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「そこで、オバさんからお願いがあります」
食事の後、ミユキは立ち上がってぺこりと頭を下げた。
少年たちは鞄を胸にそれはそれは大事そうに抱えている。
「えー、勇者さん達の事なのですが、もし、会えることがあったらでいいので……」
「「「おはようございます」」」
ロンブス、アングイラ、シルーシスの三人がやってきた。
「おはようございます。おぉ、ちょうどよかった。御三方にもお願いがあるのです。お座り頂けませんか? あ、何かこちらにご用事でしたか?」
お貴族様には何となく敬語になってしまう。庶民だからね!
「………ミユキ様に……お会いしに……」
シルーシスが、幾分遠い目になったロンブスの肩を叩いて、3人は隣のテーブルについた。
「では、続きです。えーと」
「勇者様にお会いすることがあったら……?」
「あ、そうだ。ありがとう」
(何か間に入ると忘れてしまうのは変わらないようだな)
「えーと、お願いです。この先、勇者さん達に出会うことがあったら、これから話すことを思い出して頂きたいのです」
皆、神妙に耳を傾けてくれている。
「この世界が危険だろうと無くなろうと、勇者さん達には何の関わりもないということです。もちろん、今この世界が無くなれば一緒に死んでしまうかもしれません。でも、召喚されなければ、元の世界で何も知ることなく、普通に生きていけたのです」
「………」
「勇者さん達は、皆さん方と同じくらいの歳の学生で、それぞれ家族があり、大切な人が元の世界にいるということを忘れないで欲しいのです。もう、戻れないかもしれない。縁もゆかりもないこの世界にいきなり連れてこられて、訳のわからないことをさせられようとしている。その途中で死んでしまっても、家族にさえ伝えられない。もし、これが、自分だったら、と当てはめてみてください」
素直な少年達は罪悪感に苛まれているようだ。
(ゴメンね! 少年たちよ。やっぱり昨夜はとんでもないことをしてあの子達のハードルを上げてしまったのかもしれないので、オバさんを助けておくれ。勇者チートを持ってるだろうけど、その力がでてくるまでエライ人達が待っててくれるかわかんないんだもの~~ これじゃ後ろめたくて先に進めないよ~)
考えなしで行動するのは自重すべし!である。
召喚に参加するくらいだから優れた魔道士に違いないので、高校生達にいずれ会うであろうと踏んでお願いするミユキであった。
「もちろん、この世界の方々も、どうしようもなかったのだと思います。ですので、勇者さん達に会ったら、できるだけ優しくして上げてください。よろしくお願いします」
「「「「「「「ミユキ(様)さん……」」」」」」」
心優しい少年達は何やら感銘を受けているようだ。よかった。少し心が軽くなったミユキは深く頭を下げたのだった。
「で、もしも勇者さんの誰かと二人きりになって、周りに誰もいないことが、確認されたらこれを渡して頂きたいのです」
ミユキは袖口から不思議な形の小さな瓶を取り出した。黒くて蓋がある、地球でいうペットボトルの手のひらサイズ、手で握ると隠れるサイズである。
「中身は私たちの故郷の調味料、醤油です」
「ショーユ?」
「はい、これも先程と同じ【スズメのひょうたん】が付いていますので、呪文と共に教えて上げてください」
「「「呪文?」」」
「あ、御三方にはまだでしたね」
ドンドンドンと3人の目の前に塩の壺を置いていく。
「はい! 手に持ってください」
恐る恐る壺を持つ3人に合わせて、他の5人も壺を持った。
「私の真似をしてください(以下略)」
………説明が終わり、呆然とする3人。
「で、誰でもいいからチャンスがあったら渡して教えて欲しいのです」
手の中の壺を見ながら何気に、アミアの手元を見たロンブスはギョッとした。壺が消えたのだ。鞄はそこまで大きくなく、薄い布で、しかし、壺を入れたのに全く膨らまなかった。なぜだ?
「……ねぇ、アミア?」
黒魔道士全員が慌てて鞄を胸に抱え込んだ。
ロンブスは、静かに笑みを浮かべてミユキを振り返る。笑顔が怖い人っているんだなぁ(二人目)。
「説明してくださいますね? ミユキ様」
洗いざらい白状したのは言うまでもない。
「それで、この子達が危険な目にあうとは考えなかったんですか?」
ロンブスは、怒り心頭である。
盗賊が盗品運びに利用したり、悪どい商人に攫われたり、本人だって、魔が差して盗みをしたりしてしまうかもしれない。危険に晒されたらどう責任を取るのかと、厳しく弾劾されたのだった。
「えーと、まあ、あっても何とかしてくれるかな、と。男の子だし、もうすぐ成人で……。慣れたら大丈夫!と思いたいです。自己責任だよね?」
うんうんと頷く鞄持ち達に、ロンブスは頭を抱えた。
「おばあちゃんが言っていた。お天道様が見てるから、恥を知るものは悪いことはできないって」
人差し指で天を指すミユキに、うんうんと頷く黒魔道士達。
「よければ皆さんにも、と思ったけど……危険ならやめておきますか?」
「「「え?」」」
「さっきコツを掴んだので、大きさはこの酒場よりひとまわり小さくなりますが、鞄なしで直接つけられますけども……」
「「お願いしますッ」」
間髪入れずに頭を下げるシルーシスとアングイラ。
ぐぬぬぬ、と歯を食いしばった後、ロンブスも頭を下げたのだった。
「………お願いします」
鞄より便利そうなので、結局全員に直接付け直したのであった。卒業したら鞄はあまり使わないからだ。
***********************
ギルドは遠かったです………
食事の後、ミユキは立ち上がってぺこりと頭を下げた。
少年たちは鞄を胸にそれはそれは大事そうに抱えている。
「えー、勇者さん達の事なのですが、もし、会えることがあったらでいいので……」
「「「おはようございます」」」
ロンブス、アングイラ、シルーシスの三人がやってきた。
「おはようございます。おぉ、ちょうどよかった。御三方にもお願いがあるのです。お座り頂けませんか? あ、何かこちらにご用事でしたか?」
お貴族様には何となく敬語になってしまう。庶民だからね!
