想い紡ぐ旅人

加瀬優妃

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64.絶対にここで終わらせる!

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 カンゼルの書斎とおぼしき場所。地下への入口みたいなものを発見した私とユウは、顔を見合わせて頷いた。
 早く追いかけなくては。本当に最終兵器的なものを隠しているのかもしれない。

「……おい!」
「きゃあ!」
「うわっ……!」
 
 急に背後から夜斗が現れ、私たちは驚きすぎて尻餅をついた。

「何だ? どうなってる?」
「カンゼルがディゲの少年二人とこの通路から逃げたの。今から追いかけるわ」

 地下の通路を指差しながら、夜斗に言う。ユウがそれを受け
「俺たちは北東から侵入してここまで来た」
と身振り手振りを交えながら経路を説明した。

「わかった。南エリアはまだなんだな」
「ああ。それで夜斗は、この要塞から誰も出さないように抑えてくれ。いるとしたら普通の兵士と、子供のディゲだ。やり方は任せる」
「了解。ここを抑えたら後を追いかける。サンは?」
「ここから口笛が届く範囲で待っているはずだ。夜斗も呼べるよな?」
「ああ」
「じゃね!」

 私たちは夜斗と別れると、隠し通路にするりと身を潜ませた。
 確かに、カンゼルと少年たちが通った気配がする。
 入口は狭かったが、入ってしまうと思ったより広かった。
 ユウは再び私を抱え上げると、全速力で走り始めた。
 長い、暗い通路……。ところどころ、ほのかな明かりが灯っている。
 ……これも、捕らえたフィラの人間に作らせたものだろうか。

 しばらく進むと、行き止まりだった。天井に、四角い蓋のようなものがあるが、押し上げようとしても開かない。

「朝日、ちょっと離れてて」

 ユウは私を下ろすと蓋に手をかけた。
 方向から考えると、エルトラへの侵入経路ではない。キエラの大地のどこかに出るはず。上に岩か何かを乗せているのかもしれない。

「……!」

 ユウが自分の手から力を放った。凄い勢いで蓋が飛んで行く。テスラの白い空が見えた。

「よし、行くぞ」

 私たちは通路から上がり、外に出た。暗い地下から急に眩しい場所に出たから、目が眩む。
 少し落ち着いてから辺りを見渡すと……正面に、あの北東の遺跡が見えていた。
 後ろを振り返ると、キエラの要塞。ただ何か霧のようなものに包まれている。私たちが侵入したときには無かったものだ。

「……夜斗の幻惑だな」

 ユウがボソッと言った。
 夜斗は夜斗で、ちゃんと役目を果たしている。
 後は、私たちが……カンゼルを倒さなくてはならない。

「カンゼルは、あの遺跡ね」
「そうだな」

 外で風に晒されてしまって気配は分からないが、他に行く場所はないだろう。
 私たちは走り出した。

 すると、遺跡のすぐ前でさっき会った二人の少年が倒れているのを見つけた。

「何? どういうこと?」

 警戒しながら近づく。

「死んではいない。多分、気絶している」
「フェル切れ?」
「何をしたのかは分からないが、そうだな。瞬間移動してからすぐにカンゼルをここに連れてきた。それぐらいで切れるとも思えないが……」

 辺りを見回してみる。
 岩と砂だらけの大地に、崩れかけた城壁がある。
 その奥には、同じく崩れかけた塔と闘技場のようなものが見えた。
 カンゼルは城壁の割れた隙間から入ったようだ。

「……行くか」
「うん」 

 私たちは少し緊張しながら、城壁に足を踏み入れた。


 中に入ると、所々崩れてはいるものの城の中庭のような、そんな横に広い場所に出た。
 左側は塔に続いている。右側は闘技場のような、丸い広い空間。地面はボコボコで、茶色い土があちらこちら掘り返したようになっていた。

 気配を殺して様子を伺ったけど、闘技場からは人の気配がしない。多分、塔に上ったんだ。

「……」

 私とユウは顔を見合せると、左側の塔の方に向かった。
 塔の中に入ると長い螺旋階段が上まで続いていて、所々に扉がついている。
 この中のどこかに、カンゼルがいるのか……。

 私たちは注意しながら階段を上り始めた。
 途中の、どの扉からもカンゼルの気配はしない。
 とすると……最後の扉の、向こう。恐らくは、この塔の一番上。
 いったいここに、何があるのだろう……。

 私たちは最後の扉の前に立った。
 この奥に、カンゼルはいるはず。だけど開けた瞬間、何かが飛び出してくるかもしれない。

「でも、開けるしかないからな」

 そう言うと、ユウは扉を開け……ようとして、そのまま扉ごと吹き飛ばされた。

「ユウ!」

 私は暁を置いて慌てて扉があった場所に飛び込んだ。その瞬間、凄まじい威力のフェルが私に襲い掛かる。
 攻撃の気配なんて全くしなかったのに……どうして!
 しかも、この圧倒的な力……!
 今まで感じたことのない……。吸収するとは言っても、圧力だけで飛ばされそうなほどの威力。
 必死に踏ん張り、体全体で受け止める。

「あ、あ、あ、ああああーっ!」

 眩しすぎて見えないけど、前方から少年の絞り出すような叫び声が聞こえてくる。

「ジュリアン! それ以上は無駄だ。やめろ!」

 太い男の声が聞こえた。恐らくカンゼルだ。
 それと同時に、衝撃波がピタリと止んだ。

「うっ……」

 私は思わず跪いた。ガクリと膝をつく。
 すべて吸収はできた。どこかに怪我を負った訳ではないが、とてつもない圧力だった。立ちはだかってすべて受け止めたために肩や腕、腰や足が強張っている。まるで、マラソンを走り終えたぐらい筋肉が疲れていた。

