3 / 33
太陽と月
しおりを挟む
まだ少し肌寒かったランシェットの誕生日から少し時は流れ、暖かな日差しがきらきらと新緑に輝く季節になっていた。
王は二十五歳になっており、王女は二十二歳。
国を上げて輿入れのパレードが催され、隣国の国境から王宮まで国民が列を成して歓迎した。
その様子を王宮の自室からそっと眺めたが、豊かな黒髪の美しい、意志の強い瞳をした女性だと感じた。
噂に伝え聞くガズールの砂漠を思わせるような、褐色の肌が贅を尽くした白い婚礼衣装から覗いていた。
ガズールは広い領土を持ち海にも接しているが、国土の大半が砂漠であり、ヴォルデのように農業が上手く根付く土地ではない為ヴォルデとの結びつきを強く求めていた。
ヴォルデはフォルスト王の母でもある先代の正妃を、ガズールとも国境を接しているフィリル王国から迎えていたが、フィリル王国は雪深い峡谷が故に資源が限られており今のガズールと対抗する程の国力はなく、後ろ盾の欲しいヴォルデの重臣の殆どとガズールの思惑が一致し婚礼の運びとなったらしい。
王のあの夜の言葉を思い返す。
熱くランシェットを見つめていた瞳が、王女に優しく微笑みかけている。
きつく絡め合った指も、今は王女のしなやかなそれを優しく支えている。
――胸の奥がきしむように痛い。
太陽の光に照らされ、民からも祝福を受け歩みを進める二人が妬ましい。
堪えられなくなり窓から離れようとした時、王女と視線が合った気がした。
王は子孫を残し、国を繁栄させていかねばならない。
その障害になってはいけないと解っていた為、婚儀から少ししてランシェットは称号の返上と領地へ戻ることを申し出たが、王は聞き入れることは無かった。
そればかりか、それ以後まだ婚儀から日もさほどたっておらず王女の元へ通うべきであろうところを、ランシェットの寝室に通う日が週に一日、二日と増えてしまっていた。
これが仇となってしまう。
アリオラ王妃が身篭ったという報せが国に知れ渡った後のことだった。
何者かの差し向けた屈強な男達がある夜ランシェットの寝室に押し入り、暴力的に辱められた挙句、王がありながらランシェットから望んで以前より何度もその男たちと姦通していたという汚名を着せられることになってしまう。
ランシェットの存在が疎ましいのは誰か。
一番疑わしいのは王妃だが、証拠は何も無かった。
隣国から嫁ぎ身篭ったばかりで王やその淫らな愛人にとんでもない仕打ちを受け、心労で塞ぎがちになったとして、アリオラはランシェットの幽閉を王に求めた。
王は仕方なく、王都から離れた塔にランシェットを幽閉することを決めた。
噂というものは恐ろしいもので、さらに根も葉もない話が追加され、ヴォルデ始め周辺各国内ではランシェットが稀代の好き者であり、男と見るや誘惑してくる魔性の男だ、まだ若かった王を手玉に取り堕落させた淫らな男だなどということになっていた。
その為、先代の塔守は退役間近の老いた男だったのだろうし、十年経った今でも出会って僅かの新塔守が名を聞いて息を飲むほど固く信じられていたのだった。
王は二十五歳になっており、王女は二十二歳。
国を上げて輿入れのパレードが催され、隣国の国境から王宮まで国民が列を成して歓迎した。
その様子を王宮の自室からそっと眺めたが、豊かな黒髪の美しい、意志の強い瞳をした女性だと感じた。
噂に伝え聞くガズールの砂漠を思わせるような、褐色の肌が贅を尽くした白い婚礼衣装から覗いていた。
ガズールは広い領土を持ち海にも接しているが、国土の大半が砂漠であり、ヴォルデのように農業が上手く根付く土地ではない為ヴォルデとの結びつきを強く求めていた。
ヴォルデはフォルスト王の母でもある先代の正妃を、ガズールとも国境を接しているフィリル王国から迎えていたが、フィリル王国は雪深い峡谷が故に資源が限られており今のガズールと対抗する程の国力はなく、後ろ盾の欲しいヴォルデの重臣の殆どとガズールの思惑が一致し婚礼の運びとなったらしい。
王のあの夜の言葉を思い返す。
熱くランシェットを見つめていた瞳が、王女に優しく微笑みかけている。
きつく絡め合った指も、今は王女のしなやかなそれを優しく支えている。
――胸の奥がきしむように痛い。
太陽の光に照らされ、民からも祝福を受け歩みを進める二人が妬ましい。
堪えられなくなり窓から離れようとした時、王女と視線が合った気がした。
王は子孫を残し、国を繁栄させていかねばならない。
その障害になってはいけないと解っていた為、婚儀から少ししてランシェットは称号の返上と領地へ戻ることを申し出たが、王は聞き入れることは無かった。
そればかりか、それ以後まだ婚儀から日もさほどたっておらず王女の元へ通うべきであろうところを、ランシェットの寝室に通う日が週に一日、二日と増えてしまっていた。
これが仇となってしまう。
アリオラ王妃が身篭ったという報せが国に知れ渡った後のことだった。
何者かの差し向けた屈強な男達がある夜ランシェットの寝室に押し入り、暴力的に辱められた挙句、王がありながらランシェットから望んで以前より何度もその男たちと姦通していたという汚名を着せられることになってしまう。
ランシェットの存在が疎ましいのは誰か。
一番疑わしいのは王妃だが、証拠は何も無かった。
隣国から嫁ぎ身篭ったばかりで王やその淫らな愛人にとんでもない仕打ちを受け、心労で塞ぎがちになったとして、アリオラはランシェットの幽閉を王に求めた。
王は仕方なく、王都から離れた塔にランシェットを幽閉することを決めた。
噂というものは恐ろしいもので、さらに根も葉もない話が追加され、ヴォルデ始め周辺各国内ではランシェットが稀代の好き者であり、男と見るや誘惑してくる魔性の男だ、まだ若かった王を手玉に取り堕落させた淫らな男だなどということになっていた。
その為、先代の塔守は退役間近の老いた男だったのだろうし、十年経った今でも出会って僅かの新塔守が名を聞いて息を飲むほど固く信じられていたのだった。
10
あなたにおすすめの小説
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】君の穿ったインソムニア
古都まとい
BL
建設会社の事務として働く佐野純平(さの じゅんぺい)は、上司のパワハラによって眠れない日々を過ごしていた。後輩の勧めで病院を受診した純平は不眠症の診断を受け、処方された薬を受け取りに薬局を訪れる。
純平が訪れた薬局には担当薬剤師制度があり、純平の担当薬剤師となったのは水瀬隼人(みなせ はやと)という茶髪の明るい青年だった。
「佐野さんの全部、俺が支えてあげますよ?」
陽キャ薬剤師×不眠症会社員の社会人BL。
『定時後の偶然が多すぎる』
こさ
BL
定時後に残業をするたび、
なぜか必ず同じ上司が、同じフロアに残っている。
仕事ができて、無口で、社内でも一目置かれている存在。
必要以上に踏み込まず、距離を保つ人――
それが、彼の上司だった。
ただの偶然。
そう思っていたはずなのに、
声をかけられる回数が増え、
視線が重なる時間が長くなっていく。
「無理はするな」
それだけの言葉に、胸がざわつく理由を、
彼自身はまだ知らない。
これは、
気づかないふりをする上司と、
勘違いだと思い込もうとする部下が、
少しずつ“偶然”を積み重ねていく話。
静かで、逃げ場のない溺愛が、
定時後から始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる