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家族の章

後から来た奴がタダ乗りしようなんてのは

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エリクに七割も渡すのは足元見られてるように感じるかもだが、販売ルートそのものがエリクに依存してるからな。俺も前世で新規開拓を散々やってきたから分かるんだが、その手間は半端じゃないんだよ。それを後から来た奴がタダ乗りしようなんてのは、普通に眉を顰められる行為だぞ?

ルート開拓にもコストはかかってるんだ。それを回収しなきゃならない。だからエリクが七割なんだよ。それが嫌ならエリクを正面から叩き潰すつもりで挑まなきゃいけないが、俺はそのつもりはない。あくまで利用させてもらうだけだ。利用させてもらうんだから、その分の代金は払う。

当たり前のことじゃねえか。

道理ってもんをわきまえろ。なんでもタダで使えると思うな。自分が苦労して開拓したものを後から来た奴が好き勝手してたらいい気はしないだろ?

それに、リーネやトーイが写本したものの品質が高けりゃ向こうから声もかかる。しかし今はまだそれはない。つまりそういうことなんだよ。売れるだけ御の字だ。

加えて、あくまで<勉強>が主眼なんだよ。そのついでに儲けられりゃいいってだけなんだ。勉強するために必要な金をいくらかでも調達できりゃいいってだけの話だな。

ただこれも、

『いや、これ、マジで巧くないか? 五歳や六歳の子供の絵じゃねえぞ……』

イワンが同じように写本したものを見た時、俺は正直、そう思った。リーネとトーイのそれは、やっぱり、

<子供の描いた絵と字>

って印象なんだが、イワンのそれは、絵のセンスそのものが明らかに違う。しかも字も巧い。

ひょっとして俺、とんでもない才能を発掘しちまった……?

それがどうかはまだ分からないにしても、畑仕事ができなくたって、そいつに価値がないとは限らないってことだよな。

前世じゃ『絵が巧い』だけじゃ<飛び抜けた才能>とは言えなかったかもしれないが、まだまだこういうのがありふれてるわけじゃない今世じゃ、かなりのアドバンテージだろ。ちゃんと活かせれば。

イワンが、エリクと友人だった俺の下に来たのはただの偶然でも、それを活かすか否かは偶然じゃない。

「お…! こりゃ……装丁をしっかりしたら、銀貨二百……いや、ひょっとしたら三百でもいけるかもしれないぞ。正直、俺にも一口かませてくれ……!」

イワンの写本をエリクに見せたら、興奮した様子でそう言ってきた。エリクのつてで装丁屋に持ち込んでちゃんとした絵本にする話がこれで決まった。

ただし、イワンの実の親には報せないでおく。変に欲張られちゃ叶わないからな。

エリクも、

「ああ、こういうのは素人に口を挟ませちゃダメだ。余計なことをして滅茶苦茶になる。俺もそういうのを何度も見てきた」

承知してるそうだ。

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