悪しき女帝のためのパヴァーヌ

京衛武百十

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牢獄の女怪

愚弄

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『あの騒いでる奴らをここに連れてこい』

ミカにそう言われて、看守は騒いでいた二人を連れてきた。

それはやはりノーティアと、そして、ミカに縋りついていたあの若い男だった。

声ですでに分かっていたので、ミカはただ平然と牢の扉の覗き窓越しに二人を睥睨する。

ノーティアは不満そうに視線を逸らし、若い男は、申し訳なさそうに萎縮していた。

するとミカは、男に向かって問い掛けた。

「これは、何の騒ぎだ?」

抑揚のない、淡々とした、しかし何とも言い難い<圧>を感じる問い掛けだった。

ここが監獄であることを、彼女が牢に繋がれた咎人であることを、まるで感じさせない、威厳に満ちたそれに、若い男はその場に平伏し、

「この女めに、務めを果たさせるべく、その……!」

と、そこまで言って声を詰まらせてしまう。

が、ミカは容赦なかった。

「何のために? 何ゆえ、女として体も出来上がっていない小娘にそれをさせようと考えた? 申してみよ…」

声の調子そのものは平板で感情もこもっていないようにも聞こえるにも拘らず、その場にいたものは全員、体が竦み上がるのを感じていた。

平伏した若い男はもちろん、反抗的な目でミカを睨んでいたノーティアも、他の看守達もだ。

それに圧されるようにして、若い男は、声を搾り出し応えた。

「あなた様のためにでございます……!」

「私のため…だと……?」

「はい…! この者が務めを果たせるようになればそれだけあなた様の労苦が減ります!」

若い男がそこまで言った瞬間、場の空気が一転した。はっきりと『空気の硬さが変わる』のが分かった。

そして、

「この、痴れ者がっっ!!」

すさまじい一喝が衝撃波のようにその場にいた全員の体を叩く。ノーティアにいたっては、

「ひ……っ!」

と詰まった悲鳴さえ上げた。

「貴様は、この私を愚弄するか!? この私がこんな小娘の助けを借りねばならぬほど脆弱だと申すのか!? 

見くびるでないわ!!」

ミカのそれは、まるで雷霆の如く、若い男の魂までを打ち据えた。

「申し訳ございません……っ!」

若い男はそう応えるしかできなかった。

『俺は、あなた様のために…! あなた様を少しでも助けたいと…!!』

と言い訳しようとしたが、それは口から出て行かなかった。そんなものを口にすればそれこそ逆鱗に触れる行為だというのが察せられてしまったからだ。



こうしてノーティアが今すぐ男達の相手をすることはなくなったものの、それはあくまで『今この時点では』という話でしかない。いずれは彼女も男達の相手をさせられることになるだろう。

なお、ルパードソン家の男達については、若い者は過酷かつ終わることのない改修工事に就かされ、年老いた者は監獄内で出る糞便を敷地内の処分場に捨てて埋め立てる役目に就かされている。

どちらもやはり、<人間としての尊厳>などまるで考えられていない仕事であった。

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