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エピローグ② 聖女エスティナとの一日
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……ヴァイスがルーフィの屋敷にやって来てから一週間がたったある日の朝、事件は起こった。ヴァイスがいつものように起きると、右腕に何やら柔らかな感触があった。ヴァイスが違和感を覚えて横を向くと――そこには安らかに寝息を立てているエスティナの姿があった。ヴァイスの腕に当たっていた柔らかな物体はエスティナの胸だったのだ。
「うおおおっ!?」
ヴァイスが叫び声を上げて飛び起きると、エスティナも「ううん……」と言って目を覚ます。
「あ、おはよ……」
「あ、おはよじゃないだろっ! なんでお前がここにいるんだよ!」
ヴァイスがそう言うと、エスティナが身を起こして言った。
「……た、たまたまよ! ルーフィにあんたがルーフィの家にいるって聞いたから遊びに来たら、たまたま夜で寝るところがなかったから、ここで寝ただけ!」
エスティナはそう言ってそっぽを向いたが、その言い訳には無理があるだろとヴァイスは思った。
「……ドアには鍵をかけておいたはずだが?」
ヴァイスがそう言うと、エスティナはニヤリと笑った。
「ふふ……そこで見ていて」
エスティナはそう言ってベッドからドアのそばまで歩いていくと、右手の人差し指をスライム状に変化させ、鍵穴へと入れた。そして再びそれを抜くと、スライム状の人差し指は硬質化して鍵の形に変化していた。エスティナは鍵の形になった人差し指を再び鍵穴に入れ、ゆっくり回すと鍵はカチャリと音を立てて解錠された。
「どお? 便利でしょ」
エスティナは得意げに言った。ヴァイスはやれやれと言った顔で肩をすくめた。
「……もう二度とその能力を俺の寝室のドアを開けるために使わないでくれ。……いいな?」
「えー」
エスティナはあからさまに嫌な顔をした。
「えーじゃないんだよ、えーじゃ――」
ヴァイスがそう言ったところで部屋のドアがばたんと強く開かれ、ルーフィがばたばたと部屋に入ってきた。その後ろにはリリカの姿もあった。
「ま、マスターッ!! 大丈夫ですか!?」
ルーフィはそう言ってヴァイスに声をかける。ヴァイスはルーフィを確認すると、ドアの裏側の方を指差して「そっち……」と言った。それを受け、ルーフィが恐る恐る扉の裏を見るとルーフィは「げっ……」と言って絶句した。扉の裏にはもろに開かれた扉で顔面を打ち、悶絶しているエスティナの姿があったのだった。
「……それでエスティ姉はマスターが私の家に滞在していると聞いて、居ても立ってもいられなくなってうちに来たと」
食堂でルーフィが静かにそう言った。
「そ、それはそうだけど、ヴァイスがここにいるって知らせてきたのはルーフィでしょ! た、たまたま通りがかった私がルーフィの家に寄ることの何がいけないわけ!?」
エスティナがそう言った。
「……別にエスティ姉がうちに寄ることは何の問題ないわ。た、ただ、いきなりマスターの寝室に入って、し、しかもマスターのベッドでね、寝るとはどういうことですかッ! わ、私だってまだそこまでしたことないのに!!」
ルーフィはそう言ってばんっ!とテーブルを叩いた。
「ふふっ、ルーフィったらまだまだ子供なんだから。オトナになったらこれぐらい全然普通のことよ♪」
エスティナがそう言うと、ルーフィは顔を紅潮させ、恥ずかしさややるせなさが混じったような顔をした。
「~~~~っ!!」
ヴァイスはそんな二人を近くの席に座って面倒くさそうに眺めていた。朝から姉妹喧嘩とか正直勘弁して欲しいとヴァイスは思っていた。エスティナがルーフィの屋敷を訪ねてくるのは完全にヴァイスの想定の範囲外だった。ヴァイスは嫌々ながらも二人の仲を取り持とうと声をかけた。
「ま、まぁまぁルーフィ。これはたまたま起こった事件のようなものだから。二度とは起こらない。……そうだな、エスティナ?」
ヴァイスはそう言ってエスティナを睨む。すると、エスティナはしゅんとして言った。
「……わかったわよ。ヴァイスがそう言うのなら……」
エスティナはちらひらヴァイスのことを見ながらそう言った。ヴァイスはこれで万事解決と思い、ふぅとため息をつく。
