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攻略メモを書こうとして手が止まる
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部屋の灯りは、柔らかかった。
寝台の横に置かれた小さな机。
そこに置かれたランプの光が、紙の上をあたたかく照らしている。
夜の静けさは、学園とはまるで別の世界みたいで、耳がきんとするほど澄んでいた。
カレンは、深く息を吸ってから、ペンを握った。
(……よし)
まずは、整理。
混乱している時ほど、文字にするのが一番いい。
白紙に、勢いよく書き始める。
――――――――
【花咲くマジカル学園】
・乙女ゲーム
・私はヒロイン枠
・最推し:エルンスト(筋肉)
・現在:ベルンハルトと交際中(※結婚前提)
――――――――
……日本語だ。
完全に、前世の私の文字。
丸みも癖も、今のこの世界の教育とはまるで違う。
(うわ……懐かし……)
思わず苦笑する。
続けて、箇条書き。
・今日、学園の正門でBGMが鳴った
・記憶が一気に戻った
・でも時系列が変
・選択肢が出ない
・すでに恋人
・しかも結婚前提
(重っ……)
ペン先が止まる。
(……待って)
ここで、違和感がひとつ。
(結婚前提、って……)
前世の感覚だと、かなり終盤だ。
好感度MAX。
ほぼエンディング直前。
なのに、私はまだ二年生で、学園生活は続いている。
(……おかしくない?)
カレンは、ペンを置いた。
ふと、引き出しの奥にしまってあった、小さな日記帳を取り出す。
昨日までの――前世を思い出す前の、カレンの日記。
表紙は淡い色。
丁寧に扱われていた跡がある。
(……昨日までの、私)
そっと、ページをめくる。
――――――――
今日はベルンハルトと一緒に図書館へ。
難しい理論の話をしている時の横顔が好き。
ちゃんと聞こうとしてくれるところも、好き。
――――――――
胸が、きゅっとなる。
――――――――
放課後、少しだけ一緒に歩いた。
人目を気にして距離はあったけど、
それでも並んでいるだけで落ち着いた。
――――――――
(……私)
ページをめくる指が、自然と早くなる。
――――――――
今日は、ちゃんと想いを伝えた。
怖かったけど、逃げたくなかった。
ベルンハルトが真剣な目で、
「未来の話をしてもいいか」と言ってくれた。
――――――――
ここで、日記は終わっていた。
昨日。
ちょうど、想いを伝え合った日のところで。
(……ある)
胸の内側に、確かにある。
ベルンハルトを想う気持ち。
安心。
信頼。
触れられてもいいと思える距離。
(嘘じゃない……)
昨日までの私は、ちゃんと彼を好きだった。
それは、今の私が読んでも分かるほど、まっすぐな文字だった。
なのに。
(なのに……)
前世の私が、頭の中で騒ぎ出す。
〈待って待って!〉
〈これ、完全にベルンハルトルート確定じゃん!?〉
〈エルンストどこ!?〉
〈推しを拝む予定だったんだけど!?〉
(うるさい……!)
思わず、日記を胸に抱きしめる。
(わかってるよ!)
前世の私は、ゲームを知っている。
ルートも、分岐も、エンディングも。
でも――
(ここは、現実だって……)
今の私は、画面の外じゃない。
感情は数値じゃない。
好感度ゲージも見えない。
ベルンハルトの声。
手の温度。
馬車の中で、髪に触れた感触。
(……残ってる)
触れられた場所が、
まだ、ほんのりあたたかい気がする。
(嫌じゃ、なかった……)
それどころか。
(……ちょっと、ドキドキした……)
そこへ、前世の私が割り込んでくる。
〈それはそれ!これはこれ!〉
〈現実でドキドキするのと、推しは別枠!〉
〈ルート変更、まだいけるって!〉
(……ほんとに?)
