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日常の章

神様の寝言

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とまあ、そっち系の話については、正直、俺は上手く対応できる自信がない。だからこそ、『自分を大事にする』というのを念頭に置いてもらえればと思う。特にリーネは女の子だから、ロクでもねえ男に引っかかるとそれこそ酷い目に遭うだろうし。

俺が守ってやれる間はなんとかなるとしても、何があるか分からないしな。

翌日、夕食を終えて風呂に入ってるところで、

「リーネもいずれは結婚することになるかもしれねえけど、『これだ!』って思える男に出逢えるまでは無理に結婚を考えなくてもいいからな。リーネを大事にしてくれる男を選んだらいい。それ以外の理由で結婚する必要はない。そのために俺は、こうやって村から離れたこの家に住み続けてるというのもある。俺みたいな偏屈者の娘なら『変わってて当然』と村の連中も思ってくれるだろ。そうすりゃヤイヤイ言われることも減ると思う。もしなんかゴチャゴチャ言われたら、俺の所為にしときゃいい。『お父さんがそう言ってたから』ってことにしときゃいいんだよ」

と言い聞かせた。するとリーネは、

「そんな。トニーさんの所為にだなんて……」

と言ってくれたが、

「いいんだいいんだ。そういうのは<神様の寝言>って言ってな。本当のことじゃないが許される嘘ってことだ」

と重ねて言い聞かせておく。ちなみに<神様の寝言>ってのは、まあ前世じゃ<嘘も方便>とか言われてた類のあれだよ。こっちでも似たような考え方があるってことだな。

娘をロクでもない男から守るためなら、悪役になっても構わない。むしろその覚悟もなく親をやってる方がどうかしてると思う。

それに、悪役を演じるって言っても事実じゃないなら、俺自身が望んでやってる以上は痛くも痒くもないさ。

風呂から上がって服を着て、ベッドに三人で寄り添い合ってまた絵本を読む。同じ本ばっかり読んでるから近々飽きるだろうが、それで構わない。

こうして寄り添い合ってられるってのがいいんだからな。

『子供は厳しく躾けて飼い慣らすもんだ』

とか言ってる奴もいるらしいが、だからそういう奴こそが、

<現実を見てねえ甘ったれ>

だってんだよ。その手の妄言を口にする奴は、同時に、

『結婚して子供を作るのが生き物として当然』

とか思ってるんだろうが、

『歳取った親の面倒を見る生き物』

なんて不自然極まりないわ。要するに、

<自分にとって都合のいい妄想こそを現実だと思ってる奴>

でしかないだろ。これもまさしく前世の俺だな。いやはや、まったく。

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