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「ポーン(兵士)」

「PAWN」6

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カステル・デル・モンテの西側の2つの塔の上には、それぞれ渡房太郎わたりぼうたろうとゲルが立った。
五行で西といえば、金…白虎だ…
金の神は、未だに女性の姿のまま、2丁の大砲を楽々と持ち上げ、砲撃した。
白虎のイメージの名残か、白の長髪に一定の間隔を開け横に黒い線が入っている。
とはいえ、「ナイト」「ルーク」での情報がまるで役に立たない…とまではいかない。
火薬の入っていない金属の塊…元々、金属を操れる金の神には形だけの武器だ…
巨大な虎のときもそうだが、これを使っているときはまだ相手をナメてかかっているとき…
ゲルには金の神の能力を既に伝えてあったため、それまでの金属プレートなどではなく「ルーク」終盤で使った木製プレートは用意させてある…
ここからは机上の空論…本来なら神と戦う前に一度試したかった…
ただ、これまで構想のみの設定やデザインすらしていない姿の敵が登場したことを考えると、実現する可能性は高い…
「VANE」のスフィンクス戦でのミスだ…
ホワイトベーンを身に付けていた渡房太郎の素早さを描くため、残像という手を使っていた。いつもは読者には残像とわかるように、片方の像は少しボヤけたように描く上、よく見ると身体のどこかが背景に透けているのだが、この戦いでは、3体とも実体のように描いてしまった。
SNSなどでも、「これは残像というより分身www」「まさか、房太郎が服部半蔵化するとは(違」「みんなもちつけ!きっと最初から三つ子だったんだ!」などと書かれたものだ…
「SAME」「ナイト」「鬼火」での同時連載から開けたとはいえ、なかなか体調が戻らず入退院が続いたのだから仕方ないが…
話題性もあったため、あえて修正もせずにいた。そのためか、後々の渡房太郎の演出も含めて「時間移動していたのではないか」と推測されるようになっていった。私もそれを受け、たまに時間移動しているかもしれない演出をしていった。
今回、渡房太郎には、その分身をやってもらう…
ホワイトベーンにより、刹那的に光速を超え、数秒間だけ前に時間移動する…
水の神ならともかく、時間操作を感知できない金の神にはその攻撃を防ぐことはできない…
渡房太郎が、木製プレートを金の神に刺し、その能力を吸いとっていく…

***

私の話を聞いたフリードリヒ2世は、縛られているというのに、余裕にしか見えない表情でこちらを見て笑った。
「ご老人!面白い話をありがとう!こちらもそれに答えよう!」
これで、フリードリヒ2世に神の事を伝えた存在が、土の神であれば、正体まで直結するのだが…まあ、さすがにそんな足がつくようなことはしないか…
「神の話をしたのは…貴方ですよ、ご老人!」
…いやおかしい!
さすがに、一瞬、脳がフリーズした。
「あり得ないとお思いか?ならば、尋ねよう!貴方は睡眠中までも記憶があるのか?ましてや、貴方の話では、西暦2027年から神西暦762年こと西暦1989年に移動したときに気を失っていたはず…」
私は、フリードリヒ2世に、本来の歴史のフリードリヒ2世についてしか話していない…何故、私の事情を知っている?
「貴方は、西暦2027年から神西暦元年へと跳んでいた。そして、木の神・火の神・水の神・金の神に指令を出しこの世界の地形や理を変え、私に神という存在について伝えると、私に、神に成り代わる方法を伝えられた…」
記憶に無いが…時間を超えられる以上、一度過去に行っていてもおかしくはないのか?
いや、過去に行っていてもおかしくはないが、どこかがひっかかる…
「貴方は、土の神であり、かつてこの世界を創造した神…」
確かに、土の神は4神の全ての能力を持った存在…私が時間を移動できたことにも説明はつく…だが…しかし…
もし仮に…私が土の神とした場合、フリードリヒ2世を「ポーン(兵士)」の主人公として、その拘束から解放し大人しく討たれれば全ては終わる…のか?
そう考えながら、私はゆっくりとフリードリヒ2世の縄へ手を伸ばした。
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