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ハーレム
IDタグ(二千二百年前の遺品か)
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「伏だ。お前の名前は伏にしよう。伏せるで伏」
すっかり俺に懐いて甘えてくるライオン少女に向かって、俺はそう言った。草むらに見事に潜伏してたところとか、スタン弾を腹に受けて臥せってるところかとか、何だか俺にすっかり服従してるようにも見えるところとか、とにかく何となく伏だと思ったのだ。
「伏ですか。承知しました」
と、エレクシアは淡々と運転しながらそう応え、
「伏ちゃんですね。可愛い」
と、セシリアCQ202は手の平を顔の前で合わせて笑顔を浮かべていた。
だが、密と刃の二人は不機嫌そうに睨んでいるだけだったが。それでもまあ、襲い掛かってくる訳でもないし、別にいいだろう。しばらくの間は注意深く様子を見ないといけないかもしれないが、そのうち慣れてくれるんじゃないかな。
それよりも俺は、そのすぐ後でセシリアCQ202が見せた表情が気になっていた。窓からコーネリアス号の方をじっと見詰めていたのだ。その手に、亡くなった乗員達のIDタグの束を握り締めながら。
六十人分のIDタグの束は、何とも言えない存在感があった。まるで自分達が生きていたことを主張するかのように。そしてセシリアCQ202はそれを大事そうに手にしていた。
ロボットに心はないが、こういう姿を見ていると心があるように感じてしまうのも無理はないだろうな。
俺も、遭難者としての先輩方に思いを馳せる。
半ば投げやりな気持ちで、厄介事から逃げようという気持ちも間違いなく持っていて夢色星団に突入した俺と違って、あくまで生きて帰ることを前提に入植可能な惑星を探していた彼らはどんな想いでここで最期を迎えたんだろうな。家族を想って泣いたのか、絶望に心を折られて打ちひしがれていたのか……
後でセシリアCQ202から改めて詳しい説明を受けると、彼らを襲ったという謎の生物の所為で命を落としたのは、三十六人だったと言う。残りの二十四人は、怪我がもとで亡くなった者、病死した者が殆どで、自衛用の銃で自殺した者も二人いたそうだった。自殺したうちの一人は、野苺に似た例の果実を隠れて食って腹を壊した奴だったそうだ。やはり精神的に病んでいたということか。
それに、怪我や病気で亡くなった者も、実は治療を拒んでのものだったから、<事実上の自殺>のようなものだったらしい。
なお、恒星間航行技術の技術そのものは、様々なメーカーが既にロボット船による合計一万回ものテストを重ねた後だったから安全性も耐久性も信頼性も十分なもので、実質的には恒星間航行が人間に与える影響を検証するのが主な目的の一つだったらしい。ロボット船によるテストも初期の頃こそは事故も相次いだが、最初に開発された縮退炉には欠陥があったりしたらしいが、欠陥が解消された縮退炉が開発されると、最後の一千回くらいはまったく無事故ですべて無事に帰還したそうだ。だから本来はそこまで命懸けの航海でもなかった筈なのだ。
参加したメンバーにしても、もちろんリスクは覚悟した上で様々な試験や訓練を乗り越えて選ばれた者達だっただろうから心身共にタフだったんだろう。それでもなお、もう二度と故郷へは帰れない、自分達がここにいるということを知らせる手立てもないという事実の前には、正気を保ちきれない者も出てくるということなんだろうな。
……いや、銃で自殺した二人はともかく、他の二十二人は、むしろ『理性的だったから』こそ、自然に死ねる方法を選んだのかもしれない……?
だが同時に、俺は思った。もし彼らが、密達のような存在に出会っていたらどうだっただろうか? 言葉は通じなくても、人間らしいコミュニケーションは取れなくても、これほどまでに人間に近い彼女達が隣人として暮らしている惑星だと分かっていれば、もしかすると結果は違っていたのかもしれないとも思わなくはなかった。
ただそれも、俺の場合は元の世界に未練も何もなかったという前提の違いもあるかもしれないが。
それと、気になることは他にもある。彼らを襲ったという謎の生物だ。セシリアCQ202の説明によると、フィクションなどでは割とメジャーな、俗に<スライム>と呼ばれるものを連想させる、透明な不定形生物だということだった。
銃で撃っても死なず、ナイフで切っても死なず、淡々と生物を襲うそいつらの最初の襲撃で、三十一人が死亡したという。
その後、残った乗組員達はコーネリアス号に閉じこもって生活していたが、閉鎖された空間での長期間の生活は相当苦しかったらしく、ストレスが原因になったのか体調を崩してそのまま病気になり、その上で敢えて治療を拒み、何人もがそれで命を落としたそうだった。
さらには、息抜きと称して外に出て不定形生物に襲われた者が三人。最後に残った二人は、外には出なかったが、せめて外の空気を吸いたいと思ったのか外気取り入れ口を開けたままにしていてそこから侵入され、遂に全滅となったそうだ。
外気取り入れ口については、普通ならメイトギアが気付くところを、開閉を知らせるセンサーにわざわざ細工をして開いていることを分からないようにし、しかもそれをメイトギアに知られない為にか近付かないように命令していたらしい。そういう意味でも、正常な判断力を失っていたんだろうな。
それで言えば、俺が伏を相手にやったことも、明らかにまともじゃなかった。エレクシアにも言われた通り、身の程をわきまえない行為だった。今後はもう、危険なことはエレクシアに任せることを徹底する。
