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お絵描き
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日葵も、真猫と同じで、精神的に落ち着いてさえいれば気性の穏やかな朗らかな女の子だった。
決して巧いとは言い難いものの絵を描くのが好きで、以前から休憩時間などには真猫の近くに来ては絵を描いていた。
「真猫ちゃん、今日はお魚の絵、描くね」
そう言って日葵は自分のスケッチブックにプラスティック色鉛筆で大きく魚の絵を描き始める。ニコニコと楽しそうに絵を描く姿がほほえましい。
すると真猫も、自分のスケッチブックにプラスティック色鉛筆でぐりぐりと線を描き始めた。しかしそれはやはり到底<絵>と言えるものではなかったけれど、日葵にとっては『真猫ちゃんと一緒にお絵描きしてる』というのが大切だったのだろう。
ちなみに日葵は、学習面ではそれほど顕著な遅れはなかった。事情を知らない人間から見ても『あまり勉強は得意じゃないんだな』と思われる程度だと考えられる。
ただ、話してみるととても<天真爛漫>と言うか、物事を深く考えていないのが分かるので、勘のいい人間だと『あれ?』と察してしまうことはあるかもしれない。
しかし二人にとってはそんなことの方が些細な問題だった。
「真猫ちゃん、上手に色鉛筆使えるようになったね」
感心したことは素直に口に出る日葵がそう声を上げると、それが気持ち良かったのか、真猫はさらにぐりぐりとプラスティック色鉛筆を調子よく走らせた。
そんな様子も玲那はしっかりと見守っている。
こうやって、桃弥や自分以外の人間とも交流できるようになるというのは喜ばしいことだった。
そして日曜日の午後。笹蒲池家の<母屋>の方に訪ねてきた人物がいた。
インターホンが鳴らされ、母屋の方で待機していたハウスキーパーがそれに出る。
「どちら様でしょうか?」
その問い掛けに対して返ってきた返事は、
「真猫ちゃん、いますか?」
そしてインターホンのカメラに写っていたのは、にこやかな表情をした日葵だった。
自宅にまで遊びに来たのだ。
玄関を開けて改めて応対に出ると、日葵の脇には、いかにも人の良さそうな中年の女性が立っていた。
その女性が、ハウスキーパーの姿を見た途端、会釈して、
「すいません。うちの娘が真猫さんと遊びたいと言うので、もしご迷惑でなければ遊んでやっていただけませんか?」
と切り出した。
日葵の母親であった。
決して巧いとは言い難いものの絵を描くのが好きで、以前から休憩時間などには真猫の近くに来ては絵を描いていた。
「真猫ちゃん、今日はお魚の絵、描くね」
そう言って日葵は自分のスケッチブックにプラスティック色鉛筆で大きく魚の絵を描き始める。ニコニコと楽しそうに絵を描く姿がほほえましい。
すると真猫も、自分のスケッチブックにプラスティック色鉛筆でぐりぐりと線を描き始めた。しかしそれはやはり到底<絵>と言えるものではなかったけれど、日葵にとっては『真猫ちゃんと一緒にお絵描きしてる』というのが大切だったのだろう。
ちなみに日葵は、学習面ではそれほど顕著な遅れはなかった。事情を知らない人間から見ても『あまり勉強は得意じゃないんだな』と思われる程度だと考えられる。
ただ、話してみるととても<天真爛漫>と言うか、物事を深く考えていないのが分かるので、勘のいい人間だと『あれ?』と察してしまうことはあるかもしれない。
しかし二人にとってはそんなことの方が些細な問題だった。
「真猫ちゃん、上手に色鉛筆使えるようになったね」
感心したことは素直に口に出る日葵がそう声を上げると、それが気持ち良かったのか、真猫はさらにぐりぐりとプラスティック色鉛筆を調子よく走らせた。
そんな様子も玲那はしっかりと見守っている。
こうやって、桃弥や自分以外の人間とも交流できるようになるというのは喜ばしいことだった。
そして日曜日の午後。笹蒲池家の<母屋>の方に訪ねてきた人物がいた。
インターホンが鳴らされ、母屋の方で待機していたハウスキーパーがそれに出る。
「どちら様でしょうか?」
その問い掛けに対して返ってきた返事は、
「真猫ちゃん、いますか?」
そしてインターホンのカメラに写っていたのは、にこやかな表情をした日葵だった。
自宅にまで遊びに来たのだ。
玄関を開けて改めて応対に出ると、日葵の脇には、いかにも人の良さそうな中年の女性が立っていた。
その女性が、ハウスキーパーの姿を見た途端、会釈して、
「すいません。うちの娘が真猫さんと遊びたいと言うので、もしご迷惑でなければ遊んでやっていただけませんか?」
と切り出した。
日葵の母親であった。
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