「……まぁいいです。私は今日は普通に教会支部に行かなければならないので、エスティ姉は好きなように行動すればいいと思います。マスターもそれでいいですね?」
そう言ってルーフィはヴァイスを見る。ヴァイスは適当に「あ、ああ」と答えた。その後、ルーフィは出勤して暇なエスティナとヴァイスが屋敷に残った。
この日、ヴァイスは自身の錬金術の素材用に市場で材料を調達する予定だったが、エスティナはそれを知るとヴァイスに付いていくと言って譲らなかった。ヴァイスがしょうがなく折れ、エスティナの同行を許すと、エスティナは当然のようにヴァイスに腕を回してきた。
「……何してるんだ?」
「ん? ただ腕絡めてるだけだけど?」
エスティナはそれがさも当然のことかのように言った。
「いや、それが困るんだが……。恋人同士じゃないんだから……」
「!! べ、別に私だってたまたま空いていた腕になんとなく絡めてみただけなんですけど!? べ、べ、別にヴァイスの腕とかこれっぽっちも興味ないんですけど!?」
エスティナは顔を紅潮させて、あたふたしながらヴァイスの腕から自分の腕を離した。ヴァイスがやれやれと思っていると、エスティナは今度はヴァイスの手を握ってきた。
「し、仕方ないから手ぐらいは繋いであげるわよ!」
エスティナはヴァイスの手を握りながらそう言った。
「いや、手を繋ぐのもちょっと……」
ヴァイスはそう言って困惑した表情を浮かべる。
「な、何よ! 手を繋ぐのもダメなわけ?」
「いや……まぁ……そうだな……」
「わ、わかったわよ! じゃあ隣で歩くだけにするわ!」
そう言ってエスティナは残念そうに手を離すと、ヴァイスに寄り添うようにくっついた。ヴァイスはもう面倒くさかったので、そのままエスティナに密着されながら市場へと向かった。
街の中心部に着くとヴァイスはさっそく錬金術に使う材料の品定めを始めた。エスティナは真剣に品定めを行うヴァイスの横でつまらなそうな顔をしていた。
(あー、つまんないー。ヴァイスもあまり相手してくれないし、市場にくっついてきたのは失敗だったかも……)
そんなことを考えていると、エスティナの視界にアクセサリーを売っている露店が飛び込んできた。エスティナがフラフラとアクセサリー屋に引き寄せられていくと、露店商が元気よくエスティナに声をかけた。
「おう、嬢ちゃん。綺麗なのがたくさんあるよ。ゆっくり見ていってくんな」
エスティナは露天商の言葉どおりに、所狭しと並べられたアクセサリーを見る。髪飾りや首飾りに指輪や腕輪、イヤリングといった様々な種類のアクセサリーがあった。エスティナは嬉々として良さそうなアクセサリーを手にとって見比べていく。
(あ、これ、いいかも……。あ、あれもいい……)
エスティナは良さそうなものがたくさんあって選びきれないといった様子だったが、最終的には候補を三つほどに絞った。そして、ヴァイスのもとに戻るとエスティナはヴァイスに声をかける。
「あ、あのさ! あっちにアクセサリー屋があったんだけど見に行かない?」
エスティナがそう言うと、薬草の品定めをしていたヴァイスがエスティナの方を向いて言った。
「アクセサリー? うーん、俺は特に興味ないが……。エスティナが気に入ったものがあるなら買ってくればいいじゃないか。俺はここにいるから」
「え? で、でもあんたの意見も参考になるかもしれないし、ちょ、ちょっとぐらい見ていってもいいと思う!」
エスティナはそう言ってヴァイスの袖を引っ張った。
「わ、わかったよ。だから袖を引っ張るなって。……ただ俺にはアクセサリーの知識はないぞ。使われてる金属ならだいたいわかるが……」
「そ、それで別に構わないわよ!」
エスティナは半ば無理やりヴァイスを連れて先ほどのアクセサリー屋へと戻った。
「わ、私的にはこれとそれとあれがいいと思うんだけど……ヴァイスはどう思う?」
エスティナはそう言って既に目をつけておいたアクセサリーを指差していく。ヴァイスはそれらを手に取り入念に品定めをする。
「……うーん、どれも使われている宝石や金属は大して特徴がないものだな。それでもいいならいいんじゃないか?」
ヴァイスはそうエスティナに言った。
「そ、そうなんだ。私としては装飾が結構好きだったから選んだんだけどね! じゃ、じゃあヴァイスが選ぶとしたらどれを選ぶの?」
エスティナはそう言ってちらちらとヴァイスを見た。
「俺が? うーん、そうだなぁ……」
