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困らせたり悲しませたりはしたくないです
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灌漑設備が十分じゃなかった頃には、水をめぐって殺し合いにまで発展した事例もあるって聞く。
ここはそういう部分は厳しく管理されてて無茶なことは滅多にないそうだけど、干ばつが酷い時なんかには、やっぱりその辺りで揉めて、殺人事件にまで至ったことだって、過去に何度もあったらしい。
でもそんなことで事件を起こすと、家族もろとも処刑されることだってあるそうだ。ここ百年ほどはそこまでのことはなかったとは聞くけどさ。
それに、家族もろとも処刑なんてことになるとそれが理由でまた恨みつらみが募って次の厄介事に繋がるみたいだね。やっぱり。
家族もろとも殺してしまえば恨む奴もいなくなるっていう発想らしいんだけど、人間の関係ってそんな単純なものじゃない。家族の外にも情が繋がってたりして、結局、それを理由にした復讐とかもあったらしいし。
そうなんだよなあ。
『敵は皆殺しにしてしまえば仕返ししてくる奴もいなくなる』
なんて、幻想なんだよ。もしそんなことをしようとすれば、皆殺しにする前に必死の反撃を受けることだってあり得るだろう。相手だってただ殺されるわけにもいかないだろうから。
仕返しされたくなかったらそもそも攻撃しちゃいけないよねって話だよな。根本的には。
だけどとにかく最初にそんな話にならないように、灌漑はしっかりしなくちゃね。
「よし、ここらへんでお昼にしよう」
畑を一望できる場所を見付けてそこに竹の繊維を編んで作った<ゴザ>を敷いて、ベントの作ってくれた弁当を広げる。今日はサンドイッチだ。
実は<サンドイッチ>と称されるものはなかったんだけど、私がベントに教えて、彼が工夫を凝らして美味しいサンドイッチを作るようになっていったんだよ。
「美味しい……!」
一口食べて、アルカセリスが複雑な表情を浮かべて言った。明らかにヤキモチ交じりだって分かる。
最初の頃のように、彼が作ったものには手も付けないなんてことはさすがになくなっても、やっぱり気持ちの上ではいろいろあるんだろうな。
「セリス。思うところはあるだろうけど、わきまえてくれてることを私は感謝してる。セリスも私にとっては大事な<仲間>なんだ。仲間同士で足を引っ張り合ってダメになった例を、私はたくさん知ってる。それと同じにならないようにしてくれてることが嬉しい。ありがとう」
人によってはこういう風に言うのを『ズルい』と感じる人もいるかもしれない。だけどまぎれもなく私の本音でもある。それをきちんとセリスに伝えて、私という人間を分かってもらう為に努力するんだ。
そんな私に、彼女も少し困ったように微笑みながら、
「私も、カリンさんのことが大好きです。カリンさんを困らせたり悲しませたりはしたくないです」
と言ってくれたのだった。
ここはそういう部分は厳しく管理されてて無茶なことは滅多にないそうだけど、干ばつが酷い時なんかには、やっぱりその辺りで揉めて、殺人事件にまで至ったことだって、過去に何度もあったらしい。
でもそんなことで事件を起こすと、家族もろとも処刑されることだってあるそうだ。ここ百年ほどはそこまでのことはなかったとは聞くけどさ。
それに、家族もろとも処刑なんてことになるとそれが理由でまた恨みつらみが募って次の厄介事に繋がるみたいだね。やっぱり。
家族もろとも殺してしまえば恨む奴もいなくなるっていう発想らしいんだけど、人間の関係ってそんな単純なものじゃない。家族の外にも情が繋がってたりして、結局、それを理由にした復讐とかもあったらしいし。
そうなんだよなあ。
『敵は皆殺しにしてしまえば仕返ししてくる奴もいなくなる』
なんて、幻想なんだよ。もしそんなことをしようとすれば、皆殺しにする前に必死の反撃を受けることだってあり得るだろう。相手だってただ殺されるわけにもいかないだろうから。
仕返しされたくなかったらそもそも攻撃しちゃいけないよねって話だよな。根本的には。
だけどとにかく最初にそんな話にならないように、灌漑はしっかりしなくちゃね。
「よし、ここらへんでお昼にしよう」
畑を一望できる場所を見付けてそこに竹の繊維を編んで作った<ゴザ>を敷いて、ベントの作ってくれた弁当を広げる。今日はサンドイッチだ。
実は<サンドイッチ>と称されるものはなかったんだけど、私がベントに教えて、彼が工夫を凝らして美味しいサンドイッチを作るようになっていったんだよ。
「美味しい……!」
一口食べて、アルカセリスが複雑な表情を浮かべて言った。明らかにヤキモチ交じりだって分かる。
最初の頃のように、彼が作ったものには手も付けないなんてことはさすがになくなっても、やっぱり気持ちの上ではいろいろあるんだろうな。
「セリス。思うところはあるだろうけど、わきまえてくれてることを私は感謝してる。セリスも私にとっては大事な<仲間>なんだ。仲間同士で足を引っ張り合ってダメになった例を、私はたくさん知ってる。それと同じにならないようにしてくれてることが嬉しい。ありがとう」
人によってはこういう風に言うのを『ズルい』と感じる人もいるかもしれない。だけどまぎれもなく私の本音でもある。それをきちんとセリスに伝えて、私という人間を分かってもらう為に努力するんだ。
そんな私に、彼女も少し困ったように微笑みながら、
「私も、カリンさんのことが大好きです。カリンさんを困らせたり悲しませたりはしたくないです」
と言ってくれたのだった。
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