剣豪、未だ至らぬ

萎びた家猫

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甘味好きの令嬢

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 王都。王国の中心部にして、この国のあらゆる情報が集まる中継基地。ここ王都には住民以外にも、各地の特産品を売る商人や仕事を求めるギルドマンなど多種多様な人達で溢れかえっていた。

 そんな王都のとある飲食店で一人の武人が食事をしていた。

 それ自体は至って普通の光景。しかしその武人から放たれるただならぬ雰囲気に周囲の客人と店員も呆気にとられていた。

「お客さん…その…言いにくいんだが…」

「…どうした?」

 とうとう痺れを切らした店主がその武人へと話しかける。

「その…申し訳ないんだが…この菓子はそこにある分で品切れなんだ…」

 ただならぬ雰囲気を放つ武人、改め大量の甘味十数人分をぺろりと平らげる大食漢ウィルに店主は申し訳無さそうに伝える。

「そうか…これでもう終いか…」

「はい…後は予約の分だけしかなくてですね…」

 ウィル的にはまだ腹八分目、こんな美味い甘味を食べたことがなかったウィルは少し残念に思いながらも渋々その現実を受け止める。もし普段のウィルを知るものならば普段の姿との乖離に、この飲食店の客人同様呆気にとられるかもしれない。

「にしてもあんた、見た目とは裏腹によく食べるんだな?」

 ウィルの基本大きめの緩い服を着ているので身体の線がわかりにくいが、鍛えてるのでそれなりに筋肉はついている。しかしはたから見ると痩せているようにも見えるのかもしれない。

「この世の中ではいつ食えなくなるかわからん。食える時に食えるだけ食う、それが生きていくうえで大事だと俺は思っている。肉体的にも精神的にもな」

「武人さんは結構粗食主義なやつが多いと思っていたが、案外そうでもないのかねぇ…」

「その場所や流派にもよるとしか言えないな。オレの師は喰えるときに喰らえとよく言っていた」

「はは。じゃああなたは師の教えを忠実に守ってるんだな。偉いこって」

「…どうだろうな。オレは師に決まりを守れと散々言われてきたからな、困らせてばかりだったのは確かだろう」

「はは、それだけお客さんに期待してたんでしょうね。」

「そうかもな、オレは「すみませーん!!」...」

「おっと? どうやらお客さんと同じ甘味好きの嬢ちゃんが来たようだな」

 そう言って店の入口の方を見る店主につられ、ウィルも入口へと視線を向ける。

 そこには、容姿端麗まさに絵に描いたような令嬢が店へと入ってる。

…貴族か? ウィルがそんなことを考えている内にその令嬢はウィルがいるカウンター席付近まで来て天真爛漫な笑顔で店主に話しかける。

「店主さん、こんにちは。先日予約していた甘味を食べに参りました!!」

「勿論ございますシニア様、用意して参りますので少々お待ち下さいませ」

「店主さんったら!! 今はお忍びなのでそういった堅苦しいのは無しでって言ったではありませんか!!」

「ははは、そうでしたね。では今取ってくるのでちょっと待ってくださいね」

「はい!!」

そう言うと店主はまた店の奥へと戻っていった。

 そんなやり取りを聞きながら、あと少しで甘味も無くなってしまうなとウィルは考えているとソニアと呼ばれた令嬢は他にも席が空いているにも関わらず、わざわざウィルの横へと来て。そして…

