最強と言われてたのに蓋を開けたら超難度不遇職

鎌霧

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5章

140話 対人の心得

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 あ、そういえば犬野郎の奴を使って堂々と表で取引させるってのを忘れていた。
 それでもやろうと思っていたのは、あまりにも取引が無い場合の手段だったし、一応二人顧客を掴んだわけだから贅沢言うのはやめよう。

 それにしても此処からどうするかって話だが、とりあえず自分の畑に行ってジャガイモに水やってから硝石丘掘り返してみるか。
 さっさとガンナーギルド見つけて銃弾買える様にしないとなあ……そしたらこの延々と繰り返す硝石稼ぎもなくなる……わけではないな、結局硝酸作るのに必要になるから、其れ関係の物を作る時にずっといるわ。
 どっかにチリ硝石みたいな自然に採掘出来る所欲しい、確か乾燥地帯にあるとか聞いたけど、その他自然に発生する条件ってよくわからん。

「って言うかあんた私の自宅に住んでるけど、他の事してんの?」
「どうした急に」

 相変わらず楽しそうに酒造して、木工で樽を作っている髭親父を見つけてため息交じりに吐露する。別にこのゲームで何をしようが、他プレイヤーや運営に迷惑を掛けなければそれは自由ってのは分かる。狩るの疲れるしとりあえずログインしてだらだら会話するだけとかもあるし、そこは本人の遊び方だが。

 だとしても私の自宅に住み着きすぎじゃねえのか、自分の畑とかどうしてるんだって話にもなる。

「レベリングとか、稼ぎとか色々あるじゃない」
「最初は楽しかったんだが、好きな物作って楽しむ方が長続きするからな、今の所レベリングも必要がない、だったら楽しんで酒造なり出来る此処に入り浸りになるだろ?」
「そういう物かしらねえ……って言うか木工と鍛冶出来るんだったら庭の空きスペースに机と椅子くらい作ってくつろげるスペースでも作んなさいよ」
「ふむ、それもいいな……何だったら儂の畑もこっちに移したいくらいだ」
「つーか畑20面はもう使い切ったから拡張できないっての」
「農業ギルドのレベルを上げたら耕地面積は増やせるだろう?」

 そういえばそんなシステムがあったな。
 よくよく考えれば、ファーマーガチ勢の連中なら効率化とかが進んで行くと農地拡大をしたくなるに決まっている。20面ってファーマーが頑張れば結構すぐにL畑で埋めれるし、ちょっと考えれば増やさないって選択肢が運営的にはないわな。
 問題はどのレベルまで上げて、どのくらい増やせれるのかって話になるわけだが。

「広げるのは今後次第ねえ……ってか知ってるって事は20面以上もってるんじゃない」
「まあな、ただL畑全面ではないからな」

 なんかどや顔してくるの引っぱたきたくなるわ。

「どっちにしろ私は私で使うからダメよ、転移だけなら私の自宅から直で自分の畑いけるんでないの?」
「そりゃのう、こっちと向こうを反復横跳びしとるだけだ」

 だったら自前で家とか酒とか作れるやん……とは言わないでおく。数少ないクラン員のうえに専属でやってくれているわけだから、自宅でやれる事はなるべくかなえてやるのがボスという物だな。



「そういえば次のイベントまでに酒は量産できるぞ」
「何それ」
「……公式見てないのか?」
「だってずっとログインしてゲームしてるから、公式なんて大型アプデとか致命的なバグ修正くらいしかチェックしないわよ」

 これだからと言った顔をしてから、片手で自分の頭を分かりやすく抱えている。そもそも常に公式チェックしてるとかそれはそれでどうなのよ。
 ゲームのアップデートの曜日とかは確かに確実にチェックはするけどさ、MMOの大型アップデートって言うほど頻度多くないだろ?
 これがアクションゲームとか格ゲーとかの対戦物なら都度修正があったり、追加があったりは更新の速い物もあるからわかるが。

「で、イベントってなにすんの」
「対人イベントだと書いてあったな、流行りのバトロワ系でもやるんじゃないのか」
「バトロワねえ……」
「何だ、好きじゃないのか?」
「いいやー?新作はとりあえず触ったりするし、スマホ、PC、コンシューマーでもやるけど、微妙っちゃ微妙なのよねえ」

 八つ当たり樽に腰かけてからメニューを開いて、ゲームのお知らせを見れる部分を確認していく。
 確かに対人イベントを開催するらしい、内容は髭親父の言っていた通りバトロワ系、悪くはないんだが、バランス調整とかどうするんだよって話になる。
 こういう対戦物をやる際に大事なのは公平性になってくる。対戦物に付きまとってくる1強武器とかキャラとかがいい例だな。
 そもそもこういうゲームと相性が悪いのに何でやりたがるのかね。

