魔法使いは廃墟で眠る

しろごはん

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第四章

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真夜中の街は椿の思っていた以上に閑散としている。本来星明かりを塗り潰す程の眩い街灯も、野良猫や虫の鳴き声を掻き消す人々の喧騒も全くない。まだ新年を祝う時期ではあるが連日の物騒な事件の為夜中に出歩く人が激減しているのだろう。事件自体は無差別に行われ人が集まる飲食店やホテルで被害が出る時もあれば人通りが少ない公園で起こることもある。魔力を集めるのが狙いなら病院なども狙いそうなものだが意外にも病院での被害はない。体力的に弱っている人が多いのが良くないのか真偽は不明だがこれ以上被害は出せない。そう思い今回は大きな餌を用意してみた。
「椿君、私寒いわ。帰りたい」
「もうちょっと頑張ろうね」
昼のやる気はどこに行ったのか。外出して約30分でキキョウは既に根を上げていた。ダッフルコートに身を包み手袋耳あても完備。防寒装備は完璧なのだがそれでも真夜中は寒い。
「そんな厚着してて戦う時邪魔にならねぇのか?体温調節の魔術使えばいいじゃねぇか」
「体温調節はあまり好きではないの」
反対にエレオノーラと飛鳥は鎧の装飾が施された騎士団の礼装を。真冬という時期を考えれば寒そうなものだが魔術で調節しているのだろう。便利な魔術だと思うが魔眼を解放していない椿には魔術を行使出来るほどの魔力は無いしそもそも式を理解することが出来そうにないので無縁な話だ。キキョウは例の廃墟で暮らしていた時はよく使っていたと言っていたが一緒に暮らしてからは使うところを未だ見たことがない。不思議な拘りではあるが本人にその気が無いのなら無理に使えと言う気もない。
「ワガママ言ってないで歩きますよ」
「しょうがないわね」
飛鳥に叱られまた歩き出す。飛鳥もキキョウが本気で言っている訳では無いとわかっているだろう。家でもよく見る光景だ。
とはいえこの四人で夜中とはいえ街を歩くのは非常に目立つ。四人とも未成年。警察に見つかれば職務質問は免れ無いし補導されるだろう。それだけであればいいが飛鳥は細剣を、自分は飛鳥から借りた長剣を、そしてエレオノーラに至っては彼女の倍の大きさはあろうかとい巨大な斧を背負っている。聞けばこの斧こそが彼女の王鍵であると言うがとにかく目立つ。認識を妨げる魔術を使い4人とも一般人に認識されないようになっていると説明を受けたが本当に大丈夫なのだろうか。事実、今の所は稀に擦れ違う人に悲鳴を挙げられたり視認されたりということは無いが。
「しかし何も起こらねぇな」
「今夜中に何か起こると思うよ」
「根拠は?」
「無いけど......」
「あてにならねぇ...」
捜査は始まったばかり。まだ相手側からの行動は何も無いが何かしら仕掛けてくる可能性は高いと椿は確信していた。
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