ヴァイスはアクセサリーを次々に手に取り、何やらチェックしていく。すると、ヴァイスはある一つの首飾りを手にして止まった。
「……これとかいいんじゃないかな。特殊な白銀が使われている。おそらく身につけた者の魔力を増幅する作用がある」
ヴァイスがそう言うと、二人を静かに見ていた露天商が口を開いた。
「お、兄ちゃん、なかなかいい目をしてるじゃないか。 そいつは過去にとあるダンジョンで見つかったものでな……。なかなかの掘り出し物だよ。ま、その分値段も張るがな」
露天商はそう言った。エスティナとしてはその首飾りのデザインは微妙なものだったが、ヴァイスが選んでくれたものということで、他のどのアクセサリーよりもはるかに価値があるものに感じられた。
「じゃ、じゃあそれにする……」
エスティナは少しモジモジしながらそう言った。
「……ん? 買うのはエスティナだよな?」
ヴァイスは少し困惑気味にエスティナに言った。
「……ヴァイスが買って?」
エスティナはそう言って上目遣いでヴァイスを見る。
「え? 俺が? なんで?」
「い、いいじゃん! これぐらい! ほ、ほらマスターとしてこういうときはやっぱりマスターが買わないと!」
エスティナはここぞばかりにヴァイスにマスターとしての資質を力説した。ヴァイスはエスティナにマスターとしての役割を強調されると「そんなものか……」と言って最終的には折れることになった。エスティナはヴァイスに首飾りを買ってもらうことに成功し、内心では飛び跳ねるほど喜んでいた。
エスティナはさっそくヴァイスに買ってもらった首飾りを付けると、その後はルンルン気分でヴァイスとの一日を楽しんだ。エスティナはルーフィの家に戻ると、ルーフィに自分がヴァイスに首飾りを買ってもらったことを話した。
「なっ!! 姉さん、マスターにそれ買ってもらったの!?」
「そうよん。買ってもらっちゃった♪」
エスティナはそう言って得意げな顔をした。
「……う、うう……べ、別に羨ましくなんてないんだから! わ、私も後で絶対マスターに買ってもらうんだから!!」
ルーフィはそう言うと少し涙目になっていた。一方、ヴァイスはエスティナに買った首飾りの値段が想像以上だったこともあり、すっからかんになった自身の財布の中を見て自室で「はぁ……また稼がないと……」と呟きながらため息をついていた。
しかし、ヴァイスはこのとき後にルーフィにも首飾りを買ってあげることになり、また財布をすっからかんにするハメになるとは全くもって予想だにしていなかったのだった……。
「うおおおっ!?」
ヴァイスが叫び声を上げて飛び起きると、エスティナも「ううん……」と言って目を覚ます。
「あ、おはよ……」
「あ、おはよじゃないだろっ! なんでお前がここにいるんだよ!」
ヴァイスがそう言うと、エスティナが身を起こして言った。
「……た、たまたまよ! ルーフィにあんたがルーフィの家にいるって聞いたから遊びに来たら、たまたま夜で寝るところがなかったから、ここで寝ただけ!」
エスティナはそう言ってそっぽを向いたが、その言い訳には無理があるだろとヴァイスは思った。
「……ドアには鍵をかけておいたはずだが?」
ヴァイスがそう言うと、エスティナはニヤリと笑った。
「ふふ……そこで見ていて」
エスティナはそう言ってベッドからドアのそばまで歩いていくと、右手の人差し指をスライム状に変化させ、鍵穴へと入れた。そして再びそれを抜くと、スライム状の人差し指は硬質化して鍵の形に変化していた。エスティナは鍵の形になった人差し指を再び鍵穴に入れ、ゆっくり回すと鍵はカチャリと音を立てて解錠された。
「どお? 便利でしょ」
エスティナは得意げに言った。ヴァイスはやれやれと言った顔で肩をすくめた。
「……もう二度とその能力を俺の寝室のドアを開けるために使わないでくれ。……いいな?」
「えー」
エスティナはあからさまに嫌な顔をした。
「えーじゃないんだよ、えーじゃ――」
ヴァイスがそう言ったところで部屋のドアがばたんと強く開かれ、ルーフィがばたばたと部屋に入ってきた。その後ろにはリリカの姿もあった。
「ま、マスターッ!! 大丈夫ですか!?」
ルーフィはそう言ってヴァイスに声をかける。ヴァイスはルーフィを確認すると、ドアの裏側の方を指差して「そっち……」と言った。それを受け、ルーフィが恐る恐る扉の裏を見るとルーフィは「げっ……」と言って絶句した。扉の裏にはもろに開かれた扉で顔面を打ち、悶絶しているエスティナの姿があったのだった。