「バランスが劣悪なのを楽しむ物もあるけど、この手のゲームとはあんましなのよね」
「モンスター相手だけもつまらんからだろう?」
「まあ、やりたい気持ちとか言いたい気持ちは分かるが。職業とステ、レベル差とかをどういうバランスでどうやってやるのかって思うのよ」

 考え込みつつ一つずつ整理していく。別に対人が嫌いって訳ではないが、バランスの悪いゲームは嫌いだ。

「装備とステとアイテムはどうするのかーってのもあるし、そもそもこの手のゲームで遠距離職が強いってのは定番すぎてなあ」

 お知らせのイベント概要とかを確認しつつ、バランス悪いだろと零しつつ考え込む。
 いや、イベントするのはいいけど、対人じゃないゲームでの対人って受けが悪い場合が多いし、これで参加してない人が不利益を被るならそれはそれで問題でしょ。

「それでも不利だとしても、対人ってある程度のラインは何となくと経験と勘で行けるのよ、その後はシステムと環境を理解、その次はもうセンスよ」
「下手の横好きとかもいるだろうに」
「確かに『やっていて楽しい』ってのは大事だわ、モチベーションもあるしね、ただそれはソロだけのゲームの話なのよ」
「別にやっていれば楽しいんじゃないのか?」

 これだからという様に大きくため息を吐き出して煙草に火を付けて咥える。
 
「本人だけならいくら負けようが何しようがいいのよ、そりゃてめえの責任って訳だし、システム的に悪い事をしてなければね」
「今回は個人戦だからその横好きの連中も」
「んー……個人とクランみたいね」

 開きっぱなしのお知らせを確認しつつどっちで参加するかを考える。これ参加人数の上限が参加者全員だったらやばいわ。マップの広さとか特設マップ使うのかもあるな。
 正直な所、ゲームイベントとしてのハードル自体はかなり上がっている。

「クラン参加で大々的に名前の宣伝がベターかなあ」
「儂は対人が苦手だ」
「まあ、やるってなったら私だけで行くわ」

 可能ならそれで勝ちを得て、大々的に名前が出た所で『どーん!』と私の妨害行動をしてきた奴にギロチンを落としてやれる。
 正直な所、これだけの為に参加しようと思っているくらいだ。それ以外の物で期待する所はあんましない。

「流石に1対多じゃ勝ち目は少なくないか?」
「んー……出来なくはないけど、大分難しいって所かしら」
「どうするんだ?」
「まー、もうちょっと詳しいのが出ないと何とも言えないけど……でかい所とか強い所って目の敵にされる場合が多いから、そこの漁夫に乗るのが一番かなぁ。大体は淘汰されて大手の数クランに絞られるから、後はそこでちょっかい出していい具合に削って最後の勝ち馬に乗るってとこかしら」

 ざっくりとお知らせを読み切ってからメニューを閉じる。
 日程的には近日なので土日に合わせるか、平日夜~深夜前くらいで開催するんだろう。
 今回に関しては前回のイベントの様にある程度の調査とか謎解き、ではないが足で情報を稼いで順繰りクリアしていくタイプではないし、一発勝負だろう。

「本当は?」
「集団で動いてる所に火炎瓶投げ付けて燃やしてやるとこ見たい」
「下衆か!」
「そういうのは良いとしても、対人は色々あるのよ。人数が少ない分立ち回り方も変わるし、ゲームのルールによっちゃ単純に通用しないってのもあるかもしれんし」

 ぷかっと紫煙の輪を吐き出して一息つきながら大分まったりとした時間を堪能している。

「T2Wはステ振りで基本の動きに+αって形だから、リアルの年齢とか体格は関係ないし、それこそ経験と立ち回りとセンスじゃないかしらねぇ」
「そこは自信あるのか」
「そりゃねー……ビックタイトルのFPSで世界ランク500以内だったって経験はあるし」
「てっきり1位だと思っておったが」
「そのゲームだけ物凄い集中してやれば上がったんじゃないかしらねぇ、そもそもランクより私は勝つのが大事だし、今回のイベントもその『勝ち』の為の一部よ」

 吸い切った煙草をぷっと捨てて、樽から降りてぐいーっと伸び一つ。そろそろ疲れてきたし、一旦ログアウトしてリフレッシュするかな。

「何にせよ対人って色々難しいのよ。一部のプレイヤーが常勝するとか突破できないってなればコンテンツ過疎化するだけで運営としては癌にしかならないわ」
「儂とばっかり話してるわりに色々考えてるな」
「居候なんだから暇つぶしくらい付き合いなさいよ」

 じゃあ、何をすれば?という顔をしたのでジャガイモ畑を指さし、収穫手伝えと言う顔をしてやると、ため息交じりに樽を作る手を止めて収穫を始める。
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