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第2章 迷当の反乱
第14話 烈女
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涙ながらに喚く張彩を、張敬は叱ろうとはしなかった。
再び、劉禅は声を掛ける。誰よりも慈愛と優しさに満ちた、深い、深い声をしている。
「流石に天下一の猛将、張飛将軍の娘である。その言葉を、父帝も、張飛将軍も、嬉しく思いながら聞いているであろう。ただ、張彩、朕らも同じなのだ。そなたが危険を犯す姿なぞ見たくない。それも分かって欲しい、互いに同じ思いなのだと」
「でも、でも、私は……」
「董先生」
劉禅に急に名を呼ばれ、董允は慌てて傍に駆け寄った。
「かつての孫皇太后の如く、張彩に武器を部屋に入れる事を許可させよ。されど、兵の指揮権、部屋の外に武具を持ち出すことは一切許さん。後宮の、他の者達の不安に繋がる」
「されど、陛下の身に危険が及びまする。張彩様に害意が例え無くとも、悪用する者が出てくるやもしれません。孫皇后の時も、諸葛丞相が大変な苦労をなさっておりました」
「黄皓の使いがおる、後宮で異変があればすぐに分かる」
男子禁制である後宮の詳しい事情や仕来りについては、董允は詳しいことが分からない。後宮は宦官が管理し、それらを統べるのが黄皓であった。
董允は顔を苦くしかめ、黄皓こそ信用ならないと言いたげな目をしている。しかし劉禅以外に、張彩の振る舞いを抑えられる者は居ないのだ。ここは、頷くしかなかった。
「黄皓よ」
「はい」
「宦官の中に、武芸に秀でたものはどれほど居る」
「およそ、二、三十ほど。張彩様に適うような者は、五人、居るかどうかでしょうな」
「お前はどうだ?」
「ほっほっほ、陛下に負けている内は、この爺には敵いますまい」
「張彩をお前に勝てるまで鍛えよ。そうすれば、戦に出す事も考える」
かつて、魏に「王異」という烈女がいた。かつての蜀漢を代表する、五人の大将軍内の一人「馬超」を戦において散々に破った、苛烈な人生を歩んできた女性である。
戦場で女性が矛を振るうというのは、既に前例がある。決して無謀な話でもないのだ。
「張彩、女が戦場に出るというのは、それ程甘い話では無いぞ。死にたくても、死なせてくれない、そのような地獄さえ味わうやもしれん。その覚悟があるのであれば、この爺に勝ってみろ。そうすれば戦場に出す事も考えよう。言っておくが黄皓は、並の手練れではないぞ」
「陛下の最も傍に仕える者として、この老骨の全ては陛下の為に御座います」
一見、ただの老いた宦官である。
見れば見るほどに不気味な、底知れない力を持っているようにも見えた。
そういえば、これほどまでに正体が分からない人間も居ない。劉禅が生まれた頃より、この宦官は既に老いていた。それから全く、外見に変化が無いのだ。素性さえもよく分からない。
武人としての張彩の本能が告げている。今の自分では決して、この黄皓には勝てないであろうと。
「兄様、私は、強くなりたい。絶対に勝って見せるから。女が戦場に出る意味も分かってる。常に、自決の覚悟もある」
「死ぬ事だけは禁ずる。朕は、もう誰にも死んでほしくない」
張彩は地に頭をつけて、劉禅に拝礼をした。
もう既に、涙は止まっていた。
再び、劉禅は声を掛ける。誰よりも慈愛と優しさに満ちた、深い、深い声をしている。
「流石に天下一の猛将、張飛将軍の娘である。その言葉を、父帝も、張飛将軍も、嬉しく思いながら聞いているであろう。ただ、張彩、朕らも同じなのだ。そなたが危険を犯す姿なぞ見たくない。それも分かって欲しい、互いに同じ思いなのだと」
「でも、でも、私は……」
「董先生」
劉禅に急に名を呼ばれ、董允は慌てて傍に駆け寄った。
「かつての孫皇太后の如く、張彩に武器を部屋に入れる事を許可させよ。されど、兵の指揮権、部屋の外に武具を持ち出すことは一切許さん。後宮の、他の者達の不安に繋がる」
「されど、陛下の身に危険が及びまする。張彩様に害意が例え無くとも、悪用する者が出てくるやもしれません。孫皇后の時も、諸葛丞相が大変な苦労をなさっておりました」
「黄皓の使いがおる、後宮で異変があればすぐに分かる」
男子禁制である後宮の詳しい事情や仕来りについては、董允は詳しいことが分からない。後宮は宦官が管理し、それらを統べるのが黄皓であった。
董允は顔を苦くしかめ、黄皓こそ信用ならないと言いたげな目をしている。しかし劉禅以外に、張彩の振る舞いを抑えられる者は居ないのだ。ここは、頷くしかなかった。
「黄皓よ」
「はい」
「宦官の中に、武芸に秀でたものはどれほど居る」
「およそ、二、三十ほど。張彩様に適うような者は、五人、居るかどうかでしょうな」
「お前はどうだ?」
「ほっほっほ、陛下に負けている内は、この爺には敵いますまい」
「張彩をお前に勝てるまで鍛えよ。そうすれば、戦に出す事も考える」
かつて、魏に「王異」という烈女がいた。かつての蜀漢を代表する、五人の大将軍内の一人「馬超」を戦において散々に破った、苛烈な人生を歩んできた女性である。
戦場で女性が矛を振るうというのは、既に前例がある。決して無謀な話でもないのだ。
「張彩、女が戦場に出るというのは、それ程甘い話では無いぞ。死にたくても、死なせてくれない、そのような地獄さえ味わうやもしれん。その覚悟があるのであれば、この爺に勝ってみろ。そうすれば戦場に出す事も考えよう。言っておくが黄皓は、並の手練れではないぞ」
「陛下の最も傍に仕える者として、この老骨の全ては陛下の為に御座います」
一見、ただの老いた宦官である。
見れば見るほどに不気味な、底知れない力を持っているようにも見えた。
そういえば、これほどまでに正体が分からない人間も居ない。劉禅が生まれた頃より、この宦官は既に老いていた。それから全く、外見に変化が無いのだ。素性さえもよく分からない。
武人としての張彩の本能が告げている。今の自分では決して、この黄皓には勝てないであろうと。
「兄様、私は、強くなりたい。絶対に勝って見せるから。女が戦場に出る意味も分かってる。常に、自決の覚悟もある」
「死ぬ事だけは禁ずる。朕は、もう誰にも死んでほしくない」
張彩は地に頭をつけて、劉禅に拝礼をした。
もう既に、涙は止まっていた。
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