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「あーた○しイィあ○が来た♫きーぼ○のォあー○ーだ♫」
早朝なので小声でボソボソと歌っている。朝は、やはりこの歌だろう。6年間、夏が来るたびに毎朝歌っていたら嫌でも覚えてしまう歌だ。
昨夜の喧騒が嘘のように静かな朝の街である。
こちらに来る前は、所謂方向音痴だったらしく、行きたい方向とは反対側に向かっていることが多々あったのだが、昨日からは一度歩いた道では迷う事がなくなっていた。
(ゴル○様かキー○ン様か、とにかくありがたい)
ふたばが用をたした跡にそっと分解魔法をかけつつ、店の看板を見て回っている。
1時間ほど歩いて、冒険者ギルドと商業ギルドは見つけたが、食料や雑貨を売っている店の看板が見つからない。というか、店の名前が書いてあるだけで、売っているものが書かれていないのだ。
(開店までわからないのか。市場とかないのかなぁ)
サルモーの宿屋の裏側の通りに近づいた時、人が数人歩いていた。開店時間が近いのか、歩く人が増えてきている。
(食べ物を扱ってるかもしれないから、ちょっと入っててね)
抱きかかえたふたばが、フッと消えた。
(朝市みたいだなぁ。って、お金はどこにしまってたんだろう。アイテムボックスの仕分け項目には見当たらなかったけど…… まさか……)
アイテムボックスの仕分けページを浮かべると、案の定、右端の上の方に 1/2 とあった。石板をずらすようなイメージで、次に進む。
貴金属 2/2
オストレア家の布袋内
金貨 50枚
銀貨 30枚
予備(前世よりの繰越財産は別途保管)
・銅貨 1000枚
・小銀貨 9,000,000枚
・銀貨 9,000,000枚
・小金貨 9,000,000枚
・金貨 9,000,000枚
・小白金貨 9,000,000枚
・白金貨 9,000,000枚
・大白金貨 9,000,000枚
魂が、口から抜けていきそうになった。
(………なんだろう……?
あの見習い天使さんって金銭感覚おかしいよね?
この世界の貨幣価値はわからないけど、明らかに多いよね? 多すぎるよね?
9と0の数字が好きなのかな?
M16は貰えないのに、
レベルは上限いっててやる事ないし、
お金は何か稼がなくても一生食べていけそうなだけありそうだし……。
ブラブラ遊び人にでもなれというのかね?
いろいろ貰えてありがたいのに、何かこう、感謝のキモチが湧いてこないのは何故!?)
ふつふつと沸いてくる怒りを抑えつつ、人が増えてきた路地に入ると、市場が開かれていた。主に野菜や果物である。全体的に小ぶりだが、日本で食べていたものと種類は変わらないようだ。豆類が多く感じる。
しかし、昨夜頂いたものは、とにかく味が薄かった。塩が高いのか、他の調味料がないのか……。
ぶらぶら見て歩いていると、その店の前だけ誰もいなかった。見慣れた野菜が並んでいるのに、何故?
「それね、トマトって言うんですよ。今朝届いたばかりなんです」
若い男が愛想よく説明してくれた。
「トマト……」
日本でよく見るトマトより小ぶりで、長細い形である。イタリアントマトっぽかった。
「ええ。まだこの辺りには馴染みがないようですけど、美味しいですよ。スープに入れても、キレイに洗えばそのままでも食べられるらしいです」
「らしいって……食べたこと、ないんですか?」
「……ええ。仕入れてはみたものの……というか、今日は叔父の代理で……」
男は、気まずそうに笑った。
「これはね、炒めて煮て食べると美味しいんですけど……一盛り下さいな」
「え? えぇ。小銀貨1枚で」
ミユキは左手の袖に右手を入れて、そこから小銀貨を、出して渡す。トマトをふたつ、手のひらの上で洗浄をささっとして、男に渡した。
「ささ、ガブッと」
先にかじってみせると、甘酸っぱい、濃厚なトマトの味が口に広がる。うまいが、やはり塩だな。左の袖に右手を入れると塩の入った小さな壺が出てきた。トマトを睨みつけている男の目の前でぱらりとかけて勧める。迷った末に男は噛りついた。咀嚼して飲み込むと目が輝いている。
「う、うまい」
「でしょ。これ、あとみっつ、くださいな」
「お、はい! ありがとうございます!」
袖口に塩をしまい、おそらく入っているであろう風呂敷を所望すると、やはり出てきた。布地は麻のようだったが。上手く包むと、男は目を皿のようにして見ている。
「タライ? バケツ? 桶?にキレイな水を入れて、浮かせておいて、試しに食べてもらうといいのでは? 冷やすと更においしいですよ」
「え? はい! そうですね! ありがとうございます!」
「こちらこそ、ごちそうさまです」
店を後にして歩きながら思い出す。
(あとはニンニクと玉ねぎ……さっきあったよね~)
トマトソースである。
マニュアル人間であるミユキにとって、レシピなしで作られる料理は僅かしかない。
主婦生活が30年近く続いていても、レシピと計量カップに計量スプーンと量りは必須であった。日常の料理ですらガッチガチなのに、更に細かい分量と手順で構成されたお菓子など、目分量と記憶で作れるはずがない。適当にあるものでちゃちゃっと作れる奥様方が驚異であった。
(あと、ジャガイモと油だな)
ジャガイモは、玉ねぎと一緒にあるにはあったが、店の片隅に置かれていて売れている気配がなかった。保存が利くから皆さん買いだめしているか、トマトと同様にまだ流通が始まったばかりなのかもしれない。
油は、時代劇のように油問屋みたいなのがあるのだろうか……。
***********************
この街から旅立てるのはいつになることやら……
もうしばらくおつきあいくださいませ。
