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84 カレーを作る、の巻
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「こんなテーブルがあるんだ……」
嬉々としてタマネギの皮をむく立花を前に夏光は関心しきりである。これまでアウトドアになじみがない生活だったこともあるが、ミユキが出すグッズは最新式ばかりらしい(すでに二年遅れの立花・徳山談)。その最新式のキッチン台の上のステンレスのザルにはすでに皮をむかれたタマネギが10個ほどあった。
「なにこのピーラー、めっちゃ剥きやすいんですけど!?」
興奮しながら人参の皮を剥いていく怜美に、口元をほころばせながらうんうんと頷く立花。その立花に夏光が首を傾げる。
「あんた人格変わったんじゃない?」
封印のために割り振られて別れたときまでは、攻撃的でいやみっぽくて嫌な奴だったはずだ。それが、と夏光は少し離れたところに設置されたキッチンで米を研ぐすらりと背の高い女子─村原由芽とこゆみをちらりと見た。こゆみが魔法で水を出し、由芽がボウルでシャカシャカと研いでいる。ふたりに米の研ぎ方を丁寧に教えたのも立花だった。
「え、俺変わった? どう変わったんだ?」
「え、それは……」
にこにこしていい感じになったと言いたいが、それを言うと前が嫌な奴だったと言うことになるので、せっかく機嫌良くいろいろとやってくれている立花に何も言えなくなった夏光であった。そんな夏光に立花は手を止めることなく楽しげに言う。
「たまねぎってさ、切ってしばらく置いておくとなんか体に良くなるらしいぜ」
「へえ、どうよくなるの?」
「熱に弱い栄養が、置いとくと強くなるってさ」
「へ~」
「ガッテンで言ってた、らしい」
手際よくタマネギをくし切りにしながら目をしょぼしょぼとさせている。ここまで大量のタマネギを切るのだからさすがに涙も出るのだろう。
「我慢せずに泣いた方がいいらしいよ」
「え?」
「ガッテンで言ってた、かも」
てへ、と笑った夏光に、けっと返す立花を気にもかけず、怜美はピーラーに興奮しながら人参の皮をするすると剝き続ける。すばらしい! すばらしすぎるよこのピーラー! 5本ほど剥いた人参の次はじゃがいもだ。先ほど覚えた洗浄魔法をじゃがいもに使い、大きなボウルに水を張った。中学の調理実習であく抜きのために水につけると習ったからだ。水も魔法で出せる。魔法って便利だ。戻ったら使えなくなるんだろうなぁと思いながらじゃがいもに手を伸ばしたとき、背後から声がかかった。
「瀧本、さん?」
秋月だった。一際目立つ容姿なので覚えやすい。どことなく人を馬鹿にしたようなうさんくさい笑顔も特徴的だ。
「さっきJさんだったひとだよね?」
「さっき……ああ! そうそう、鏡も見てないからわかんなかったけど、かっこよかった? 知ってる俳優さん?」
「もちろん。チョー格好良かったよ。映画、観たことないの?」
「うーん、あんまり観てないしね……、帰ったら観たいからオススメあったら教えてくれる?」
「そうだね。あ、よかったらさっきじゃがいもにやってた魔法?かけてくれない?」
笑みを浮かべながら両手をひらひらと怜美に向ける秋月に、怜美はさらっと洗浄魔法をかけた。秋月はその手と怜美を交互に見つめて感心したようにため息をつく。
「すごいね。魔法が使えるなんて……。しかもすごく便利だし」
「これね、私たちが習ったのは攻撃の魔法ばかりで──魔物を倒すための、火とか雷とか氷とかだったんだけど、ミユキさんがさっき使ってたのを真似したんだ」
「魔物? そんなのがいるの?」
「うーん、たくさんいたんだけど……、いるはずなんだけど、ね」
何故だか出てこないのであった。きっとミユキのせい(おかげ?)であろうことは何となく判る怜美である。規格外のオバさんだから。
「で? 話しならこれを剥きながらにしてくれる? こっちは200年ぶりのカレーがかかってるんだから」
秋月にピーラーときれいになったジャガイモをひとつ手渡して、怜美はにこりと笑った。
コンロの上に載せた深鍋に油をおとし、小麦粉を薄くまぶした肉を炒めていく。香ばしい脂の匂いが辺りに漂い、立花はタマネギを投入した。弱火でじっくり炒めるのだ。ガスを使うこのコンロは火力を自在に調節できる。