そして、密や刃や伏とイチャイチャしながら面白おかしく生きるのだ。そうしていてもいずれは俺も死ぬ。そんな生き方でいいじゃないかと、ローバーの中をぐるりと見渡して思ったのだった。
すっかり俺に懐いて甘えてくるライオン少女に向かって、俺はそう言った。草むらに見事に潜伏してたところとか、スタン弾を腹に受けて臥せってるところかとか、何だか俺にすっかり服従してるようにも見えるところとか、とにかく何となく伏だと思ったのだ。
「伏ですか。承知しました」
と、エレクシアは淡々と運転しながらそう応え、
「伏ちゃんですね。可愛い」
と、セシリアCQ202は手の平を顔の前で合わせて笑顔を浮かべていた。
だが、密と刃の二人は不機嫌そうに睨んでいるだけだったが。それでもまあ、襲い掛かってくる訳でもないし、別にいいだろう。しばらくの間は注意深く様子を見ないといけないかもしれないが、そのうち慣れてくれるんじゃないかな。
それよりも俺は、そのすぐ後でセシリアCQ202が見せた表情が気になっていた。窓からコーネリアス号の方をじっと見詰めていたのだ。その手に、亡くなった乗員達のIDタグの束を握り締めながら。
六十人分のIDタグの束は、何とも言えない存在感があった。まるで自分達が生きていたことを主張するかのように。そしてセシリアCQ202はそれを大事そうに手にしていた。
ロボットに心はないが、こういう姿を見ていると心があるように感じてしまうのも無理はないだろうな。
俺も、遭難者としての先輩方に思いを馳せる。
半ば投げやりな気持ちで、厄介事から逃げようという気持ちも間違いなく持っていて夢色星団に突入した俺と違って、あくまで生きて帰ることを前提に入植可能な惑星を探していた彼らはどんな想いでここで最期を迎えたんだろうな。家族を想って泣いたのか、絶望に心を折られて打ちひしがれていたのか……
後でセシリアCQ202から改めて詳しい説明を受けると、彼らを襲ったという謎の生物の所為で命を落としたのは、三十六人だったと言う。残りの二十四人は、怪我がもとで亡くなった者、病死した者が殆どで、自衛用の銃で自殺した者も二人いたそうだった。自殺したうちの一人は、野苺に似た例の果実を隠れて食って腹を壊した奴だったそうだ。やはり精神的に病んでいたということか。
それに、怪我や病気で亡くなった者も、実は治療を拒んでのものだったから、<事実上の自殺>のようなものだったらしい。
なお、恒星間航行技術の技術そのものは、様々なメーカーが既にロボット船による合計一万回ものテストを重ねた後だったから安全性も耐久性も信頼性も十分なもので、実質的には恒星間航行が人間に与える影響を検証するのが主な目的の一つだったらしい。ロボット船によるテストも初期の頃こそは事故も相次いだが、最初に開発された縮退炉には欠陥があったりしたらしいが、欠陥が解消された縮退炉が開発されると、最後の一千回くらいはまったく無事故ですべて無事に帰還したそうだ。だから本来はそこまで命懸けの航海でもなかった筈なのだ。
参加したメンバーにしても、もちろんリスクは覚悟した上で様々な試験や訓練を乗り越えて選ばれた者達だっただろうから心身共にタフだったんだろう。それでもなお、もう二度と故郷へは帰れない、自分達がここにいるということを知らせる手立てもないという事実の前には、正気を保ちきれない者も出てくるということなんだろうな。
……いや、銃で自殺した二人はともかく、他の二十二人は、むしろ『理性的だったから』こそ、自然に死ねる方法を選んだのかもしれない……?
だが同時に、俺は思った。もし彼らが、密達のような存在に出会っていたらどうだっただろうか? 言葉は通じなくても、人間らしいコミュニケーションは取れなくても、これほどまでに人間に近い彼女達が隣人として暮らしている惑星だと分かっていれば、もしかすると結果は違っていたのかもしれないとも思わなくはなかった。
ただそれも、俺の場合は元の世界に未練も何もなかったという前提の違いもあるかもしれないが。
それと、気になることは他にもある。彼らを襲ったという謎の生物だ。セシリアCQ202の説明によると、フィクションなどでは割とメジャーな、俗に<スライム>と呼ばれるものを連想させる、透明な不定形生物だということだった。
銃で撃っても死なず、ナイフで切っても死なず、淡々と生物を襲うそいつらの最初の襲撃で、三十一人が死亡したという。
その後、残った乗組員達はコーネリアス号に閉じこもって生活していたが、閉鎖された空間での長期間の生活は相当苦しかったらしく、ストレスが原因になったのか体調を崩してそのまま病気になり、その上で敢えて治療を拒み、何人もがそれで命を落としたそうだった。
さらには、息抜きと称して外に出て不定形生物に襲われた者が三人。最後に残った二人は、外には出なかったが、せめて外の空気を吸いたいと思ったのか外気取り入れ口を開けたままにしていてそこから侵入され、遂に全滅となったそうだ。
外気取り入れ口については、普通ならメイトギアが気付くところを、開閉を知らせるセンサーにわざわざ細工をして開いていることを分からないようにし、しかもそれをメイトギアに知られない為にか近付かないように命令していたらしい。そういう意味でも、正常な判断力を失っていたんだろうな。
それで言えば、俺が伏を相手にやったことも、明らかにまともじゃなかった。エレクシアにも言われた通り、身の程をわきまえない行為だった。今後はもう、危険なことはエレクシアに任せることを徹底する。
そして、密や刃や伏とイチャイチャしながら面白おかしく生きるのだ。そうしていてもいずれは俺も死ぬ。そんな生き方でいいじゃないかと、ローバーの中をぐるりと見渡して思ったのだった。
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