「………ミユキ様に……お会いしに……」
シルーシスが、幾分遠い目になったロンブスの肩を叩いて、3人は隣のテーブルについた。
「では、続きです。えーと」
「勇者様にお会いすることがあったら……?」
「あ、そうだ。ありがとう」
(何か間に入ると忘れてしまうのは変わらないようだな)
「えーと、お願いです。この先、勇者さん達に出会うことがあったら、これから話すことを思い出して頂きたいのです」
皆、神妙に耳を傾けてくれている。
「この世界が危険だろうと無くなろうと、勇者さん達には何の関わりもないということです。もちろん、今この世界が無くなれば一緒に死んでしまうかもしれません。でも、召喚されなければ、元の世界で何も知ることなく、普通に生きていけたのです」
「………」
「勇者さん達は、皆さん方と同じくらいの歳の学生で、それぞれ家族があり、大切な人が元の世界にいるということを忘れないで欲しいのです。もう、戻れないかもしれない。縁もゆかりもないこの世界にいきなり連れてこられて、訳のわからないことをさせられようとしている。その途中で死んでしまっても、家族にさえ伝えられない。もし、これが、自分だったら、と当てはめてみてください」
素直な少年達は罪悪感に苛まれているようだ。
(ゴメンね! 少年たちよ。やっぱり昨夜はとんでもないことをしてあの子達のハードルを上げてしまったのかもしれないので、オバさんを助けておくれ。勇者チートを持ってるだろうけど、その力がでてくるまでエライ人達が待っててくれるかわかんないんだもの~~ これじゃ後ろめたくて先に進めないよ~)
考えなしで行動するのは自重すべし!である。
召喚に参加するくらいだから優れた魔道士に違いないので、高校生達にいずれ会うであろうと踏んでお願いするミユキであった。
「もちろん、この世界の方々も、どうしようもなかったのだと思います。ですので、勇者さん達に会ったら、できるだけ優しくして上げてください。よろしくお願いします」
「「「「「「「ミユキ(様)さん……」」」」」」」
心優しい少年達は何やら感銘を受けているようだ。よかった。少し心が軽くなったミユキは深く頭を下げたのだった。
「で、もしも勇者さんの誰かと二人きりになって、周りに誰もいないことが、確認されたらこれを渡して頂きたいのです」
ミユキは袖口から不思議な形の小さな瓶を取り出した。黒くて蓋がある、地球でいうペットボトルの手のひらサイズ、手で握ると隠れるサイズである。
「中身は私たちの故郷の調味料、醤油です」
「ショーユ?」
「はい、これも先程と同じ【スズメのひょうたん】が付いていますので、呪文と共に教えて上げてください」
「「「呪文?」」」
「あ、御三方にはまだでしたね」
ドンドンドンと3人の目の前に塩の壺を置いていく。
「はい! 手に持ってください」
恐る恐る壺を持つ3人に合わせて、他の5人も壺を持った。
「私の真似をしてください(以下略)」
………説明が終わり、呆然とする3人。
「で、誰でもいいからチャンスがあったら渡して教えて欲しいのです」
手の中の壺を見ながら何気に、アミアの手元を見たロンブスはギョッとした。壺が消えたのだ。鞄はそこまで大きくなく、薄い布で、しかし、壺を入れたのに全く膨らまなかった。なぜだ?
「……ねぇ、アミア?」
黒魔道士全員が慌てて鞄を胸に抱え込んだ。
ロンブスは、静かに笑みを浮かべてミユキを振り返る。笑顔が怖い人っているんだなぁ(二人目)。
「説明してくださいますね? ミユキ様」
洗いざらい白状したのは言うまでもない。
「それで、この子達が危険な目にあうとは考えなかったんですか?」
ロンブスは、怒り心頭である。
盗賊が盗品運びに利用したり、悪どい商人に攫われたり、本人だって、魔が差して盗みをしたりしてしまうかもしれない。危険に晒されたらどう責任を取るのかと、厳しく弾劾されたのだった。
「えーと、まあ、あっても何とかしてくれるかな、と。男の子だし、もうすぐ成人で……。慣れたら大丈夫!と思いたいです。自己責任だよね?」
うんうんと頷く鞄持ち達に、ロンブスは頭を抱えた。
「おばあちゃんが言っていた。お天道様が見てるから、恥を知るものは悪いことはできないって」
人差し指で天を指すミユキに、うんうんと頷く黒魔道士達。
「よければ皆さんにも、と思ったけど……危険ならやめておきますか?」
「「「え?」」」
「さっきコツを掴んだので、大きさはこの酒場よりひとまわり小さくなりますが、鞄なしで直接つけられますけども……」
「「お願いしますッ」」
間髪入れずに頭を下げるシルーシスとアングイラ。
ぐぬぬぬ、と歯を食いしばった後、ロンブスも頭を下げたのだった。
「………お願いします」
鞄より便利そうなので、結局全員に直接付け直したのであった。卒業したら鞄はあまり使わないからだ。
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ギルドは遠かったです………
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