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暮らしの章

秋が近付き始めて

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そんなこんなで何とか無事に夏も終えられそうだ。

夏の間は、風呂はほとんど沸かさなくても入れた。放っておくだけでぬるい水になって、ちょうどよかったんだ。それこそ、でかい鍋で一回湯を沸かして注ぐだけでも、ほんのりあたたかくなった。

が、秋が近付き始めて、朝晩が明らかに涼しくなってくると、さすがに沸かさないと肌寒くなってきたな。

そしてもう一つ気付いたことが。

『あれ? トーイ、大きくなってきてね……?』

そうだ。一緒に風呂に入ってると、リーネに抱かれたトーイの頭の位置が上がって、リーネの顔が隠れるようになってきたんだ。

「そうか……! トーイも大きくなってるんだ……!」

当たり前のことに改めて気付いて、俺は思わず声を上げてしまった。

「本当ですね。この調子だとすぐに私の方が小さくなってしまうかも」

リーネもそう言うと、

「……」

トーイは少し嬉しそうに微笑んだ。相変わらず口数は少ないものの、態度は明らかに柔らかくなってきている。俺に対する警戒心もほとんど感じられなくなってた。分かりやすく親し気にしてくれるわけじゃないが、以前のようなよそよそしさが和らいできてるんだ。

風呂上がりに俺に体を拭かれても、別に緊張はしてない。されるがままになってるだけだ。

でも、それだけでなんか胸の中に込み上げてくるものがある。俺はちゃんと、トーイにとっても気を張っていなくていい相手になれてきてるんだ。

とは言え、リーネに対する信頼感に比べるとまだまだって気はするけどな。

けれど、それでいい。こういうのは勝ち負けじゃない。リーネの方が優しいんだから気を許して当然だ。それに親ってのは、子供に信頼されてればそれでいい。慣れ合う必要はないんだよ。

<ちょっと怖いけど、世界で一番、信頼できる相手>

親ってのはそれでいいと思うんだ。ただ、その<信頼できる相手>になるってのが難しい。仕事でもそうだろう? 顧客からの信頼を得るためには地道な努力が必要なんだ。子供だって人間なんだから、いい加減なことをしてる相手を信頼なんてしちゃくれない。しかも、信頼を得るには時間が掛かるが、失うのは一瞬だ。

そういう実例はそれこそ掃いて捨てるほどあったはずだ。俺はそれをちゃんと活かしたい。大人として。

子供に媚びてへつらうってのじゃないんだよ。毎日毎日、<信頼に足る大人の姿>を見せるだけだ。

理不尽な振る舞いをしない。

言行不一致な行いをしない。

自分の責任から逃げない。

結局はそういうことなんだよな。

自分が、

『こんな大人は信用できない』

って思う大人にならないことなんだよ。

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