カレンは、もう一度、攻略メモに目を落とす。
書きかけの文字。
止まったペン。
(私……まだ“選べる”って思ってる)
でも、日記の中の私は、
もう選んでいた。
逃げずに。
迷いながらでも。
(……ズレてる)
前世の私と、今の私。
同じ“私”なのに、立っている場所が違う。
(どうしたらいいんだろ……)
答えは出ない。
ランプの火が、静かに揺れる。
その揺れを見つめながら、
カレンは日記をそっと閉じた。
(……今日は、ここまで)
攻略メモは、途中のまま。
答えも、保留。
ただひとつ、はっきりしているのは――
(ベルンハルトを、傷つけたくない)
それだけは、
前世の私も、今の私も、同じだった。
ベッドに横になり、
天井を見つめる。
目を閉じる直前、
灰色の瞳が浮かんだ。
(……明日)
明日は、きっと――
今日よりも、少しだけ近い。
それが、安心なのか。
それとも、不穏なのか。
まだ、分からないまま。
寝台の横に置かれた小さな机。
そこに置かれたランプの光が、紙の上をあたたかく照らしている。
夜の静けさは、学園とはまるで別の世界みたいで、耳がきんとするほど澄んでいた。
カレンは、深く息を吸ってから、ペンを握った。
(……よし)
まずは、整理。
混乱している時ほど、文字にするのが一番いい。
白紙に、勢いよく書き始める。
――――――――
【花咲くマジカル学園】
・乙女ゲーム
・私はヒロイン枠
・最推し:エルンスト(筋肉)
・現在:ベルンハルトと交際中(※結婚前提)
――――――――
……日本語だ。
完全に、前世の私の文字。
丸みも癖も、今のこの世界の教育とはまるで違う。
(うわ……懐かし……)
思わず苦笑する。
続けて、箇条書き。
・今日、学園の正門でBGMが鳴った
・記憶が一気に戻った
・でも時系列が変
・選択肢が出ない
・すでに恋人
・しかも結婚前提
(重っ……)
ペン先が止まる。
(……待って)
ここで、違和感がひとつ。
(結婚前提、って……)
前世の感覚だと、かなり終盤だ。
好感度MAX。
ほぼエンディング直前。
なのに、私はまだ二年生で、学園生活は続いている。
(……おかしくない?)
カレンは、ペンを置いた。
ふと、引き出しの奥にしまってあった、小さな日記帳を取り出す。
昨日までの――前世を思い出す前の、カレンの日記。
表紙は淡い色。
丁寧に扱われていた跡がある。
(……昨日までの、私)
そっと、ページをめくる。
――――――――
今日はベルンハルトと一緒に図書館へ。
難しい理論の話をしている時の横顔が好き。
ちゃんと聞こうとしてくれるところも、好き。
――――――――
胸が、きゅっとなる。
――――――――
放課後、少しだけ一緒に歩いた。
人目を気にして距離はあったけど、
それでも並んでいるだけで落ち着いた。
――――――――
(……私)
ページをめくる指が、自然と早くなる。
――――――――
今日は、ちゃんと想いを伝えた。
怖かったけど、逃げたくなかった。
ベルンハルトが真剣な目で、
「未来の話をしてもいいか」と言ってくれた。
――――――――
ここで、日記は終わっていた。
昨日。
ちょうど、想いを伝え合った日のところで。
(……ある)
胸の内側に、確かにある。
ベルンハルトを想う気持ち。
安心。
信頼。
触れられてもいいと思える距離。
(嘘じゃない……)
昨日までの私は、ちゃんと彼を好きだった。
それは、今の私が読んでも分かるほど、まっすぐな文字だった。
なのに。
(なのに……)
前世の私が、頭の中で騒ぎ出す。
〈待って待って!〉
〈これ、完全にベルンハルトルート確定じゃん!?〉
〈エルンストどこ!?〉
〈推しを拝む予定だったんだけど!?〉
(うるさい……!)
思わず、日記を胸に抱きしめる。
(わかってるよ!)
前世の私は、ゲームを知っている。
ルートも、分岐も、エンディングも。
でも――
(ここは、現実だって……)
今の私は、画面の外じゃない。
感情は数値じゃない。
好感度ゲージも見えない。
ベルンハルトの声。
手の温度。
馬車の中で、髪に触れた感触。
(……残ってる)
触れられた場所が、
まだ、ほんのりあたたかい気がする。
(嫌じゃ、なかった……)
それどころか。
(……ちょっと、ドキドキした……)
そこへ、前世の私が割り込んでくる。
〈それはそれ!これはこれ!〉
〈現実でドキドキするのと、推しは別枠!〉
〈ルート変更、まだいけるって!〉
(……ほんとに?)
カレンは、もう一度、攻略メモに目を落とす。
書きかけの文字。
止まったペン。
(私……まだ“選べる”って思ってる)
でも、日記の中の私は、
もう選んでいた。
逃げずに。
迷いながらでも。
(……ズレてる)
前世の私と、今の私。
同じ“私”なのに、立っている場所が違う。
(どうしたらいいんだろ……)
答えは出ない。
ランプの火が、静かに揺れる。
その揺れを見つめながら、
カレンは日記をそっと閉じた。
(……今日は、ここまで)
攻略メモは、途中のまま。
答えも、保留。
ただひとつ、はっきりしているのは――
(ベルンハルトを、傷つけたくない)
それだけは、
前世の私も、今の私も、同じだった。
ベッドに横になり、
天井を見つめる。
目を閉じる直前、
灰色の瞳が浮かんだ。
(……明日)
明日は、きっと――
今日よりも、少しだけ近い。
それが、安心なのか。
それとも、不穏なのか。
まだ、分からないまま。
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