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呉越同舟 その3
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『ケンカなら他所でやってくれないか…?』
と、彼のお父さんに叱られてしまい、さすがにこの日はそれ以上、誰もこの話題を広げる気にはなれず、とは言え勉強するような雰囲気でもなく、イチコはゲームをし、彼と石生蔵千早は宿題を済ませただけで、あとはお気に入りのおもしろ動画を一緒に見て、私はスマホで今後の勉強のスケジュールの修正を行います。
その後、彼の勉強の終了予定時間である三時に合わせてやってきたフミとカナも一緒になって、また、人生をテーマにしたルーレットゲームを皆でやって、五時に解散となりました。
しかし、玄関で彼に見送られ家路に着く石生蔵千早の視線が一瞬、私に向けられたのを私は見逃しませんでした。
『何ですか? その目は……!』
それは明らかに挑みかかるような敵意を含んだ視線でした。やっぱり生意気な女だと思いました。
ただ私はこの時それ以上に気掛かりなことがあって、私がタクシーを呼んだ場所までイチコに付き合ってもらったのでした。
「お父さん、やっぱり怒ってらっしゃると思います?」
そうです。彼のお父さんを怒らせてしまったことが、私は何よりも心配だったのでした。けれどそんな私にイチコは言いました。
「ああ、たぶん大丈夫だよ。あのくらいだったら。ほんとに怒ってる時は一時間くらいお説教だから」
いつもと変わりなくのんびりとしたその口調がイチコの言葉に嘘がないことを物語ってる気がして、私は、
『よかった……』
と、心底安堵しました。だけど、胸を撫で下ろす私にイチコが続けます。
「でも、ピカも大人げなさすぎだと思うよ。相手は小学生の子供なんだから、あの言い方はお父さんでなくてもちょっとと思うんじゃないかな」
「…」
言いたいことはありましたが、その時の私はあえてそれを飲み込みました。この時のイチコの言葉は彼のお父さんの言葉だと感じたからです。
「それとお父さんが言ってたんだけど、キレるっていうのは、無意識のうちに自分を相手より格下だと感じてるってことなんだって。だから大人が子供相手にキレるのは恥ずかしい事だって言ってた。私達もまだ子供だけど、自分より小さな子供相手にキレたりしたら恥ずかしいよね」
『あ……』
私は言葉もありませんでした。確かに、口調こそ抑えていましたが、内心では頭に血が上った状態だったことは事実です。私としては年長者として生意気な子供に注意をしただけのつもりでしたが、今思えばそれもただの建前だったと思います。本音は、単に感情的になって彼女をやり込めたかっただけでしょう。しかも、『負けませんよ』の意味について嘘まで吐いて……
「……」
何も言えない私に、イチコは最後にこう言ってくれました。
「大丈夫だよ。私達もまだ子供だもん。間違ったことをしたと思ったら反省して、同じ間違いをしないようにすればいいんだって、お父さんはいつも私に言ってくれるよ。きっとピカに対してもそう思ってくれてるって」
その言葉に、私はまた、
『器が…違い過ぎる……』
と、自分の未熟さを思い知らされるのでした。
と、彼のお父さんに叱られてしまい、さすがにこの日はそれ以上、誰もこの話題を広げる気にはなれず、とは言え勉強するような雰囲気でもなく、イチコはゲームをし、彼と石生蔵千早は宿題を済ませただけで、あとはお気に入りのおもしろ動画を一緒に見て、私はスマホで今後の勉強のスケジュールの修正を行います。
その後、彼の勉強の終了予定時間である三時に合わせてやってきたフミとカナも一緒になって、また、人生をテーマにしたルーレットゲームを皆でやって、五時に解散となりました。
しかし、玄関で彼に見送られ家路に着く石生蔵千早の視線が一瞬、私に向けられたのを私は見逃しませんでした。
『何ですか? その目は……!』
それは明らかに挑みかかるような敵意を含んだ視線でした。やっぱり生意気な女だと思いました。
ただ私はこの時それ以上に気掛かりなことがあって、私がタクシーを呼んだ場所までイチコに付き合ってもらったのでした。
「お父さん、やっぱり怒ってらっしゃると思います?」
そうです。彼のお父さんを怒らせてしまったことが、私は何よりも心配だったのでした。けれどそんな私にイチコは言いました。
「ああ、たぶん大丈夫だよ。あのくらいだったら。ほんとに怒ってる時は一時間くらいお説教だから」
いつもと変わりなくのんびりとしたその口調がイチコの言葉に嘘がないことを物語ってる気がして、私は、
『よかった……』
と、心底安堵しました。だけど、胸を撫で下ろす私にイチコが続けます。
「でも、ピカも大人げなさすぎだと思うよ。相手は小学生の子供なんだから、あの言い方はお父さんでなくてもちょっとと思うんじゃないかな」
「…」
言いたいことはありましたが、その時の私はあえてそれを飲み込みました。この時のイチコの言葉は彼のお父さんの言葉だと感じたからです。
「それとお父さんが言ってたんだけど、キレるっていうのは、無意識のうちに自分を相手より格下だと感じてるってことなんだって。だから大人が子供相手にキレるのは恥ずかしい事だって言ってた。私達もまだ子供だけど、自分より小さな子供相手にキレたりしたら恥ずかしいよね」
『あ……』
私は言葉もありませんでした。確かに、口調こそ抑えていましたが、内心では頭に血が上った状態だったことは事実です。私としては年長者として生意気な子供に注意をしただけのつもりでしたが、今思えばそれもただの建前だったと思います。本音は、単に感情的になって彼女をやり込めたかっただけでしょう。しかも、『負けませんよ』の意味について嘘まで吐いて……
「……」
何も言えない私に、イチコは最後にこう言ってくれました。
「大丈夫だよ。私達もまだ子供だもん。間違ったことをしたと思ったら反省して、同じ間違いをしないようにすればいいんだって、お父さんはいつも私に言ってくれるよ。きっとピカに対してもそう思ってくれてるって」
その言葉に、私はまた、
『器が…違い過ぎる……』
と、自分の未熟さを思い知らされるのでした。
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