「大きなお鍋ねぇ。しかも重そうだし」
「バッカこれチョー高いんだぞ! 高級品だ。でかいし重いけど何でも作れるし、鶏の丸焼きなんかうまいだろうなぁ……。とにかく、何でも旨くできる鍋だ!」
……ミユキさんが出してくれた鍋なのに何であんたがえらそうなの?とは言わずに曖昧に頷く夏光である。周りにふらふらと元祖勇者組が集まってきた。豚肉とタマネギを炒める匂いは暴力的なのである。
「30人分のカレーとか、作ったことあるの?」
「え?」
「材料とか、ぱぱっと言ってたじゃん!」
「ああ、父親の趣味で、徳山のお父さんと俺の父親、中学の時から同じ野外活動部?でさ、昔からその部の同窓会だかなんだかで毎年山登ってキャンプして、カレー作ってるから大体の量は判るようになったんだよ」
「へーっ」
「テント終わったよ。あーいいにおいだな」
徳山の声に二人が顔を上げると、遠くに色とりどりな上に形も様々なテントが点在している。
「すごい! あんなに種類があるんだね!」
「一人用のワンタッチのやつが多かったから楽ちんだった」
「一人用……」
「ひとりになれるんだ……」
思わず呟いた夏光に、徳山と立花は黙って頷いたのだった。
「よし! こっちはこのまま煮込むとして、飯炊くか?」
「おぉ!」
こゆみと由芽が研いだ米を水に浸しておいたライスクッカーがコンロの上にずらりと並んでいた。
「ほんとは30分くらい水につけといた方がうまいんだけど」
「じゃあ、おいしい方がいいし久々のお米だからつけとこう!」
「そうだな! じゃ、次のやつにとりかかるぞ!」
「おう! って、あれ? 怜美は?」
「瀧本さんなら、あっちに……」
由芽が視線で指して夏光が見た先には、秋月と話し込んでいる怜美と一緒に塩崎もいた。何やらどんよりとしているようだ。
「おまえら、カレーには茹で卵派? 目玉焼き派?」
真面目に聞いてくる立花に、目を見開くこゆみと由芽を見て夏光は思わず吹き出した。
「あのな、このカレー辛いってオバさん言ってただろ? カレーが辛い時は半熟の目玉焼きがいいんだって」
「そんなの誰が言ったのよ?」
「………どっかのカレー職人?」
「誰?」
思わず吹き出した夏光につられて由芽とこゆみも笑いだしたのだった。
嬉々としてタマネギの皮をむく立花を前に夏光は関心しきりである。これまでアウトドアになじみがない生活だったこともあるが、ミユキが出すグッズは最新式ばかりらしい(すでに二年遅れの立花・徳山談)。その最新式のキッチン台の上のステンレスのザルにはすでに皮をむかれたタマネギが10個ほどあった。
「なにこのピーラー、めっちゃ剥きやすいんですけど!?」
興奮しながら人参の皮を剥いていく怜美に、口元をほころばせながらうんうんと頷く立花。その立花に夏光が首を傾げる。
「あんた人格変わったんじゃない?」
封印のために割り振られて別れたときまでは、攻撃的でいやみっぽくて嫌な奴だったはずだ。それが、と夏光は少し離れたところに設置されたキッチンで米を研ぐすらりと背の高い女子─村原由芽とこゆみをちらりと見た。こゆみが魔法で水を出し、由芽がボウルでシャカシャカと研いでいる。ふたりに米の研ぎ方を丁寧に教えたのも立花だった。
「え、俺変わった? どう変わったんだ?」
「え、それは……」
にこにこしていい感じになったと言いたいが、それを言うと前が嫌な奴だったと言うことになるので、せっかく機嫌良くいろいろとやってくれている立花に何も言えなくなった夏光であった。そんな夏光に立花は手を止めることなく楽しげに言う。
「たまねぎってさ、切ってしばらく置いておくとなんか体に良くなるらしいぜ」
「へえ、どうよくなるの?」
「熱に弱い栄養が、置いとくと強くなるってさ」
「へ~」
「ガッテンで言ってた、らしい」
手際よくタマネギをくし切りにしながら目をしょぼしょぼとさせている。ここまで大量のタマネギを切るのだからさすがに涙も出るのだろう。
「我慢せずに泣いた方がいいらしいよ」
「え?」
「ガッテンで言ってた、かも」
てへ、と笑った夏光に、けっと返す立花を気にもかけず、怜美はピーラーに興奮しながら人参の皮をするすると剝き続ける。すばらしい! すばらしすぎるよこのピーラー! 5本ほど剥いた人参の次はじゃがいもだ。先ほど覚えた洗浄魔法をじゃがいもに使い、大きなボウルに水を張った。中学の調理実習であく抜きのために水につけると習ったからだ。水も魔法で出せる。魔法って便利だ。戻ったら使えなくなるんだろうなぁと思いながらじゃがいもに手を伸ばしたとき、背後から声がかかった。
