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セレブガール・ミーツ・ボーイ その1

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「ああ…ヒロ坊くん……何度見ても素敵です……」

私の部屋の壁一面に張られた<彼>の写真を見詰め、私はうっとりとしていました。こうしてる時間もたまらなく幸せなのですが、やっぱり彼の傍にいる時の方がこの何倍も幸せです。でも、さすがに、今はまだずっと一緒にはいられないのでこれで我慢するしかありません。

私は、彼の可愛さにすっかり魅了されていました。いえ、恋をしてると言ってもいいでしょう。彼の家に訪れる度に写真を撮らせていただいて、今ではその数は数百枚に上っています。

彼の名前は山仁大希やまひとひろき君。小学四年生。年齢は9歳。誕生日は12月24日。私より六つも下です。

でもそんなことは関係ありません。そんなことでは彼の魅力は揺らぎません。

彼は素敵です。本当に素敵です。私にとっては彼以上の男性は、存在しえないと断言してもいいでしょう。



彼との出会いは、彼の姉である山仁一弧やまひといちこと友達になったことがきっかけでした。

しかし彼女の家は、一部上場企業の重役を父に持ち、全国にチェーン展開している有名エステサロンのオーナーを母に持つ私とは比べるべくもない下流の父子家庭でした。そこに彼はいたのです。

「これは……」

一目見て言葉を失うくらいの、ゴミ屋敷の初期段階のような荒れた家に、彼は父子三人で暮らしていたのでした。

そのような家庭環境にありながら彼の瞳はとても真っすぐで、髪を短くしていなければ女の子にも間違われそうな中性的な優しい顔をした彼は、まさに西洋絵画に描かれる天使そのものでした。

『掃き溜めに鶴』とは、こういう場合にも使われるのでしょうか?

そんな彼に魅了されてしまった私は、いつか彼をこの境遇から救い出すべく、密かに計画を練っていました。彼が結婚可能な年齢になる九年間の間に彼を私の虜にして、婿養子として私の家に迎え入れるのです。

その為には、彼を私の虜とするだけでは足りません。彼を私の家に相応しい一流の男性に育て上げる必要があります。でなければ父や母に結婚を反対される可能性もありますから。

だから私は、友達である山仁一弧=イチコに会うことを名目に彼の家を訪れ、そのついでと称して彼の勉強を見てあげるようにしていたのでした。全ての科目において学年でもトップクラスの学力を持つ私にとっては、小学生の家庭教師くらい造作もないことでした。ことのはずでした。はずだったのです……



自己紹介が遅れました。私の名前は星谷美嘉ひかりたにみか

市立城成高校1年3組出席番号29番。誕生日は6月13日。座右の銘は『唯我独尊』。

自分で言うのもなんですが、家柄はもとより、美しさにおいても私はあの素晴らしい彼に充分釣り合うと思います。あとは彼を父や母が認める男性にするだけだったのです。

そこで私は、まずプレゼント攻勢で、彼の私に対する好感度を上げることを狙いました。

「ヒロ坊くん、これどうぞ」

「わあ! ありがとう!」

プレゼントを差し出す私に、輝くような笑顔で『ありがとう』と答えてくれる彼を見ているだけで、私は天にも昇るような気持ちになれます。

最初は上品な和菓子を、家に上がらせていただくことの付け届けとして持って行ってたのですが、初めの頃こそ、

「おいしい~!」

と、小さく踊るように体を揺らしながら喜んでいただけたものの、やはり小学生には和菓子は早かったということでしょうか。そのうちあまり興味を持っていただけなくなってしまったのでした。

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