【受賞&本編完結】たとえあなたに選ばれなくても【改訂中】

神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売

文字の大きさ
142 / 156

番外編 その後の二人<アリシアの戦い>

しおりを挟む
「今日で帰国されるということだが、我が国での交流がアイラ王女にとって良き経験となったことを願っている」

 謁見の間での帰国挨拶の後、応接室にやってきたアイラに対してニキアスが声をかける。
 アイラの後ろに控えている使者たちはこの場が何事もなく終わることを願っているのだろうか、いささか不安げな顔をしていた。

「いろいろと心を砕いていただきありがとうございました。過ぎてしまえばあっという間でしたわ」

 そう言うとアイラは促されるまま椅子に腰かける。
 応接机を挟んで向かいにはニキアスとディミトラが座っていた。
 そしてその背後にルーカスが立っている。
 本来であればアリシアもルーカスと共に背後に控えているべきだが、妊娠中ということもありニキアスたちの斜め後ろに置かれた一人がけの椅子を使用していた。

「さて。以前渡された婚姻申込書の件だが……アイラ王女は受け取れないということだったので直接トウ国の国王陛下宛に返信させていただいた」

 ニキアスはそこまで言うといったん言葉を切った。

「謁見の間とは別で個別に挨拶がしたいとのことだったが、もしこの件についての確認だといけないので先に伝えさせてもらおう」

 そして鷹揚に足を組むとアイラの反応を見る。

「それは……わかりましたわ」

 アイラとしては自身が話題に出す前にニキアスから答えられてしまったからだろうか、一瞬口ごもりはしたがすぐに了解の意を伝えてきた。
 そしてそこで話が終わればロゴス国側としては一番良い終わりになるはずだった。

「今の段階でルーカス公と添い遂げるのが難しいということは理解しています」

 思い詰めたかのように言うアイラは顔を上げるとルーカスの方をじっと見つめる。

「しかし私の気持ちは距離が離れてしまっても何ら変わりませんわ。今は難しくてもいずれ、それこそディカイオ家に次の子が生まれなければ、私の存在は必要となりましょう」

 アイラがルーカスだけを見つめる姿をアリシアは見ていた。

(今こそ私は自分の意見を言うべき時なのだわ)

 そう心に決めて、アリシアは口を開く。

「アイラ王女殿下。我がディカイオ公爵家はいかなる状況になろうともあなたを受け入れることはございません。たとえ今後次の子が生まれなくとも、そのことに変わりはありませんわ」

 今まで、アリシアがはっきりとアイラに対して意見したことは少ない。
 ましてや『ディカイオ公爵家』の意思として物申したのは初めてだ。

 だからだろうか。

 アイラは自分が何を言われたのかがわからなかったかのように驚きの表情を浮かべた。

 「我がディカイオ公爵家ですって? それを言えるのはルーカス公だけでしょう? アリシア様はあくまで他家から嫁いできたにすぎないのですから」
 
 アリシアの言ったことを理解するなりワナワナと震え出したアイラは、きつい眼差しでアリシアを見やると語気を強めて言った。

「いいえ。ことこの件に関してはルーカスよりも私の意向こそが尊重されるのです」

 あえて『夫』と呼ばずに『ルーカス』と呼ぶ。
 この世においてルーカスの名前を呼び捨てにできるのは今ではもうアリシアだけだ。

 アリシアは初めて、自分の明確な意思でアイラに対してルーカスへの優位性を示した。

「ご存じないようですが、公爵家に課せらせた子どもの人数に対する義務に関して、公爵夫人にのみ与えられた権利があるのです」

 (自分の大切な人を奪おうとする者を許してはいけないのだわ)

