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賛辞
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「この度は急にお邪魔してしまってすいません」
日葵の母親が丁寧に頭を下げると、桃弥は苦笑してしまった。こうやって気遣われるのが苦手だからである。しかしそれをなるべく露骨に出さないように気遣うくらいのことはできた。
「いえいえこちらこそ。娘さんにはいつも真猫がお世話になってます」
桃弥にとっては必死と言っていい社交辞令を駆使しての応対をする。
しかし、幸いにも日葵の母親は簡単な挨拶を交わしただけで、
「それでは、夕方五時頃に迎えにきます」
と言い残し、帰っていった。
それにホッとしながら、
「真猫ちゃん、お絵描きしよ!」
と自分のバッグからスケッチブックとプラスティック色鉛筆を出してくる日葵と真猫を見守った。
『これからもこの子が遊びに来るときは、こっちの家で遊んでもらおうか』
元より、工房の担当者との打ち合わせなどでも使っていた母屋なので、そういう使い方もアリかと考える。
そこで桃弥も、母屋の方に置いてあったスケッチブックを出してきて、次の人形のイメージを掴む為のデッサンをその場で始めた。
すると、
「わあ! おじさん、上手!」
桃弥も自分達と同じようにスケッチブックに絵を描き出したことに気付いた日葵が桃弥のそれをのぞきこみ、声を上げた。
本心から感心した時の声だった。
その裏表のない賛辞に照れながらも、決して悪い気はしなかった。
「おじさんおじさん、私の絵も見て見て!」
弾むように声を上げながら、日葵がスケッチブックを掲げてくる。そこに描かれたものは、決して巧いとは言えないものだったが、小賢しい技巧に走った<利口>な絵では見られない、のびのびとした勢いのある、『楽しい』絵だった。そこに描かれた人や動物はみな笑顔で、彼女が今、とても幸せなのだというのがそれを見ているだけで伝わってくる。
事実、彼女は、両親でさえ彼女の<特徴>を掴めていなかった時には色々と辛いこともあったものの、それを理解してもらえた今では笑顔を絶やさずにいられていた。だからこそ、真猫のことも受け入れられるのだろう。
それでよかった。それで十分だった。
『真猫とこうして絵を描くのがこの子にとっての幸せなら、僕はその邪魔をする必要もないな』
こうして、休日ごとに笹蒲池家の母屋に、日葵が遊びに来るようになったのだった。
日葵の母親が丁寧に頭を下げると、桃弥は苦笑してしまった。こうやって気遣われるのが苦手だからである。しかしそれをなるべく露骨に出さないように気遣うくらいのことはできた。
「いえいえこちらこそ。娘さんにはいつも真猫がお世話になってます」
桃弥にとっては必死と言っていい社交辞令を駆使しての応対をする。
しかし、幸いにも日葵の母親は簡単な挨拶を交わしただけで、
「それでは、夕方五時頃に迎えにきます」
と言い残し、帰っていった。
それにホッとしながら、
「真猫ちゃん、お絵描きしよ!」
と自分のバッグからスケッチブックとプラスティック色鉛筆を出してくる日葵と真猫を見守った。
『これからもこの子が遊びに来るときは、こっちの家で遊んでもらおうか』
元より、工房の担当者との打ち合わせなどでも使っていた母屋なので、そういう使い方もアリかと考える。
そこで桃弥も、母屋の方に置いてあったスケッチブックを出してきて、次の人形のイメージを掴む為のデッサンをその場で始めた。
すると、
「わあ! おじさん、上手!」
桃弥も自分達と同じようにスケッチブックに絵を描き出したことに気付いた日葵が桃弥のそれをのぞきこみ、声を上げた。
本心から感心した時の声だった。
その裏表のない賛辞に照れながらも、決して悪い気はしなかった。
「おじさんおじさん、私の絵も見て見て!」
弾むように声を上げながら、日葵がスケッチブックを掲げてくる。そこに描かれたものは、決して巧いとは言えないものだったが、小賢しい技巧に走った<利口>な絵では見られない、のびのびとした勢いのある、『楽しい』絵だった。そこに描かれた人や動物はみな笑顔で、彼女が今、とても幸せなのだというのがそれを見ているだけで伝わってくる。
事実、彼女は、両親でさえ彼女の<特徴>を掴めていなかった時には色々と辛いこともあったものの、それを理解してもらえた今では笑顔を絶やさずにいられていた。だからこそ、真猫のことも受け入れられるのだろう。
それでよかった。それで十分だった。
『真猫とこうして絵を描くのがこの子にとっての幸せなら、僕はその邪魔をする必要もないな』
こうして、休日ごとに笹蒲池家の母屋に、日葵が遊びに来るようになったのだった。
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