「……それでエスティ姉はマスターが私の家に滞在していると聞いて、居ても立ってもいられなくなってうちに来たと」
食堂でルーフィが静かにそう言った。
「そ、それはそうだけど、ヴァイスがここにいるって知らせてきたのはルーフィでしょ! た、たまたま通りがかった私がルーフィの家に寄ることの何がいけないわけ!?」
エスティナがそう言った。
「……別にエスティ姉がうちに寄ることは何の問題ないわ。た、ただ、いきなりマスターの寝室に入って、し、しかもマスターのベッドでね、寝るとはどういうことですかッ! わ、私だってまだそこまでしたことないのに!!」
ルーフィはそう言ってばんっ!とテーブルを叩いた。
「ふふっ、ルーフィったらまだまだ子供なんだから。オトナになったらこれぐらい全然普通のことよ♪」
エスティナがそう言うと、ルーフィは顔を紅潮させ、恥ずかしさややるせなさが混じったような顔をした。
「~~~~っ!!」
ヴァイスはそんな二人を近くの席に座って面倒くさそうに眺めていた。朝から姉妹喧嘩とか正直勘弁して欲しいとヴァイスは思っていた。エスティナがルーフィの屋敷を訪ねてくるのは完全にヴァイスの想定の範囲外だった。ヴァイスは嫌々ながらも二人の仲を取り持とうと声をかけた。
「ま、まぁまぁルーフィ。これはたまたま起こった事件のようなものだから。二度とは起こらない。……そうだな、エスティナ?」
ヴァイスはそう言ってエスティナを睨む。すると、エスティナはしゅんとして言った。
「……わかったわよ。ヴァイスがそう言うのなら……」
エスティナはちらひらヴァイスのことを見ながらそう言った。ヴァイスはこれで万事解決と思い、ふぅとため息をつく。
「……まぁいいです。私は今日は普通に教会支部に行かなければならないので、エスティ姉は好きなように行動すればいいと思います。マスターもそれでいいですね?」
そう言ってルーフィはヴァイスを見る。ヴァイスは適当に「あ、ああ」と答えた。その後、ルーフィは出勤して暇なエスティナとヴァイスが屋敷に残った。
この日、ヴァイスは自身の錬金術の素材用に市場で材料を調達する予定だったが、エスティナはそれを知るとヴァイスに付いていくと言って譲らなかった。ヴァイスがしょうがなく折れ、エスティナの同行を許すと、エスティナは当然のようにヴァイスに腕を回してきた。
「……何してるんだ?」
「ん? ただ腕絡めてるだけだけど?」
エスティナはそれがさも当然のことかのように言った。
「いや、それが困るんだが……。恋人同士じゃないんだから……」
「!! べ、別に私だってたまたま空いていた腕になんとなく絡めてみただけなんですけど!? べ、べ、別にヴァイスの腕とかこれっぽっちも興味ないんですけど!?」
エスティナは顔を紅潮させて、あたふたしながらヴァイスの腕から自分の腕を離した。ヴァイスがやれやれと思っていると、エスティナは今度はヴァイスの手を握ってきた。
「し、仕方ないから手ぐらいは繋いであげるわよ!」
エスティナはヴァイスの手を握りながらそう言った。
「いや、手を繋ぐのもちょっと……」
ヴァイスはそう言って困惑した表情を浮かべる。
「な、何よ! 手を繋ぐのもダメなわけ?」
「いや……まぁ……そうだな……」
「わ、わかったわよ! じゃあ隣で歩くだけにするわ!」
そう言ってエスティナは残念そうに手を離すと、ヴァイスに寄り添うようにくっついた。ヴァイスはもう面倒くさかったので、そのままエスティナに密着されながら市場へと向かった。
街の中心部に着くとヴァイスはさっそく錬金術に使う材料の品定めを始めた。エスティナは真剣に品定めを行うヴァイスの横でつまらなそうな顔をしていた。
(あー、つまんないー。ヴァイスもあまり相手してくれないし、市場にくっついてきたのは失敗だったかも……)
そんなことを考えていると、エスティナの視界にアクセサリーを売っている露店が飛び込んできた。エスティナがフラフラとアクセサリー屋に引き寄せられていくと、露店商が元気よくエスティナに声をかけた。
「おう、嬢ちゃん。綺麗なのがたくさんあるよ。ゆっくり見ていってくんな」
エスティナは露天商の言葉どおりに、所狭しと並べられたアクセサリーを見る。髪飾りや首飾りに指輪や腕輪、イヤリングといった様々な種類のアクセサリーがあった。エスティナは嬉々として良さそうなアクセサリーを手にとって見比べていく。
