やばい彼氏にご注意を

SIVA

文字の大きさ
上 下
117 / 356
4.絶賛、文化祭準備中

4-29

しおりを挟む
「ちょっと、ま、て、ってっ!!!」
「うぉっ!!」

荷台を掴まれ、身体がガクンッと傾いた。
上等なスーツを着た長身な男は息を切らしながら、足を止めると「逃げ足ホントに早いな……お前と話したいんだけど……ってかおっさん走らすとか何考えてんだ。あぁまじしんどぉ」と枯れるような声で言った。
お前自分で、おっさんとか言うのかよ。ちょい前までバスケ部に混じってバスケ満喫してたくせに。

言われて恐る恐る振り返れば、荷台を掴んだまま息を整えている“おっさん”が頭を下にしている。そのせいで、つむじが見える。

「……」
「何してんだよ」
俺は何を思ったか、そのつむじを人差し指でつついていた。
長身なこいつのつむじなんて、見る事が出来ない。
「何って、つむじ触ってるんだよ」
意外にも冷静かつ真顔で何言ってんだ、何してんだ、俺。
今は、こいつに会いたくないし、話したくないのに何で話してるんだ。
「つつくな。禿げるだろ」

禿げる?
こいつが禿げた姿なんて想像つかない。
有栖川は、俺の手を払いながらつむじを触り身体を起こすと「なぁ倫太郎、一緒に帰れる?」と言ってきた。
その表情は、捨てられた子犬のようで、クリッとした目で俺の顔を覗き込んでくる。
「い、一緒にって、まずいだろそれは……ってか学校では名前で呼ぶなよな」
辺りを見回しながらあたふたしてると「俺がそうしたいからいいんだよ」と言って自転車を奪われた。
「あ!おい!ちょっと!!」
自分の荷物を籠に押し込め「おらぁ、行くぞぉ」さっさと先を歩きだしている。

……歩き出したのはいいんだけど……。

(何か話せよぉ)

黙って自転車を押してなんか鼻歌を歌ってるけど、俺と話そうとはしない。
俺はそれが、ものすごく気まずいんだ。
周りの視線も痛いほど感じるのは、上等なスーツを着ている成人男性が、よれっよれの自転車を押して、制服男子と一緒に歩いてる妙な絵図。
チラチラあたりを見回してると「んなに気にすんなってぇ。逆に怪しまれるぞ」

(ようやく口にした言葉がそれかよっ!)

大げさにそっぽを向いた。
「ぷっはははは!お前ほんっと面白い奴だな。だからほっとけないんだよ」
こいつ、こんな風に笑えるんだ……そう言えば、松本連れ去り事件のあの時も、こんな風に笑ってたな。
ちゃんと笑ってるとこ、見たことない気がする……ん?
「んだよ!いきなり話し出したと思ったら変なこと言いやがって!」
今度は思い切り有栖川の方を見た。
まっすぐに俺の目を見ていた有栖川。
不覚にも心臓が飛び出る程ドキッとした。

(え、なんで俺、ドキッとしたんだ?)

笑いながら視線を前に戻した有栖川の横顔を見ながら、焦りを感じた。
っほっとけない、ってどういう意味だよ。
いや、意味は分かる。わかるんだけど、だけど、こいつが言うそれって……。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

幼馴染みの不良と優等生

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:150

零下3℃のコイ

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:65

隠れΩの俺ですが、執着αに絆されそうです

BL / 完結 24h.ポイント:269pt お気に入り:2,022

放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:241pt お気に入り:3,129

グラティールの公爵令嬢

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:16,402pt お気に入り:3,348

アイツだけがモテるなんて許せない

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:167

処理中です...