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大希

<要因>を摘み取ることが

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お昼を終えて彼の家に戻ると、フミとカナがリビングで寛いでいました。<他人の家>と考えると眉を顰める方もいらっしゃるかもしれない態度ではありますが、カナはすでに一年以上一緒に暮らしていますし、フミにとってもこちらがもう本当の家のようなものです。

「だらしなく寛げるようなでなければ、私はそんな家には帰りたくありません。だから自分の家でいくらだらしなくしてても私は気になりません」

お父さんはそう言って、フミやカナがだらしなく寛いでいてもまったく気にしないのです。

「自分の家で寛げないのなら、うちで寛いでいけばいい。イチコの友達だったら私にとっても我が子のようなものだし」

ともおっしゃってくださっていました。

そんな様子を見ていて私は思うのです。同じように過酷な境遇で育った人であっても事件を起こす場合とを起こさない場合の差は、こういうところにあるのではないかと。

どこかで救われる部分があるからこそ、踏み止まれるのではないかと。

しかしそれで言うと、玲那さんの事件はなぜ起こってしまったのでしょうか?

こちらは単純な話だと私は感じます。<殺しても飽きたらない加害者>が目の前にいて、しかも新たに被害者を出そうとしている。それに直面したことで、玲那さんの中における<閾値>が超えてしまったのではないでしょうか。

おそらくその場に山下さんか絵里奈さんがいらっしゃれば、事件は起こらなかった気がするのです。

玲那さんの境遇が大きな原因としてあったのは事実でも、ある意味では不幸な<事故>に近い事件だったのではないでしょうか。

それらの<要因>を摘み取ることが事件を未然に防ぐのだと私は実感しています。

もちろん、口で言うほど簡単なことではありません。それは十分に承知しています。ですが、だからといって努力をしないでいいというわけではないと私は思うのです。

そこで努力をしないというのは、事件を未然に防ぐための努力をしないということです。ただ成り行きに任せるだけで、それで事件がおこってしまってから慌て、『自分は努力してきた!』と泣き言を述べても意味がないのではないでしょうか?

法律上は責任を問われなくても、道義的な責任はあるのかもしれません。

少なくとも私は、自分の努力が足りなかったばかりにカナやフミが事件を起こしてしまったりすれば、自分で自分を許すことができないでしょう。

事件が起こってからいくら厳しく罰しても、起こってしまった現実は消えてなくなりません。

被害はなくならないのです。

本来は一方的な被害者でしかなかった玲那さんでさえ、事件を起こしたことで世間から厳しい非難を受けています。

保護者の立場ですらないカナも、お兄さんの起こした事件により自身の家に帰ることさえできなくなりました。

そのようなことはもう二度と起こって欲しくないのです。

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