「お隣失礼致しますね?」

「ああ構わない」

 そう言って隣の席へ座った。

「そちらのお皿もしかして季節のフルーツ入りのプディングでしょう?」

「...ああ、そうだ。他にも幾つも種類があるのによくわかったな?」

「ふふっ、あなた口に少しフルーツの果肉が付いていますよ?」

「む…確かに気が付かなかった。すまない」

「いえいえ。それにこのプディング私も好きなんです。そんなに沢山食べているのを見て、なんだか同士を見つけれた様で少し嬉しく…」

「確かにここの菓子は美味い。他の街にはない華がある」

「そうですよね!? 私実はこの店が王国で一番美味しいと思っているんです!!」

「ソニア様。流石にそれは買いかぶりすぎですよ」

 そう言って店主は苦笑いを浮かべながら現れる。そしてソニアと呼ばれる令嬢の前に、先程オレが食べた量にも劣らない数のプディングが並べられる。

「ありがとうございます!!それでは早速頂きますね!!」

 令嬢はそう言うと甘味を食べ始める。一口含むたびに幸せそうな表情をする令嬢に店主はまるで子を見守る親のような顔で眺めている。

「さて。オレは食べ終わったので失礼する。勘定を頼む」

「…ん? ああ、金はそこに置いといて!!」

 店主はそう言うと、また厨房の方へと戻っていった。かなり適当だが他のテーブルを見る限りこれがこの店のやり方なのだろう。

 来るときも帰るときも自分のタイミングで出来る。居心地は悪くないが、街の治安次第では店が潰れそうなやり方だな。

 まあ、それだけこの王都は治安が良いという証拠でもあるか… ウィルはそう思いながら店を後にしようとする。

 しかし席を立つ時に隣の席に座る令嬢から呼び止められる。

「あなたはここらへんでは見かけませんが、旅の武芸者の方ですか?」

「そのようなものだな。それがどうかしたか?」

 相手が恐らくは貴族だと考えているウィルは、悟られないよう警戒しながら聞き返す。

 しかし令嬢は特に気がつく様子もなく、心配そうに告げる。

「最近ここらでは武芸者を中心に狙う賊が目立ってきています。もし旅を続けられるのでしたらお気をつけて」

 そう言い屈託のない笑顔で話す。その笑顔にウィルも考えすぎだと判断し警戒を解く。

「そうだな。気をつけるとしよう」

「ええ、そうなさってください。貴方とはまた何処か出会えるそんな気がします。なのでここは…また何処かでお会いしましょう!!」

 そう言いながら笑顔で手を振る令嬢に

「ああ、また何処かで…」

 無感情にそう言うと手を軽く上げ店を出ていった。





 店を出てしばらく経ち、ウィルは王都のとある路地裏に来ていた。

「来たぞ。繫屋」

「おお、旦那時間ぴったりですね! ささコチラにどうぞ」

 そう言いながら路地裏の影から突如フードを深く被り顔を隠した男が出てくる。

「相変わらず珍妙な格好をしているな繋屋」

「流石にずっとこの格好じゃないですからね!? そうじゃなくて早くコチラに来てください!!」

 繋屋と呼ばれる男はウィルを急かすように路地の奥へと案内する。ウィルはその案内に大人しくついていく。

 そして

「先日旦那を狙ってきた男の身元が判明しました。男はフリーのギルドマンで、どうやら帝国の貴族から殺害依頼を違法に受けていた様です」

「帝国の貴族? あの国に入ったことはないはずだが…」

「それが…過去に貴方が決闘し、殺害した相手が帝国の貴族の御子息だったようです。」

「なるほどな。しかし決闘はこちらから仕掛けることは殆ど無いのだがな?」

「まあ、よくある逆恨みですね。貴族とはいえ問題をよく起こす家らしく、近々取り潰しになる予定だった様です。恐らく王国に取り入ってもらうために貴方を狙ったのでは無いかと…」

「はあ…なるほどな。それで? わざわざここに呼ぶくらいだ。まだなにかあるんだろ?」

「そうですね…ここからが本題です。」

 そう言うと繋屋の声が少しトーンダウンする。

「…貴方がギルドマンを殺したに、追跡して殺した二人組。それの死体を調べた所…王国騎士団の団員ということが判明しました」

「そうだろうな」

「ちょっと旦那!! なぜそんな落ち着いてるんですか!?」

 繋屋はウィルの態度に心底理解できないという風に反応する。

「吹っ掛けてきたのはあちらだ。例えば騎士団だろうがやることは変わらん」

「旦那ぁ…流石に騎士団に喧嘩を売るのはまずいですよ」

「なぜだ?」

「何故ってあんた、王国騎士団はこの国を守る最終防衛ラインだ。一人ひとりが十分な実力を持っているのは旦那が一番良くわかったでしょう?!」

「確かにあの2人は強かった。しかし生涯の強敵とは程遠い。いたって普通の兵だ」

「それは2人だっただからでしょうに…騎士団の強みはその統率力です。そこは過去の戦争で帝国軍が攻めあぐねていた点から明らかだし…」

 繋屋は深刻そうに

「…そして王国騎士団には、あのディアナ騎士団長様がいる」

「確かこの国でその女より右に出る者はいないと言われる最強の剣士だったか?」

「知ってるじゃないですか!! 彼女の逸話はどれをとっても伝説と言って差し支えないレベルです!! 一部の人達が言うには、あなたが討ち取った剣聖よりも強いとか…剣聖の再誕とか騒がれるレベルですよ」

「いやに詳しいな」

「そりゃあこの仕事をやってるなら騎士団の情報はいやでも入ってきますからね!! それにえらく美人みたいですしね!!」

「やはりそこか…オレよりも先にお前が女関係で死にそうだな」

「失敬な!? 私は検討に検討を重ね、慎重に選んで女を抱いてるので大丈夫ですよ!!」

「そうか…で伝えることはそれで終いか?」

「それで終いかって…いやまあ終わりですけど…」

「そうか、情報提供感謝する」

 そう言ってウィルは金を繋屋に投げる。

「ちょっと危ないじゃないですか!? ここ普通に穴があって落ちるんですから!!」

「受け取れたなら問題ないだろう。じゃあな」

「本当あんたじゃなかったらもう契約は切ってますよ…!!」

 そんな言葉を投げかけられながらウィルは裏路地から、活気あふれる表へと戻っていった。

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