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リーネの章

同じ失敗はしないようにと

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つくづく、前世の記憶があったからといって<無双>できるかって言うと、実はそうでもないのが分かる。あれは、<フィクションの嘘>だし、話を盛り上げる、もしくは話を作るための演出に過ぎないんだと実感する。

それが悪いと言ってるんじゃねえ。俺も前世の若い頃には好きで読んでたから、フィクションってのはそれでいいと思うんだ。現実じゃないからいいんだよ。それがフィクションの醍醐味だ。ただそれが現実で通用するとは思っちゃいけない、現実とフィクションは別物だってのをわきまえてりゃそれでいい。

で、俺の場合も、前世での知識で無双なんてできてない。よくある、

『現代日本の料理を再現して感動される』

ってのも、そもそも俺自身がまともに料理なんかできねえし、やらねえし、料理の仕方なんて知らなかった。たとえできたところで日本の料理を再現できるような食材も調味料もねえ。味噌や醤油を作れる知識が俺にはねえんだ。比較的ハードルの低そうなマヨネーズさえ作り方を知らねえし。

それ以外の現代知識も、再現するための素材も、道具も、場所も、何もねえんだ。

飛び抜けた知識でもあって、代用できる素材とかを知ってたりするならいくらか何とかなるとしても、俺は、教わった以外のことは何も知らねえんだよ。金属加工については多少の知識もあるものの、それのおかげで鍛冶の仕事もすぐに理解できたものの、肝心の<鍛冶の腕>がまだまだザコだから、いくら知識があってもそれを活かせてねえしな。こっちのクソ親父にさえ、足元にも及ばない。

悔しいが、それが現実だ。こればっかりは、経験を積むことで腕を磨くしかねえってこった。楽して結果は出せねえ。

つまり、<現代知識無双>が通用するにも、それが実現できる下地が必要で、ここにはそれがないってことだ。

だから俺が前世の経験で活かせるのは、<人間関係>くらいかな。俺が前世でなぜ失敗したのかが、今なら分かるって感じだな。

見た目だけで女を選ぶと失敗するし、自分が<イヤなクソ野郎>だったら、たとえ<いい女>をつかまえられたって愛想尽かされて捨てられるってのが分かっただけだ。

同じ失敗はしないようにと、思う。

別にリーネに好かれたいとも思わないが、だからって嫌な思いをさせたいとも思わない。そんな風に考えられるようになっただけでも、まあ、前世の記憶が戻ったことは俺の役に立ってるんだろう。

じゃなきゃきっと、今世でも俺は、女房や子供から嫌われたままで一生を送ることになってた気がする。周りの奴らに流されてなあなあで結婚しなかっただけでもファインプレーだと思うぜ。

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