 だから。

「その義務のために他の方を迎え入れる場合、必ず公爵夫人の許可を得なければならない。そう決められています」

 そこまで言うとアリシアは真っ直ぐにアイラの瞳を見た。

「私はディカイオ公爵家の夫人として、アイラ王女殿下を公爵家へ迎え入れることは認めません。よってアイラ王女が何をどう仰ろうともご希望にそうことはあり得ませんわ」

 アリシアの言葉は公爵家の意志だ。
 それが覆ることはない。

「アイラ王女。これ以上強要されるというのであれば、私は正式にトウ国国王陛下に対して抗議させていただく」

 少し冷たくなったアリシアの手を握りルーカスが言う。

 たとえ王女としての権力があろうともこればかりは自分の思うようにならないのだと、ここにきて初めてアイラは理解した。

「そんな……」

 掠れた声で呟いて、しかしアイラはそれ以上の言葉を持たない。

 結局アイラはトウ国の使者たちに支えられてニキアスの応接間を辞した。

 そして、アリシアを長きに渡って困らせたアイラはこの日を最後に再びロゴス国に足を踏み入れることはなかったのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


前回投稿してからだいぶ時間が空いてしまいましたが、今回の投稿にていったん番外編は完結とさせていただきます。
(また書くこともあるかもしれませんが)
本編、番外編を通してここまで読んでいただき本当にありがとうございました。
初めて書いた話を多くの方に読んでいただけてとても嬉しかったです。

また、昨日より新しい話を始めました。
よろしければこちらにもおつき合いいただけますと大変嬉しく思います。

タイトル↓
『先視の王女の謀(さきみのおうじょのはかりごと)』

尚、他にも以下の話を公開しております。
こちらはすでに完結済ですので、ご興味を持ってくださった方がいらっしゃいましたらよろしくお願いいたします。

タイトル↓
『転生した悪役令嬢の断罪』
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

もう演じなくて結構です

梨丸
恋愛
侯爵令嬢セリーヌは最愛の婚約者が自分のことを愛していないことに気づく。 愛しの婚約者様、もう婚約者を演じなくて結構です。 11/5HOTランキング入りしました。ありがとうございます。   感想などいただけると、嬉しいです。 11/14 完結いたしました。 11/16 完結小説ランキング総合8位、恋愛部門4位ありがとうございます。

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

離婚した彼女は死ぬことにした

はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。

【完結】愛してました、たぶん   

たろ
恋愛
「愛してる」 「わたしも貴方を愛しているわ」 ・・・・・ 「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」 「いつまで待っていればいいの?」 二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。 木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。  抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。 夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。 そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。 大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。 「愛してる」 「わたしも貴方を愛しているわ」 ・・・・・ 「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」 「いつまで待っていればいいの?」 二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。 木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。  抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。 夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。 そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。 大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。

あなたに嘘を一つ、つきました

小蝶
恋愛
 ユカリナは夫ディランと政略結婚して5年がたつ。まだまだ戦乱の世にあるこの国の騎士である夫は、今日も戦地で命をかけて戦っているはずだった。彼が戦地に赴いて3年。まだ戦争は終わっていないが、勝利と言う戦況が見えてきたと噂される頃、夫は帰って来た。隣に可愛らしい女性をつれて。そして私には何も告げぬまま、3日後には結婚式を挙げた。第2夫人となったシェリーを寵愛する夫。だから、私は愛するあなたに嘘を一つ、つきました…  最後の方にしか主人公目線がない迷作となりました。読みづらかったらご指摘ください。今さらどうにもなりませんが、努力します(`・ω・́)ゞ

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

裏切られ殺されたわたし。生まれ変わったわたしは今度こそ幸せになりたい。

たろ
恋愛
大好きな貴方はわたしを裏切り、そして殺されました。 次の人生では幸せになりたい。 前世を思い出したわたしには嫌悪しかない。もう貴方の愛はいらないから!! 自分が王妃だったこと。どんなに国王を愛していたか思い出すと胸が苦しくなる。でももう前世のことは忘れる。 そして元彼のことも。 現代と夢の中の前世の話が進行していきます。

処理中です...