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7. 最終話 最低で最高の言葉
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校舎を後にした俺の足は勝手に有栖川の家に向かっていた。
学校から少しあるあいつの家に今は誰もいないはず。
鍵は、あいつが一人で先に出てってしまってから返してないから俺が持っている。
ドアの前まで来て俺は何て事をしてんだって我に返った。
来てしまったから仕方ない。財布から鍵を取りだし鍵穴にさした。
「ん?」
鍵をさしたまま捻ってもガチャリとも言わない。
反対を回してもまた同様。
俺の心臓は一気に高鳴り始めた。
もしかして、この中に有栖川がいるのでは?
ゆっくりと鍵を抜き、ドアノブに手をかけた。
ガンッ
「い゛ぃっっでぇっ!!!」
ドアノブに視線を落としていたせいで頭が下がっていて何故か思い切り開けられたドアに頭がぶつかった。
大きな音が周囲に響き渡り同時に俺の大きな声も響き渡った。
「あ、ご、ごめんなさい」
ぶつけた頭を抑えながら、くちゃくちゃな顔を上げるとそこには清楚な格好をした女性が申し訳なさそうに立っていた。
誰?
俺の思考はグルグルと回った。
それは相手も同じだったようで徐々に表情が曇り始め俺を足の先から頭まで舐めるように見てきた。
「あ、え、えっと……」
部屋を間違えたかと思い思わず番号を確認するため一歩下がった。
「もしかして、あなたが?」
下がった俺の腕をグイッと掴まれ、驚いた俺はその手を振り払おうと手を引いた。
「あなたが恭平さんを誑かしている生徒?」
その言葉でこの部屋は有栖川の部屋だという事は確定した。
不安げな俺の表情を察した女性はパッと表情を緩め「ご、ごめんなさい。いきなりで驚いたわよね。それに……」そう言って、少し赤くなっている俺のおでこをそっと撫でた。
「わっ!だ、だいじょう、ぶっで……お、おわっ!!」
何をテンパってんのかおでこを触られたことにより一層動揺が広がり勢いよく後ろに後ずさりをした。
自分の脚に絡まりよたよたしているとドンッと背中が誰かとぶつかった。
「あ、す、すいま……せ……」
「あぁ、ホント何やってんの、倫太郎ったら」
「あ、有栖川」
「ん?」相変わらずすっとぼけた返事。
俺の腕を取りすんでのところで転ばないようにしてくれている有栖川にくぎ付け状態。
「あら、やっと帰ってきたわね、恭平さん」
「っ!!!」
俺を見降ろしていた有栖川は玄関にいる女性を見ると驚いた顔をしていた。
「なんで貴方がここに」ボソッと呟いた言葉に俺は黙って首を傾げていると、妙に優しい表情を見せてこちらを見降ろしてくる。
「いい加減自分で立ってくれない?」
「あ、ごめ……」
自力で立つと俺の前に立った有栖川は「どうしてここに?しかも人の家に勝手に上がり込んでるなんて、悪趣味ですけど?」
「そんなこと言える立場?」
「不法侵入って事で警察呼んでもいいんですけど、ま、取り敢えず中に入りますか」
有栖川はこっそり帰ろうとした俺の腕を掴み直すと一緒に部屋に入った。
「ちょっ……お、俺は……」
「どうせここまで来たんだ。寄ってけよ。それに……」
前を歩く女性の背中を見ながら「あの人にお前を見られたんだ。多分勘付いてるから話をつける……巻きこんでごめん……」そう言われた。
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