさんなんだからこんなとき普通、いかにもって感じでドヤ顔で料理始めるんじゃないの?)
「ああ、そうだなー」
「わかりました」
「さっきと同じお肉なんですが、バーベキュー以外思い浮かばなくて……アウトドアやったことないから……遠い昔はキャンプといえばカレーくらいしか……他に何かありますかね~」
「豚みたいなもんだからな~、ダッチオーブンで……」
「カレー……!」
ふらふらと怜美が寄ってきた。
「「「カレー」」」
気がつけば元祖勇者達が呪文を唱えるかのように集まってきている。怜美が泣きそうな顔で訴えた。
「ミユキさん、カレーライスタベタイ、デス」
え、何故カタコトに?と言いながらミユキはアイテムボックスの検索を始めた。定期的にカレーを食べたくなるミユキの台所には必ずルーが常備してあったのだ。それを取り出して掲げてみせると元祖勇者達の視線が釘付けになった。
「すみません。これの中辛しか持っていませんがこれでよければ食べましょう」
ジャ○カレー中辛。ミユキ宅のカレールーは、これ一択であった。何がきっかけだったのか20年ほどこれである。ここまできたら冷蔵庫の中身もないのかと探ると、これまた律儀にほぼ全て揃っているようだ。レシピ通りに調味料を揃えなければ気が済まないミユキの冷蔵庫には、ないものはないんじゃない?というくらいにスーパーで揃えられる調味料は大体揃っていたのだった。
(……これってほんとふたばと森にこもっても生きていけるんじゃないの?)
冷蔵庫の野菜室にはじゃがいももたまねぎもにんじんも──昨日市場で買うことなかったのでは?──、今は使わないかもしれないけれど、トマトも椎茸もシメジもナスもあったし、茹でて保管していた小松菜もブロッコリーも、豆腐もハムもウインナーに納豆も──以下略。ミユキの買いだめするだらしない性格が幸いしたようだ。常備していた物はそのままあった。ラッキョウも福神漬けも梅干しも──低脂肪牛乳も以下略。
立花と徳山にこの人数に必要そうな道具と材料を言われるがままどこからともなくとり出したミユキは、その光景に呆気にとられていた新勇者達を元祖勇者達に任せ、コウスケとカケルとともに世界樹の元に歩いていった。カケルはふたばとじゃれ合いながら走っていて、その周りをふよふよと淡い光が舞い踊っている。
世界樹の元には、イークレスの他大勢の人がいた。こゆみのほかはおそらくエルフ族なのだろう。何だか全体的に色彩が緑っぽいし……自然派?などと考えているとこゆみ以外の全員が跪き、頭を垂れた。
(いや、もうそれいいから……)
本日二度目の光景に、アンニュイな気分になるミユキであった。
到着後ささっと人数を確認したミユキは全員揃っており、弾かれた者はいなかったのでほっとした──いや、弾かれたのか? 勇者達を連れ戻った場所は、先ほどのところから微妙に距離があるようなので世界樹的に妥協してくれたのかもしれない。
世界樹の全貌が見えるわけではないが、木だなぁとわかるくらいの距離だ。だがそれが、この樹の大きさを実感させている。幹の太さはわかるくらいに遠いのに、頭上にはその枝葉が生い茂っているのだから。
(夏みたいな感じだなぁ)
見上げるとさっき後にしたときには緑は増え始めていて新緑のような、若葉のころ、みたいな──だったのだが、今はすごい勢いで緑が生い茂っていて、青空が見えないくらいである。そして振り返ると木漏れ日の中、草原をたくさんの色とりどりの光が蛍のように舞っていた。
「……何あれ……きれい……」
誰かがため息と共に呟いた。
「すげぇ、これが世界樹っていうの」
「でか……」
「あ、あれ……」
光の舞う中、蒼いドラゴンがゆっくりと頭を上げると翼を一度大きく羽ばたかせ、低く地を這い泳ぐように飛んできた。数人が悲鳴を上げる。しかし、ミユキの少し手前で着地したときには水色の髪の少年になっていて、満面の笑顔で駆け、ミユキに抱きついたのだった。
「ミユキさん、おかえりなさい」
かなりの勢いのよさだったが、ミユキはがっしりと受け止めた。体幹が優れているのか、揺らぐことがない。
「た、ただいま、カケルくん」(どうしたカケルくん? 距離感が……なくなってるよ!)
