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リーネの章

自分の浅ましさが恥ずかしい

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『焦らなくていいんだ。急がなくていい。期限が決められてるわけじゃないんだからな』

そうだ。別に急ぐ必要もないことでいちいち苛々する必要はない。のんびり構えて確実に進めていけばいいんだ。ここで苛々してリーネを萎縮させてそれで何が得られる? 彼女からの信頼を失うだけだ。それじゃ意味がない。

もちろん、なるべく早く風呂を完成させたいという思いは確かにある。あるが、そんなのは俺の個人的な望みでしかない。社会的な責任があるわけでもない。だとしたらなんでキレなきゃいけない?

そういうことだ。

こうして俺はひたすら穴を掘り、リーネはひたすら石を打つ。

昼に休憩して果実を食べ、それからまた作業に戻る。

「リーネ、大丈夫か? 辛かったら言えよ」

俺はそう声を掛けるが、

「いえ、大丈夫です…!」

彼女は笑顔で応えてくれた。その笑顔についてもよく見る。無理をしてないか、やせ我慢をしてないか。

さすがに始めてからまだそんなに時間も経ってないこともあってか、確かに平気そうだ。今のところは。でも、油断しないようにしなきゃな。

こうして、日が暮れる頃には、俺がしっかりと納まれる程度の穴になった。

が、完成にはまだ数日掛かりそうだ。

「今日はこのくらいにしておこう」

「はい」

見れば、リーネが加工してくれていた石も、結構な数になっていた。とは言え、完全に敷き詰めてとするにはまだまだだな。

なんだかんだと汗もかいたし、今日は体を拭いてから夕食にする。ただ、獲物が掛からなかったことで、肉は残念ながらなしだ。外で作業してたこともあって動物が警戒して近付いてくれなかったのかもしれない。

まあ、そんな日もあるさ。

だからこそ、スーパーにいけばいつでも肉を買えて、面倒なら宅配で取り寄せることもできた前世の社会の便利さを痛感する。そして、その<便利な社会>を作り上げているのは、様々な役割を持って働いている者達のお陰だということも改めて思い知らされたよ。

単純労働だろうがなんだろうが、そういう仕事に就いている人間がいるからこそなんだな。そういう人間達を馬鹿にしていた自分の浅ましさが恥ずかしい。

リーネにやってもらってることも、確かに、小学生でもできるような作業だろう。でも、俺一人で全部やることを思えば、彼女の仕事はとても大きなものだ。俺だけじゃとてもそこまでやってられない。その事実が刺さる。

彼女がいるからこそなんだ。その役目を負ってくれる人間がいればこそなんだ。

便利なのが当たり前の社会にいると、そんなことも忘れてしまうんだな。

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