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暮らしの章

これで今日は肉が食えるぞ!

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その後も、鎌やナイフが売れて、最終的に銅貨五百枚と袋一杯の釘、カゴ一杯の野菜、さらには猪肉の塊が手に入った。

ははは! これで今日は肉が食えるぞ! 釘も使った分がまた手に入った。上等上等。

意気揚々と家に帰ると、香ばしい匂いが。

「おかえりなさい♡」

「おかえり……」

リーネが笑顔で、トーイが俯き加減ながらも、ともに俺を出迎えてくれた。しかも、リーネの手には何とも言えないあたたかさを感じさせる焼きたてのパンが。

その光景に、急にこみ上げるものが。女房もゆかりもこんな表情で俺を出迎えてくれたことなんて一度もなかったという前世の記憶と比べてしまって。

だけど、そんな家庭を作ったのは俺自身だ。女房やゆかりにとってこういう風に出迎えたいと思わせる人間でいなかったのは俺自身なんだ。『誰かの所為』じゃない。俺の所為じゃねえか……

とは言え、それはあくまで<前世>の話。今世では同じ轍を踏まないように努力するだけだ。

「ただいま。今日は猪肉をもらってきたぞ!」

「まあ! 素敵です♡」

「わあ……!」

さすがにトーイも顔を上げた。現金なものだな。でも、それでいい。

貰ってきた野菜や肉を運び込み一息ついたら、リーネが作ってくれたパンをいただく。

正直、製粉技術がまだまだ低いから小麦粉自体が真っ白じゃないし、パン自体の製法も十分に発達していないからか、前世で当たり前に売られてたようなふわふわもっちもちのパンじゃなく、中まで茶色でボソボソとしたパンだった。でも、

「うん、美味い!」

『パンが食べられる』というだけで美味く感じられる。何しろ俺はパンの作り方を知らないし。

覚える気がなかったんだ。鍛冶技術を覚えるのに精一杯で。まずは<食える技術>を身に付けなきゃと思ってたし。

両親に殺される前に家を出なきゃというのもあったしな。

この世界じゃ、親の下にいる間にちゃんと生きる術を学ぶ。と言うか学ばされる。そしてとっとと親の下を離れなきゃ、親に殺されるか親を殺すかって感じだからな。ニートになんてなってる暇もない。

『ニートを出さないとか、いい社会じゃないか!』

ってか? 冗談じゃない。

<とっとと出ていかないと親に殺されるか親を殺すしかない社会>

とか、何が羨ましいよ。そのクセ、歳をとった親の面倒まで見させられるんだぜ?

<殺してやりたいくらい憎い親>

のな。そんな世界のどこが羨ましいって? それが嫌だから社会を変えていったんだろうが。不具合はあっても、それをさらに改めていくのが<大人の役目>ってもんだと思うがな。

自分じゃ何もしねえクセに文句だけいっちょ前な奴なんざ、ここじゃ<大人>とは言わねえよ。

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