「わあぁー! ぎゃあぁーっ!」

 暁が火が付いたように泣き出した。私は籠に向かって小さく指を鳴らした。

「あうう……。ううぅ……」

 暁はまだ泣いていたが……防御ガードをしたようだ。

「ふん、本当に効かないのだな。わが目を疑うぞ」
「この……クソじじい!」

 私は顔だけ上げ、思い切り二人を睨みつけた。
 顔中髭だらけの老人……カンゼル。
 そして、その隣には……10歳ぐらいの無表情な少年。
 さっき唸り声を上げて攻撃していた人間と同一人物のはずだけど……今は、何の殺気も感じない。

 私は自分の目を疑った。
 ゆっくりと立ち上がり……壊れた入口からおそるおそる外に出る。
 やたら綺麗な顔をした少年の瞳は、どこも見てはいない。ただぼんやりとしているだけのようにも思える。

 この少年が、さっきの攻撃を放ったの? そんな力を……この少年が?
 それに……この少年は、誰かに似て……。

「……!」
「ふん、気づいたか」

 カンゼルが自慢げに呟いた。

「ユウに……似ている」
「な……に……」

 吹き飛ばされたユウが背後から現れた。

「ユウ! 大丈夫?」
「何とか……最初の一撃は食らったけど、あとは朝日が抑えてくれたから……」

 ユウが鳩尾辺りを抑えて顔を歪ませている。そして自分を攻撃した少年を見ると、言葉を失った。

「な……お……」
「ふふん。わたしの最高傑作だ。どうだ、自分の失くした片割れに出会った気分は?」

 カンゼルは楽しげに言った。
 こっちが弱っているときに叩き潰せばいいのに……こういう自分を誇示したがるところが、この男の駄目なところなんだわ。

(ユウ、少し休んで。時間を稼ぐわ)

 私はそう小声で言ってショックを受けた振りをして座り込んだ。
 ユウも私の言わんとしていることがわかったのか、よろよろとオーバーに跪くと、私の膝に俯せに倒れた。
 今はユウの体力を回復させたい。それに、カンゼルが話す内容にも興味がある。
 私はユウの体を支え……精一杯フェルを送りながら、カンゼルを睨みつけた。

「どういうことなの? どうして……ユウとそんなに似ているの?」
「片割れだと言ったろうが……。わからんのか?」

 こいつ……人をイラつかせる天才だな。
 だけど、今は我慢、我慢。

「そこのくたばっている少年が、どうやって復活したのか……恐らくもう知っているのだろう?」
「キエラの……あなた・・・が発明したガラスの棺のおかげだとは聞いたけど」

 あなた、の部分をやや強調して言う。カンゼルが満足そうに笑った。

「そうだ……。わたしの・・・・発明だ。そのときその赤ん坊はどういう状態だったか、知っているか?」
「身体の三分の一が吹き飛んで、再生に3年かかっ……」

 そこまで言って、私は思わず唾を飲み込んだ。

 フェルティガエは自分の体を再生できる。
 それは、ひょっとして……体のほんの一部さえあれば、可能という意味なの?
 私がまじまじとカンゼルを見ると、カンゼルが嫌な笑みを浮かべた。

「そうだ。その三分の一……そこから再生されたのが、このジュリアンだ」
「……!」
「十年、かかったがな」

 なんて、こと……。
 ユウのことなんて……そして他のフェルティガエも、研究材料としか思ってないんだ。
 なんて酷いことをするの……!

「十年以上を費やし、神の力を以て洗脳し……私の言うことだけを聞く強力な兵器として育て上げた。わたしの最高傑作だ!」

 カンゼルが辺りに響くような声で大笑いした。
 胸糞悪い。ドロドロした真っ黒な、闇……。そんな声。

 パパは知らなかったんだ。パパがいなくなってから、再生されたから。
 そして、そんな研究をカンゼルがしていたことも……。

「あんたが私の祖父だと思うと、とても気分が悪いわ」
「ほう……?」

 カンゼルが片方の眉を少し吊り上げた。

「そう言えばそうだな。孫だったか。お前の方が、ヒールよりよっぽどわたしに似ているかもしれんな。――ヒールは、どうした?」
「……死んだわよ。あんたから、私たちを守るために……」
「ふん……。で、お前たちはその仇を討ちに来た訳だ。自分の子供をこんなところに連れてきてまで……ご苦労なことだな」
「……!」

 私はギクリとした。
 暁の泣き声は聞こえたから、どこかにいるのはわかっているだろう。
 でも、入口の陰に隠していたし……何より、私の子供なんて言っていないのに。
 なぜ知っているの?

「どうやら図星のようだな。女王の完全防御クイヴェリュンが揺らいだとき、赤ん坊の泣き声が聞こえたと報告を受けてな。女王の力に干渉できる――そんな子供、お前たちの子供としか考えられんだろうが」

 こいつは本当に頭が回るんだわ。そして、この狂気……。
 絶対、これ以上好きにさせる訳にはいかない!

 私は倒れているユウの肩を、ギュッと握った。
 それに気づいたユウが……同じく私の手をギュッと掴んだのが、わかった。
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