魔法使いは廃墟で眠る

しろごはん

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第五章

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「エレオノーラ、あれを!」
「ああ!」
程なくしてイレギュラーな事態が起こった。
1時間程歩いた時、路地裏で倒れる若い女性を飛鳥が発見。エレオノーラが駆けつけ容態を確かめる。僅かに切り傷が首元に薄く見えるが致命傷ではない。他に目立った外傷は無いが女性は真っ青で呼吸が荒い。
「魔力が殆ど抜かれてやがる。ロイバーの仕業だな」
応急処置としてエレオノーラが拒否反応を起こさないように魔力を送る。蒼白だった顔に精気が戻り乱れていた呼吸も戻る。傷口も塞がる。容態が安定し一安心。念のため救急車を呼ぼうと椿が携帯電話を取り出そうとしたその時だ。
「危ない!!」
「なっーー」
エレオノーラに向かい、一閃。振り抜いた長剣が彼女の頬すれすれを疾る。
本来なら何もない暗闇。虚しく闇に飲まれ宙を裂くだけの一振りだがガキンっと金属同士がぶつかる音が路地裏に反響する。
闇夜のせいだけではないだろう。視認は出来なかったがエレオノーラを狙っていた誰かがいた。恐らく件の魔術師、ヴォルフダート・ロイバー。僅かに漏れ出た殺気で気づく事が出来た。
「椿君、下がって」
椿以外も姿の見えない敵の存在に気付く。キキョウの眼前に式が展開され、飛鳥も武器を構える。
同時、ガラス玉の様な物がいくつか飛んでくる。直線ではなく狭い路地の壁を利用し反射を利用。不規則に飛来するそれを見切るのは難しい。
「煩わしいわね」
キキョウが魔術障壁を展開しそれを全てを防ぐ。ガラス玉が勢いを無くし地面に落ちる。
がーー敵の攻撃はそれだけではない。
落ちたガラス玉が突如割れ、中からニメートルはあろうかという巨大な狼が出現する。ざっと目算で6頭といった所か。先程投げていたのか、事前に仕掛けていたのか背後からも現れ路地で挟まれた形となる。
「飛鳥!お前は奴を追え!」
「はい!」
エレオノーラが女性を庇うように武器を構え指示を出す。飛鳥も従い、狼の群れを跳び越えるように跳躍。1人群れから抜けだし路地の更に奥に向かい駆ける。自分達も早くこの状況から脱し応援に駆けつけなければならない。
「飛べ!!」
エレオノーラが叫ぶ。理解した。彼女の次の行動を。
斧を腰に構え力を溜めている姿が映る。居合抜きの動作。
それを刀と行うのと斧で行うのでは訳が違う。ましてや彼女が携えるのは自分の身の丈を遥かに超える得物だ。技術の問題では無く筋力の問題として可能なのか。
「オラァー!!」
気合いの入った叫び。椿の疑問を吹き飛ばすように嵐が起こる。反射的に跳躍する。キキョウも魔術で身体を浮かせ回避。倒れていた女性もキキョウが魔術で浮かせ安全地帯まで避難させる。
轟音。そして破砕音。その破壊力は正に暴風と呼ぶに相応しい。狭い通路で斧の様な長物、さらには横幅も取るような武器は本来であれば邪魔にしかならない筈だ。だが結果はどうだ。自分の読みは大きく外れた。
エレオノーラは戦斧を横薙ぎに振り払い、周りのコンクリートの壁を粉砕しながら狼をぶっ飛ばした。哀れ彼の森の狩人達は恐らく自身に何が起こったのか理解することなく死に至る。巻き込まれれば自分とキキョウも撲死、或いは真っ二つになり死んでいた事は間違いない。可憐な少女でありながら豪快。単純でありながら最短の方法にて危機的状況を解決する。これが熾天王鍵騎士団第五位、エレオノーラ・ドゥーゼ。紛うことなき数多の戦場を乗り越えた強者である証明。
だが、彼女の膂力を持ってしても盤面を全て解決した訳ではない。椿達の背後にいた数匹の狼は彼女の戦斧から逃れていた。強靭な牙と爪で椿達に遅いかかる。
「ここは俺が引き受ける。お前達は飛鳥のフォローに行け!」
「わかった!」
狼の爪牙をエレオノーラが器用に斧を操り受け止め押し返す。大通りまで押し返し彼女自身も道路へ。
開けた空間に出たことで制限を解除された彼女が獣に後れを取ることはないだろう。指示通り飛鳥と合流する為キキョウと走る。
暫く暗闇を駆けやがて路地裏同士が重なる開けた空間に辿り着く。

そこで繰り広げられる光景は、

凶刃に倒れる飛鳥の姿だった。
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