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偽りの
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それから三十分程経った頃、二人の姿は最寄りの村・クルトーにあった。
その周りには大勢の村人がひしめき合っていた。
「なんて事だ!この平和な村の近くでそんな物騒な事が!?」
「新婚旅行でせっかく来たのに災難だったねぇ」
「奥さんの綺麗な髪がこんな無惨に…!最低の野郎だね!」
「ああ、なんとか命からがら逃げてきたんだが一生の不覚だ…妻の尊厳を傷つけられ旅行費用や着替えなどほとんどが盗られてしまった」
大袈裟な身振り手振りで演技に熱を込めているグリゴールは、騎士服の上着を脱いで中のシャツとパンツスタイルで身なりの良い平民風になっていた。
ランシェットに至っては、パンツスタイルだった足元は太ももにたくし上げられ、ドロワーズのようになり、中に履いていた靴下がブーツから僅かに覗いている。
羽織っていたケープコートはウエスト部分をグリゴールの持っていたスカーフで締め、平民の女性の晴れ姿で着られるような上着のシルエットへと変えていた。
髪の毛も二つに分けられ、花まで挿す念の入れようだ。
「奥さんの髪だけでなくスカートまで奪っていくとは下劣な奴だ!」
「私の若い時ので良かったら丁度いい色のがあるわ!持ってきてあげるから待っておいで!」
「肝が冷えただろう、うちの食堂で温かいスープと食事でも食べて行ってくれ。
お代は要らないよ」
人のいいクルトーの村人たちは、新婚旅行中の二人が山賊に襲われ身ぐるみを剥がれたという話を信じ、村に現れた二人を丁重にもてなしてくれていた。
「『ランジェ』、この村の人達は本当にいい人たちばかりだな」
「ええ、本当に。
昨日はこの村まで来て宿を取れば良かったわね、『グリード』」
髪を二つに分け、微笑んでみせたランシェットはどこからどう見ても女性にしか見えなかった。
声色が多少低めでも、男と気づかないよう補って余りある美貌は十年も幽閉されていたようには見えなかった。
人のいい丸顔の食堂の店主に案内され、先程までいた村の広場のすぐ近くの店へ通される。
朝早くから仕込んでいたのであろう、オニオンスープや焼きたてのパン、肉と野菜を練って固めたこの周辺の郷土料理らしきものなどが美味そうな香りと湯気を立てている。
「さあさあ、ここに座って食べてくれ」
店の中心のテーブル席に座るように促され、二人が席に着くと店主とそのおかみさんらしき女性が次々と料理を運んで来てくれた。
さすがに悪い気がして、グリゴールは無事実家に着いたら何か送らせてくれと申し出たが、奥さんを労るのに使っておあげ!とおかみさんに一蹴されてしまう。
店主も横でうんうんとうなづいているのを見て、ランシェットはとんでもない奴だと思った。
こんな人間が嫁ぐ前から王宮にいたら、それはそれは王妃には目障りだっただろう。
他にも良く思わない人間には目の上の瘤でしかない。
最初に出会った時に掴んできた腕の細さは、骨や血管が不健康に浮き出ており、痩せていて生気のないものだった。
家族の様子を聞き、なけなしの食事も要らないと塞いでいた。
それが今はどうだ。
グリゴールと夫婦のフリまでして食事にありつこうとしている。
ランシェットはかつての貴族としての自分も、王の花として寵愛された自分も、幽閉され絶望した日々も振り払って前に進もうとしている。
その原動力が王への愛からなのか、忠誠心からなのか、己の人生を取り戻そうとしているからなのかは分からないが。
襲撃を受けて怯え尻込みするかと思ったが、無用な心配だったようだ。
「では…ご主人がたとヴォルデの恵みに感謝を。
…いただきます」
『ランジェ』と『グリード』夫妻は、目の前の料理に食卓ではお決まりの文句を口にしてナイフを入れた。
その周りには大勢の村人がひしめき合っていた。
「なんて事だ!この平和な村の近くでそんな物騒な事が!?」
「新婚旅行でせっかく来たのに災難だったねぇ」
「奥さんの綺麗な髪がこんな無惨に…!最低の野郎だね!」
「ああ、なんとか命からがら逃げてきたんだが一生の不覚だ…妻の尊厳を傷つけられ旅行費用や着替えなどほとんどが盗られてしまった」
大袈裟な身振り手振りで演技に熱を込めているグリゴールは、騎士服の上着を脱いで中のシャツとパンツスタイルで身なりの良い平民風になっていた。
ランシェットに至っては、パンツスタイルだった足元は太ももにたくし上げられ、ドロワーズのようになり、中に履いていた靴下がブーツから僅かに覗いている。
羽織っていたケープコートはウエスト部分をグリゴールの持っていたスカーフで締め、平民の女性の晴れ姿で着られるような上着のシルエットへと変えていた。
髪の毛も二つに分けられ、花まで挿す念の入れようだ。
「奥さんの髪だけでなくスカートまで奪っていくとは下劣な奴だ!」
「私の若い時ので良かったら丁度いい色のがあるわ!持ってきてあげるから待っておいで!」
「肝が冷えただろう、うちの食堂で温かいスープと食事でも食べて行ってくれ。
お代は要らないよ」
人のいいクルトーの村人たちは、新婚旅行中の二人が山賊に襲われ身ぐるみを剥がれたという話を信じ、村に現れた二人を丁重にもてなしてくれていた。
「『ランジェ』、この村の人達は本当にいい人たちばかりだな」
「ええ、本当に。
昨日はこの村まで来て宿を取れば良かったわね、『グリード』」
髪を二つに分け、微笑んでみせたランシェットはどこからどう見ても女性にしか見えなかった。
声色が多少低めでも、男と気づかないよう補って余りある美貌は十年も幽閉されていたようには見えなかった。
人のいい丸顔の食堂の店主に案内され、先程までいた村の広場のすぐ近くの店へ通される。
朝早くから仕込んでいたのであろう、オニオンスープや焼きたてのパン、肉と野菜を練って固めたこの周辺の郷土料理らしきものなどが美味そうな香りと湯気を立てている。
「さあさあ、ここに座って食べてくれ」
店の中心のテーブル席に座るように促され、二人が席に着くと店主とそのおかみさんらしき女性が次々と料理を運んで来てくれた。
さすがに悪い気がして、グリゴールは無事実家に着いたら何か送らせてくれと申し出たが、奥さんを労るのに使っておあげ!とおかみさんに一蹴されてしまう。
店主も横でうんうんとうなづいているのを見て、ランシェットはとんでもない奴だと思った。
こんな人間が嫁ぐ前から王宮にいたら、それはそれは王妃には目障りだっただろう。
他にも良く思わない人間には目の上の瘤でしかない。
最初に出会った時に掴んできた腕の細さは、骨や血管が不健康に浮き出ており、痩せていて生気のないものだった。
家族の様子を聞き、なけなしの食事も要らないと塞いでいた。
それが今はどうだ。
グリゴールと夫婦のフリまでして食事にありつこうとしている。
ランシェットはかつての貴族としての自分も、王の花として寵愛された自分も、幽閉され絶望した日々も振り払って前に進もうとしている。
その原動力が王への愛からなのか、忠誠心からなのか、己の人生を取り戻そうとしているからなのかは分からないが。
襲撃を受けて怯え尻込みするかと思ったが、無用な心配だったようだ。
「では…ご主人がたとヴォルデの恵みに感謝を。
…いただきます」
『ランジェ』と『グリード』夫妻は、目の前の料理に食卓ではお決まりの文句を口にしてナイフを入れた。
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