早朝なので小声でボソボソと歌っている。朝は、やはりこの歌だろう。6年間、夏が来るたびに毎朝歌っていたら嫌でも覚えてしまう歌だ。
昨夜の喧騒が嘘のように静かな朝の街である。
こちらに来る前は、所謂方向音痴だったらしく、行きたい方向とは反対側に向かっていることが多々あったのだが、昨日からは一度歩いた道では迷う事がなくなっていた。
(ゴル○様かキー○ン様か、とにかくありがたい)
ふたばが用をたした跡にそっと分解魔法をかけつつ、店の看板を見て回っている。
1時間ほど歩いて、冒険者ギルドと商業ギルドは見つけたが、食料や雑貨を売っている店の看板が見つからない。というか、店の名前が書いてあるだけで、売っているものが書かれていないのだ。
(開店までわからないのか。市場とかないのかなぁ)
サルモーの宿屋の裏側の通りに近づいた時、人が数人歩いていた。開店時間が近いのか、歩く人が増えてきている。
(食べ物を扱ってるかもしれないから、ちょっと入っててね)
抱きかかえたふたばが、フッと消えた。
(朝市みたいだなぁ。って、お金はどこにしまってたんだろう。アイテムボックスの仕分け項目には見当たらなかったけど…… まさか……)
アイテムボックスの仕分けページを浮かべると、案の定、右端の上の方に 1/2 とあった。石板をずらすようなイメージで、次に進む。
貴金属 2/2
オストレア家の布袋内
金貨 50枚
銀貨 30枚
予備(前世よりの繰越財産は別途保管)
・銅貨 1000枚
・小銀貨 9,000,000枚
・銀貨 9,000,000枚
・小金貨 9,000,000枚
・金貨 9,000,000枚
・小白金貨 9,000,000枚
・白金貨 9,000,000枚
・大白金貨 9,000,000枚
魂が、口から抜けていきそうになった。
(………なんだろう……?
あの見習い天使さんって金銭感覚おかしいよね?
この世界の貨幣価値はわからないけど、明らかに多いよね? 多すぎるよね?
9と0の数字が好きなのかな?
M16は貰えないのに、
レベルは上限いっててやる事ないし、
お金は何か稼がなくても一生食べていけそうなだけありそうだし……。
ブラブラ遊び人にでもなれというのかね?
いろいろ貰えてありがたいのに、何かこう、感謝のキモチが湧いてこないのは何故!?)
ふつふつと沸いてくる怒りを抑えつつ、人が増えてきた路地に入ると、市場が開かれていた。主に野菜や果物である。全体的に小ぶりだが、日本で食べていたものと種類は変わらないようだ。豆類が多く感じる。
しかし、昨夜頂いたものは、とにかく味が薄かった。塩が高いのか、他の調味料がないのか……。
ぶらぶら見て歩いていると、その店の前だけ誰もいなかった。見慣れた野菜が並んでいるのに、何故?
「それね、トマトって言うんですよ。今朝届いたばかりなんです」
若い男が愛想よく説明してくれた。
「トマト……」
日本でよく見るトマトより小ぶりで、長細い形である。イタリアントマトっぽかった。
「ええ。まだこの辺りには馴染みがないようですけど、美味しいですよ。スープに入れても、キレイに洗えばそのままでも食べられるらしいです」
「らしいって……食べたこと、ないんですか?」
「……ええ。仕入れてはみたものの……というか、今日は叔父の代理で……」
男は、気まずそうに笑った。
「これはね、炒めて煮て食べると美味しいんですけど……一盛り下さいな」
「え? えぇ。小銀貨1枚で」
ミユキは左手の袖に右手を入れて、そこから小銀貨を、出して渡す。トマトをふたつ、手のひらの上で洗浄をささっとして、男に渡した。
「ささ、ガブッと」
先にかじってみせると、甘酸っぱい、濃厚なトマトの味が口に広がる。うまいが、やはり塩だな。左の袖に右手を入れると塩の入った小さな壺が出てきた。トマトを睨みつけている男の目の前でぱらりとかけて勧める。迷った末に男は噛りついた。咀嚼して飲み込むと目が輝いている。
「う、うまい」
「でしょ。これ、あとみっつ、くださいな」
「お、はい! ありがとうございます!」
袖口に塩をしまい、おそらく入っているであろう風呂敷を所望すると、やはり出てきた。布地は麻のようだったが。上手く包むと、男は目を皿のようにして見ている。
「タライ? バケツ? 桶?にキレイな水を入れて、浮かせておいて、試しに食べてもらうといいのでは? 冷やすと更においしいですよ」
「え? はい! そうですね! ありがとうございます!」
「こちらこそ、ごちそうさまです」
店を後にして歩きながら思い出す。
(あとはニンニクと玉ねぎ……さっきあったよね~)
トマトソースである。
マニュアル人間であるミユキにとって、レシピなしで作られる料理は僅かしかない。
主婦生活が30年近く続いていても、レシピと計量カップに計量スプーンと量りは必須であった。日常の料理ですらガッチガチなのに、更に細かい分量と手順で構成されたお菓子など、目分量と記憶で作れるはずがない。適当にあるものでちゃちゃっと作れる奥様方が驚異であった。
(あと、ジャガイモと油だな)
ジャガイモは、玉ねぎと一緒にあるにはあったが、店の片隅に置かれていて売れている気配がなかった。保存が利くから皆さん買いだめしているか、トマトと同様にまだ流通が始まったばかりなのかもしれない。
油は、時代劇のように油問屋みたいなのがあるのだろうか……。
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この街から旅立てるのはいつになることやら……
もうしばらくおつきあいくださいませ。
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