(あ、これ、いいかも……。あ、あれもいい……)
エスティナは良さそうなものがたくさんあって選びきれないといった様子だったが、最終的には候補を三つほどに絞った。そして、ヴァイスのもとに戻るとエスティナはヴァイスに声をかける。
「あ、あのさ! あっちにアクセサリー屋があったんだけど見に行かない?」
エスティナがそう言うと、薬草の品定めをしていたヴァイスがエスティナの方を向いて言った。
「アクセサリー? うーん、俺は特に興味ないが……。エスティナが気に入ったものがあるなら買ってくればいいじゃないか。俺はここにいるから」
「え? で、でもあんたの意見も参考になるかもしれないし、ちょ、ちょっとぐらい見ていってもいいと思う!」
エスティナはそう言ってヴァイスの袖を引っ張った。
「わ、わかったよ。だから袖を引っ張るなって。……ただ俺にはアクセサリーの知識はないぞ。使われてる金属ならだいたいわかるが……」
「そ、それで別に構わないわよ!」
エスティナは半ば無理やりヴァイスを連れて先ほどのアクセサリー屋へと戻った。
「わ、私的にはこれとそれとあれがいいと思うんだけど……ヴァイスはどう思う?」
エスティナはそう言って既に目をつけておいたアクセサリーを指差していく。ヴァイスはそれらを手に取り入念に品定めをする。
「……うーん、どれも使われている宝石や金属は大して特徴がないものだな。それでもいいならいいんじゃないか?」
ヴァイスはそうエスティナに言った。
「そ、そうなんだ。私としては装飾が結構好きだったから選んだんだけどね! じゃ、じゃあヴァイスが選ぶとしたらどれを選ぶの?」
エスティナはそう言ってちらちらとヴァイスを見た。
「俺が? うーん、そうだなぁ……」
ヴァイスはアクセサリーを次々に手に取り、何やらチェックしていく。すると、ヴァイスはある一つの首飾りを手にして止まった。
「……これとかいいんじゃないかな。特殊な白銀が使われている。おそらく身につけた者の魔力を増幅する作用がある」
ヴァイスがそう言うと、二人を静かに見ていた露天商が口を開いた。
「お、兄ちゃん、なかなかいい目をしてるじゃないか。 そいつは過去にとあるダンジョンで見つかったものでな……。なかなかの掘り出し物だよ。ま、その分値段も張るがな」
露天商はそう言った。エスティナとしてはその首飾りのデザインは微妙なものだったが、ヴァイスが選んでくれたものということで、他のどのアクセサリーよりもはるかに価値があるものに感じられた。
「じゃ、じゃあそれにする……」
エスティナは少しモジモジしながらそう言った。
「……ん? 買うのはエスティナだよな?」
ヴァイスは少し困惑気味にエスティナに言った。
「……ヴァイスが買って?」
エスティナはそう言って上目遣いでヴァイスを見る。
「え? 俺が? なんで?」
「い、いいじゃん! これぐらい! ほ、ほらマスターとしてこういうときはやっぱりマスターが買わないと!」
エスティナはここぞばかりにヴァイスにマスターとしての資質を力説した。ヴァイスはエスティナにマスターとしての役割を強調されると「そんなものか……」と言って最終的には折れることになった。エスティナはヴァイスに首飾りを買ってもらうことに成功し、内心では飛び跳ねるほど喜んでいた。
エスティナはさっそくヴァイスに買ってもらった首飾りを付けると、その後はルンルン気分でヴァイスとの一日を楽しんだ。エスティナはルーフィの家に戻ると、ルーフィに自分がヴァイスに首飾りを買ってもらったことを話した。
「なっ!! 姉さん、マスターにそれ買ってもらったの!?」
「そうよん。買ってもらっちゃった♪」
エスティナはそう言って得意げな顔をした。
「……う、うう……べ、別に羨ましくなんてないんだから! わ、私も後で絶対マスターに買ってもらうんだから!!」
ルーフィはそう言うと少し涙目になっていた。一方、ヴァイスはエスティナに買った首飾りの値段が想像以上だったこともあり、すっからかんになった自身の財布の中を見て自室で「はぁ……また稼がないと……」と呟きながらため息をついていた。
しかし、ヴァイスはこのとき後にルーフィにも首飾りを買ってあげることになり、また財布をすっからかんにするハメになるとは全くもって予想だにしていなかったのだった……。
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