慌てるミユキにコウスケが静かに伝えてくる。
「ミユキ殿、ふたば殿が空腹だそうだが」
「え?」
コウスケの腕の中のふたばが、ふんすと鼻を鳴らした。このふたり?はいつの間にか意思疎通ができるようになっているらしい。やはりコウスケにお願いしなければとミユキは思った。けれど強請られるままに食べ物を与えるのは控えてもらわねばなるまい。
「あ、ごめんよ、そんな時間か」
ふたばの腹時計はあまり当てにならないが、とりあえず全員で何か食べれば話し合いも交流もうまくいきそうな気がしたミユキは辺りを見回し、声をかける。
「立花君、徳山君、お願いがあります」
呆然と世界樹を見ていたふたりは何だか嬉しそうに走り寄ってきた。
「なに?」
「何ですか?」
「みなさんにご飯の作りかたを教えていただけませんか? 材料と道具は出しますんで……あとテント設営も指導をお願いします。よし、みなさーん、お疲れのところ申し訳ありませんが、早めにご飯の準備を始めましょう~!」
「え?」
近くにいた女子生徒がミユキを見た。
(オバさんなんだからこんなとき普通、いかにもって感じでドヤ顔で料理始めるんじゃないの?)
「ああ、そうだなー」
「わかりました」
「さっきと同じお肉なんですが、バーベキュー以外思い浮かばなくて……アウトドアやったことないから……遠い昔はキャンプといえばカレーくらいしか……他に何かありますかね~」
「豚みたいなもんだからな~、ダッチオーブンで……」
「カレー……!」
ふらふらと怜美が寄ってきた。
「「「カレー」」」
気がつけば元祖勇者達が呪文を唱えるかのように集まってきている。怜美が泣きそうな顔で訴えた。
「ミユキさん、カレーライスタベタイ、デス」
え、何故カタコトに?と言いながらミユキはアイテムボックスの検索を始めた。定期的にカレーを食べたくなるミユキの台所には必ずルーが常備してあったのだ。それを取り出して掲げてみせると元祖勇者達の視線が釘付けになった。
「すみません。これの中辛しか持っていませんがこれでよければ食べましょう」
ジャ○カレー中辛。ミユキ宅のカレールーは、これ一択であった。何がきっかけだったのか20年ほどこれである。ここまできたら冷蔵庫の中身もないのかと探ると、これまた律儀にほぼ全て揃っているようだ。レシピ通りに調味料を揃えなければ気が済まないミユキの冷蔵庫には、ないものはないんじゃない?というくらいにスーパーで揃えられる調味料は大体揃っていたのだった。
(……これってほんとふたばと森にこもっても生きていけるんじゃないの?)
冷蔵庫の野菜室にはじゃがいももたまねぎもにんじんも──昨日市場で買うことなかったのでは?──、今は使わないかもしれないけれど、トマトも椎茸もシメジもナスもあったし、茹でて保管していた小松菜もブロッコリーも、豆腐もハムもウインナーに納豆も──以下略。ミユキの買いだめするだらしない性格が幸いしたようだ。常備していた物はそのままあった。ラッキョウも福神漬けも梅干しも──低脂肪牛乳も以下略。
立花と徳山にこの人数に必要そうな道具と材料を言われるがままどこからともなくとり出したミユキは、その光景に呆気にとられていた新勇者達を元祖勇者達に任せ、コウスケとカケルとともに世界樹の元に歩いていった。カケルはふたばとじゃれ合いながら走っていて、その周りをふよふよと淡い光が舞い踊っている。
世界樹の元には、イークレスの他大勢の人がいた。こゆみのほかはおそらくエルフ族なのだろう。何だか全体的に色彩が緑っぽいし……自然派?などと考えているとこゆみ以外の全員が跪き、頭を垂れた。
(いや、もうそれいいから……)
本日二度目の光景に、アンニュイな気分になるミユキであった。
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