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家族の章

こまけえこたあいいんだよ!

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『何かイベントがなきゃ退屈で死にそう』

まあ、そう感じる奴は別にそれでいいけどよ。ただ、俺はそういうのには関わりたくねえな。毎日毎日、リーネの、トーイの、イワンの、カーシャの顔を見て、言葉を交わして、一緒に食事をして、世話をしてるだけで楽しいんだ。余計なイベントなんて入れてる暇もないくらいによ。

だって、毎日同じようなことをしてても、絶対に<何もかも同じ>ってわけじゃねえんだぜ? リーネが俺に笑顔を見せてくれるタイミングだって毎日違うし、トーイは毎日いろんなことが上達してくるし、イワンも少しずつ少しずつ今の環境に馴染んでいってるのが伝わってくるし、カーシャも、寝返りができるようになったと思ったらずり這いを始めてそれからハイハイができるようになっていってる。リーネが作るスープの、味付けをする前の煮汁とほぐした野菜を離乳食として口にするようにもなってきた。

同じ様なことの繰り返しでも、よく見りゃいろんなことが違ってる。当たり前じゃねえか。人間はロボットじゃねえんだ。完全に同じことの繰り返しなんてできるようになっちゃいねえんだよ。

俺だってそうだ。毎日毎日同じものを作っても、毎日毎日出来が微妙に違う。使った地金の質。焼いた時の火加減。焼き入れの時の水の温度。水の汚れ具合。なにより、その時の俺自身の体調や気分に影響されたわずかな力加減の差。そういう諸々が重なり合って微妙に違うんだ。

しかしその上で、

<売り物になる最低限の品質>

ってものが俺の中にもあって、たまにそれに届かないのが出ると、自分でも情けなくなる。だが、だからこそ『次こそは!』って思うんだ。凹んでる暇はねえ。生きていくにはな。

正直、前世も毎日毎日仕事をこなしてたが、実は今ほどの充実感を覚えた記憶がないんだ。ただ毎日、必要なことをこなそうとしてただけで、じゃあその先に何があるのか?ってのが見えてなかった気がする。

『何のためにそれをしてるのか? が分からない』

と言い換えてもいい。今はとにかくこの幸せな暮らしを続けられるようにと思って仕事をしてるしそれが楽しいしやり甲斐を感じる。でも、前世じゃそれがなかったんだよな……

金は欲しかったが、金で女を操れるのは楽しかったしそれが目的だったような気もするが、でもなあ、女の方からしたら<いいカモ>だったんだろうしなあ……

そう考えると虚しくてよ。

だけど、リーネやトーイやイワンやカーシャを見てるとよ、

『こまけえこたあいいんだよ!』

って気分になってくるんだ。こうして家族で力を合わせて生きてるんだってのが実感できるからかもな。

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