「瀧本、さん?」
秋月だった。一際目立つ容姿なので覚えやすい。どことなく人を馬鹿にしたようなうさんくさい笑顔も特徴的だ。
「さっきJさんだったひとだよね?」
「さっき……ああ! そうそう、鏡も見てないからわかんなかったけど、かっこよかった? 知ってる俳優さん?」
「もちろん。チョー格好良かったよ。映画、観たことないの?」
「うーん、あんまり観てないしね……、帰ったら観たいからオススメあったら教えてくれる?」
「そうだね。あ、よかったらさっきじゃがいもにやってた魔法?かけてくれない?」
笑みを浮かべながら両手をひらひらと怜美に向ける秋月に、怜美はさらっと洗浄魔法をかけた。秋月はその手と怜美を交互に見つめて感心したようにため息をつく。
「すごいね。魔法が使えるなんて……。しかもすごく便利だし」
「これね、私たちが習ったのは攻撃の魔法ばかりで──魔物を倒すための、火とか雷とか氷とかだったんだけど、ミユキさんがさっき使ってたのを真似したんだ」
「魔物? そんなのがいるの?」
「うーん、たくさんいたんだけど……、いるはずなんだけど、ね」
何故だか出てこないのであった。きっとミユキのせい(おかげ?)であろうことは何となく判る怜美である。規格外のオバさんだから。
「で? 話しならこれを剥きながらにしてくれる? こっちは200年ぶりのカレーがかかってるんだから」
秋月にピーラーときれいになったジャガイモをひとつ手渡して、怜美はにこりと笑った。
コンロの上に載せた深鍋に油をおとし、小麦粉を薄くまぶした肉を炒めていく。香ばしい脂の匂いが辺りに漂い、立花はタマネギを投入した。弱火でじっくり炒めるのだ。ガスを使うこのコンロは火力を自在に調節できる。
「大きなお鍋ねぇ。しかも重そうだし」
「バッカこれチョー高いんだぞ! 高級品だ。でかいし重いけど何でも作れるし、鶏の丸焼きなんかうまいだろうなぁ……。とにかく、何でも旨くできる鍋だ!」
……ミユキさんが出してくれた鍋なのに何であんたがえらそうなの?とは言わずに曖昧に頷く夏光である。周りにふらふらと元祖勇者組が集まってきた。豚肉とタマネギを炒める匂いは暴力的なのである。
「30人分のカレーとか、作ったことあるの?」
「え?」
「材料とか、ぱぱっと言ってたじゃん!」
「ああ、父親の趣味で、徳山のお父さんと俺の父親、中学の時から同じ野外活動部?でさ、昔からその部の同窓会だかなんだかで毎年山登ってキャンプして、カレー作ってるから大体の量は判るようになったんだよ」
「へーっ」
「テント終わったよ。あーいいにおいだな」
徳山の声に二人が顔を上げると、遠くに色とりどりな上に形も様々なテントが点在している。
「すごい! あんなに種類があるんだね!」
「一人用のワンタッチのやつが多かったから楽ちんだった」
「一人用……」
「ひとりになれるんだ……」
思わず呟いた夏光に、徳山と立花は黙って頷いたのだった。
「よし! こっちはこのまま煮込むとして、飯炊くか?」
「おぉ!」
こゆみと由芽が研いだ米を水に浸しておいたライスクッカーがコンロの上にずらりと並んでいた。
「ほんとは30分くらい水につけといた方がうまいんだけど」
「じゃあ、おいしい方がいいし久々のお米だからつけとこう!」
「そうだな! じゃ、次のやつにとりかかるぞ!」
「おう! って、あれ? 怜美は?」
「瀧本さんなら、あっちに……」
由芽が視線で指して夏光が見た先には、秋月と話し込んでいる怜美と一緒に塩崎もいた。何やらどんよりとしているようだ。
「おまえら、カレーには茹で卵派? 目玉焼き派?」
真面目に聞いてくる立花に、目を見開くこゆみと由芽を見て夏光は思わず吹き出した。
「あのな、このカレー辛いってオバさん言ってただろ? カレーが辛い時は半熟の目玉焼きがいいんだって」
「そんなの誰が言ったのよ?」
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思わず吹き出した夏光につられて由芽とこゆみも笑いだしたのだった。
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