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大希

<形>にばかり拘るのは

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元旦。

「あけましておめでとうございます」

朝一番でヒロ坊くんの家に行くと、

「おめでとうございます!」

彼と千早とカナが揃って出迎えてくれました。

「あけましておめでとうございます」

お義父さんも穏やかに出迎えてくださいます。

「本年もよろしくお願いいたします」

私はそう言って頭を下げます。単なる社交辞令としてではなく、素直な気持ちとしてそれができることが嬉しい。

こうやって挨拶することは当然のことだと考える方も多いでしょう。ですが、たとえ家族であってもそれをしたくないと考える方もいらっしゃるのもまた事実。

家族同士であっても挨拶も交わしたくないというのは、とても残念なことです。

自身の家庭がそうならないように、私はたくさんのことを学ばなければなりません。

人を敬い、慈しむとはどういうことなのか。どうすればそれができるのか。

かつての私にはできなかったことも、今の私ならできます。

そうしたいと思える。

そうしたいと思える自分になれたことがとても嬉しいのです。

ですがそれは、私自身の努力だけではなかった。イチコと出逢い、カナと出逢い、フミと出逢い、ヒロ坊くんと出逢い、お義父さんと出逢い、千早と出逢い、山下家の方々と出逢えたからこそのもの。

その事実も忘れてはいけません。決して私だけの努力や才能で今があるわけではないということを忘れてはいけないのです。それを忘れては、私はきっとまた独善的な思い上がった人間に戻ってしまうでしょう。

想像するだけで恐ろしい……

などと想いをめぐらせていた私の背後から、

「あけましておめでとうございます!」

と、声が掛けられました。フミでした。

「あけましておめでとうございます」

声を揃えて、私達も応えます。

こうして<家族>が揃いました。

無事に新年を迎えられて本当に良かった……



「じゃあ、気をつけていってらっしゃい」

「いってきます!」

お義父さんに見送られ、私達は近所の神社へと初詣に向かいます。お義父さんは年末年始も関係なく仕事ですので。

そのようにして、

『家族と一緒に初詣に行かない』

ことについて眉を顰める方もいらっしゃるかもしれません。ですが、家族の関係性の本質はそういうところにはないと今の私は感じています。家族だからと常に行動を共にする必要はないのだと。

そういう<形>にばかり拘るのは逆に心を離れさせるのだと。

たとえそれぞれが違うことをしていても、互いを想えていれば、バラバラにはなってしまわない。

それが分かります。

だから、私の両親が新年の挨拶をしただけで忙しく出掛けてしまっても、私はそれを恨んだりせずに済んでいるのです。

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