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5. そして始まる文化祭
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しおりを挟む**有栖川side⑨**
倫太郎が、何か悩んだり考え込んだりする時って大体が無口になるか、視線が合わなくなる。
今だってそうだ。
俺が何か余分なことを言ったか、やらかしたのか、倫太郎の表情が一変している。
手を差し出したところで、誰にも見られる心配はないし、校内で秘密裏に恋人と手を繋ぎたいという俺の細やかな喜びを、叶えてくれた倫太郎にハグしてキスしたい気分なのに、こいつは何をまたよからぬ事を考えているんだろう。
俺が『どうした?』と聞いたところで、何でもないって言うだろうしな。
極限まで黙って見守るしかないんだ。
今までだってそうしてたんだ、きっと出来る……。
宙に浮いた手を無理やりに首の後ろに持っていって繋いでくれなかった寂しさを誤魔化すように、チャラけてみたものの、顔すらこちらに向けてくれなくなってしまった。
もう少しだけ、イチャつけると思ったのに、クラスの前まで無言のまま到着してしまった。
「先、入れば」
倫太郎のぶっきら棒な言い方に、少し口をとがらせながら「手を繋いで一緒に入る?」と冗談交じりに言ってみた。
返事は当然返ってこなかった。
あぁ悩める少年よ。
俺はお前に何をしてやれるだろうか。
「冗談だよ。間に受けるなって」
「お前が言うと冗談に聞こえないから」
これまた視線はどっかにいったまま。
「なぁ。倫太郎?」
「!!」
ここに来てようやく視線が合った。
無言で”名前で呼ぶんじゃねぇ”アピールをしてくる。
「後で話があるから」それだけ言って、一歩前に出て先に教室に入った。
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